2026年6月15日月曜日

《ミニコラム》ジョン・ディクスン・カー B13号船室はいかに改装されたか? 「人間消失テーマ」名作ラジオ・ドラマの映像化: metoLOG : The World of Mystery Movies

《ミニコラム》ジョン・ディクスン・カー B13号船室はいかに改装されたか? 「人間消失テーマ」名作ラジオ・ドラマの映像化: metoLOG : The World of Mystery Movies

《ミニコラム》ジョン・ディクスン・カー B13号船室はいかに改装されたか? 「人間消失テーマ」名作ラジオ・ドラマの映像化

ジョン・ディクスン・カー
B13号船室は いかに改装されたか?
How was cabin B13 renovated?

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「人間消失テーマ」名作ラジオ・ドラマの映像化

《ミニコラム》

 皆様こんにちは。
 めとろんです。
 
 最近、重量感たっぷりの内容が多いとお嘆きの貴兄に。(笑)
 今回は、人間消失テーマの傑作、ジョン・ディクスン・カーのラジオ・ドラマ「B13号船室」の映像化作品について、思いつくところを、気軽に綴っていきたいと思います。


 アン・ブルースターは、結婚したばかりの夫リチャードと、大西洋航路の定期船に乗り込む。「B-13号室」に落ち着く彼らだが、その直後から、夫の姿が消える。驚いて船員たちに確認すると、「B-13号室」は存在しないと言われ、乗船した際にも、夫の姿など、誰も見ていないと証言されるのである。彼は、忽然と消失してしまったのか、それとも、存在自体が彼女の妄想なのか…!
 …と、いうのがカーの名作ラジオ・ドラマ『B13号船室』(創元推理文庫『幽霊射手』所収)の大まかなプロット。

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 この物語は、ベイジル・トムスン『フレイザー夫人の消失』がヒントになったと、カー本人が仰っているとのこと。(北村薫『ミステリ十二か月』中央公論社)
 其処にいたはずの人間が、消える…!何とも、魅力的な「謎」であります。

 さて、そこで、まずは『Dangerous Crossing』(1953)。

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 タイトルを直訳すれば、「危険な航海」か。
 ヒロイン、ルース・スタントン・ボーマンを、『ステート・フェア』(1945)で有名な、麗しのジーン・クレイン(1925–2003)が演じる。アクションで見せる作品でもないので、当時としては露出度高めの、彼女のセクシーな魅力で、強引に押し切ろうという感じもある。(笑) もう一人の主人公、船医のポール・マニング役に、異常にのっぽで細面、『地球の静止する日』(1951)での宇宙人役のオファーも最もな、マイケル・レニー(1909–1971)。

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 特筆すべき豪華客船のセットは、同年の『タイタニックの最期』等、複数の作品で使用された…それだけ使い回さないと、経費を回収できないであろう、特大セットです。(笑)30分のラジオ・ドラマがもとになっているだけあって、何とか約1時間15分に引き延ばすための脚本上の工夫が、いかにも苦し気に施されています。

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 原作においての、夫の消失は開巻20分程度で説明されるのですが、特に冒頭、夫ジョン・ボーマン(演じるはカール・ベッツ1921–1978)がしっかりと登場し、ルースと一緒にB16号(!)船室へといったん入り、これからの旅路の始まりを喜ぶ…という描写があるのです。
 その後、夫が忽然といなくなり、誰も彼を見ていない、知らないと告げられる。
 そして、彼からの数回にわたる電話「ぼくは隠れてる。ぼくらは無茶苦茶危険なんだ、これ以上、何も話せない!」に、ひたすら翻弄されるヒロインと、彼女のつれない対応に、これまた執拗につきまとう(?でも、彼女がいる、あらゆる場所に現れるので…)船医ポールのやり取りが、延々と続く構成になっています。

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 でも、杖をつく謎の紳士の存在や、再三、危険に晒されるヒロインのサスペンス、そして豪華客船クルーズが醸す、ゴージャスな旅情感…。原作の持ち味を長尺ゆえに脚色し、ヒロインと船医の「ロマンティック・サスペンス」へと変換しているところが、意外と悪くないのです。
 ただ、主人公ルースは、窮地に陥ったポジションを差し引いても、かなり激しい性格の女性として描かれ、その身に降りかかる窮地に、観客をして少々、共感し辛くさせてしまっている点が、何とも難しいものだと考えさせられる。

