野獣狩り(1973)日本
無茶苦茶な撮影監督木村大作と
暑苦しい熱演の藤岡弘
評価:★★★★☆
君塚良一がかつてキネマ旬報という映画雑誌で「脚本(シナリオ)通りにはいかない!」という連載をしていた。
取り上げられている作品が必ずしも歴史的な名作ではなく、君塚氏独自の視点で選ばれた作品で、「デーブ」など何本かの作品はこの本をきっかけに見た。
この連載の第1回目がこの「野獣狩り」だった。
<ストーリー>
コーラ会社の社長が誘拐され、犯人は社長の命と引き換えに、コーラの原液の成分を公開しろと言ってきた。ポップコーラの幹部たちは、8000万円を用意して、金銭で解決することを提案してくる。誘拐犯は社長と8000万円の交換を飲むのだが・・・。
脚本家のお薦め映画だったが、徹底的に映像とアクションを楽しむ作品でもあった。
封切り時は加藤泰監督の「日本侠花伝」の併映作品に過ぎなかったが、これほどまでにカルト化した理由は君塚良一のお気に入り作品であると同時に、本作が撮影監督デビューの木村大作の手持ちカメラの迫力と無茶な仕事ぶりに尽きる。
全編、銀座を舞台に手持ちカメラを使用してゲリラ撮影が行われているが、さすがに歩行者天国の和光前では通行人に気づかれまくっていた。
銀座の路地裏での追跡劇では手持ちカメラの撮影の利点が十分に生かされている。
WAKO前(中央に小さく藤岡弘)
銀座の路地裏
50年前の有楽町駅日比谷口
札束を並べるシーン
そして伝説の後半15分。
・車を追いかけ走る藤岡弘の長回し(NGが出たらもう一回できるだろうか?)
ダッシュスタート
道路に出る
車には追い付かず遠ざかる
信号待ちで再び接近
・ビルの窓からぶら下がる死体
窓からぶら下がる死体(通報で本当に消防車が来た)
・エレベーターへの実弾の銃撃
下へ降りるタイミングを間違えれば大怪我
今ならコンプライアンス上絶対に許されない数々の撮影を担当したのは、過酷な撮影現場には欠かせない木村大作。
主演はいつでも暑苦しい藤岡弘。
エンドクレジット おかしな「、」なし
父親役は枯れた味わいの伴淳三郎。
一戦終わった後の髪をかき上げるけだるい仕草なら誰にも負けない渚まゆみ。
"ザ・飲み屋の女"
脇を固める稲葉義男、加藤和夫(黒澤明の「乱」でめちゃくちゃしごかれていた)、中条静夫、渥美国泰らの堅実な演技。
なかでも鬼やんの稲葉義男の演技が素晴らしい。
エンドクレジットでは松金よね子の名前あり(どこに出ていた?)
・鬼やんの手錠やバリケードの縦横の伏線も見事。
ベッド柵にかけられた鬼やんの手錠
バリケードの向きを変える警備員
銃砲店の襲撃や犯人の中の長い黒髪の女性は1970年前半の当時の連合赤軍事件の世相を反映している。
長髪の若者が多い
髪が邪魔で狙いが見えん!
樋浦勉がテロリスト唯一の短髪で逆に目立っている
DVD特典の木村大作のインタビューが面白い。
素晴らしい撮影技術がありながら一般常識が全く通用せず、空気読めない感が素晴らしい。
監督の指示は全く聞かず、ノーライト、ノーメイク、ノー移動(全編手持ちカメラ)。
ビルからぶら下がる死体役はまず自分で実演。
当時の無茶苦茶なコンプライアンスゼロの撮影エピソードを嬉々として語る木村大作。
撮影監督デビュー作でこの無茶苦茶ぶりでここから先は推して知るべし
死体がぶら下がっていた東宝ビルでインタビューを受ける木村大作
"野獣"は無茶なスタントを平気でこなしていた藤岡弘かそれとも監督の言うことを全く聞かないコントロール不能の木村大作か?
【鑑賞方法】DVDー東宝
カラー 83分
【制作会社・配給】東宝
【監督】須川栄三
【脚本】松山善三 西澤治
【原作】松山善三 西澤治
【制作】藤本真澄 安武龍
【撮影】木村大作
【美術】薩谷和夫
【編集】池田美千子
【音楽】村井邦彦
【アームズ・テクニカル・アドバイザー】トビー門口 ヘンリー荻野
【出演】
伴淳三郎:舟木長太郎
藤岡弘:舟木明
渚まゆみ:青山美矢子
富川澈夫:綾小路雅也
山口嘉三:花森功
菅原一高:原口覚
樋浦勉:風間喬
中村まり子:小森康子
稲葉義男:鬼丸係長
加藤和夫:団捜査一課長
中条静夫:今井重役
渥美国泰:佐竹重役
三谷昇:サラリーマン
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