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 演出は、『類人猿ターザン』(1959)、そして、ヒッチコック・アワーでレヴィンソン&リンク脚本による「Dear Uncle George 身の上相談」(1963)を担当した、ジョゼフ・M・ニューマン(1909–2006)。

 対して、TVムーヴィー『Treacherous Crossing』(ビデオ・タイトル『アトランティック殺人事件』 1992)。

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 同じ原作で、『バイオニック・ジェミー』(1976-78)、『過去へ旅した女』('79)のリンゼイ・ワグナーが、ヒロイン、リンジー・トンプソン・ゲイツを演じます。
 原題は、「裏切りの航海」
 ちなみに、今回の船室は、「236号室」です。

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 この作品の特徴はまず、夫であるキース・ゲイツが、開巻からまったく姿を現さない点。
 これは、前作の『バルカン超特急』的な、「主人公を、観客だけは信じられる」設定から、『バニー・レークは行方不明』的な、「主人公すら、観客は信じられない」、不安な宙ぶらりん状態への転換を意味しています。

 さらにリジーを、前夫を殺した容疑をかけられ不起訴になり、自殺を思いとどまった…そして、半年前に精神病院から退院したばかりで不安定(と、船員たちが認識する)…という人物として設定。また、彼女が幾度も、何者かから狙われるという危機的状況は、前作とはまったく異なる神経症的サスペンスの様相を呈しています。

 前作が、ヒロインと夫との関係性を軸に展開するとすれば、今回は、主人公の「内面」、その心の奥にこそサスペンスを見出す流れであり、そのあたりが決定的に異なる脚色なのでした。
 (また、夫を見ていない、と言う客室係に、「あなたに迷惑をかけたくない。ごめんなさい」と謝ったうえで、やはり知っているでしょう、と聞く頭の良さと、人柄の良さ!…でも、それすらも…)
 そして、この設定こそ、「真犯人」を、映像の中に、これ見よがしに登場させられる、秀逸なアイデアだったのです。(このあたりの映像的「叙述トリック」とも言うべき手管は、ぜひご鑑賞を!)

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 また、もうひとつの秀逸な設定として、豪華客船に同乗するベヴァリー・トーマス婦人を豪華なゲスト・スターを配して、登場させたことが挙げられると思います。演じるは、『女刑事ペパー』(1974-78)の女傑、アンジー・ディキンソン
 不安定なヒロインに関わる人間を単純に増やすことで、前作の船医ポールにあたる船医ジョンストン(ジェフリー・デマン)が彼女につきまとうかのような、不自然な印象を払拭することに成功しています。
 ただし、ベヴァリー婦人は敵にも味方にもなる、いわばジョーカー的な存在であり、これまたレッド・へリングのひとりなのですが、その先は…。少ない登場人物にも関わらず、誰が黒幕かわからない、その煙幕の張り方は見事であり、前作の冗長さを払拭して余りあります。

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 ジョンストンは、やはり一目惚れしたのでしょうねえ。(笑)
 何としてもリンジーを護ろうとする彼を、決して若く二枚目とは言えない、微妙にユーモアも兼ね備えたジェフリー・デマンが演じていることが、ギスギスしがちな展開の緩衝材となり、ヒロインと彼の味方となりたいと、観客をして自然と思わせるのです。
 主演女優としては、ほぼ全編出ずっぱりで、微妙なる心の綾を表現しなくてはならず、演じ甲斐のある、魅力的な役柄であったのは間違いないでしょう。

 終盤、急激に転調して、真犯人からヒロインを護る「男」の物語に切り換わるのも鮮やか。

 そして、この再婚に儚い夢を託す、薄幸で健気な女性が事件にケリをつけ、新たな一歩を踏みだす物語という側面が、ドラマに哀愁漂う味わいと、未来への希望を、鑑賞後、残すのです。

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 脚本は、『ダンス・ウィズ・デンジャー』(1995)等の、エリザ・ベル。その後の活躍はあまり聞かず、勿体ない。
 演出は、その後、『NCIS』シリーズで活躍する、トニー・ワームビー

 こうして見れば、映像化に恵まれないと言われるカー作品、捨てたものじゃないのでは。
 ぜひ、AXNミステリーあたりで、ジョン・ディクスン・カーの映像化作品の特集をやってほしいものであります。

 それでは、また。

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