アメリカを斬るの櫻イミトのレビュー・感想・評価
「カッコーの巣の上で」(1975)などの名撮影監督ハスケル・ウェクスラーの監督デビュー作。ドラマとドキュメンタリーを融合させた画期的な演出で60年代末期アメリカの世相を描く。1968年シカゴで開かれた民主党全国大会と大規模反戦デモに俳優を配して即興撮影を敢行。原題は「Medium Cool (メディア冷淡)」。1968年シカゴ。テレビ局のニュース・カメラマンであるジョン(ロバート・フォスター)は仕事に誇りを持って取り組んでいた。多忙な中、彼は独自にスラム街の住民たちの実状を取材していたが、ある日それが会社にバレたことからクビになってしまう。一方、取材中に知り合ったスラム街のシングルマザーのアイリーンと愛が芽生え、彼女の息子ハロルドとも絆を深めていた。やがてシカゴで民主党の全国大会が開かれることになり、ジョンの元にフリーカメラマンとしての仕事依頼が来る。現場では大きな反戦デモの準備が始まっていた。そんな中「ハロルドが行方不明になった」とアイリーンから連絡が入る。。。
ドキュメンタリー的かつ凄テクニックの映像が抜群に好み。"取材カメラマン"が主人公という設定が、世相を映像で表わすことの必然性をもたらしている。プロットは、時代の空気感を映像で見せていくための繋ぎの役割として働いていた。
名撮影監督ウェクスラーがフリーハンドで好きなように撮っているので新鮮で面白い映像が次々と披露される。中でもクライマックスの反戦デモ鎮圧の場面では、警官隊から暴行を受けて血を流す市民たちの姿が映し出されドキュメンタリーとしても重要。この強制鎮圧は全米に大きく報道される事件となったのだが、それを予感して俳優を投じてロケしたのはドキュメンタリー畑出身のウェクスラー監督の嗅覚によるものだろう。
登場人物たちの各部屋に、ケネディ、キング牧師、ビートルズなど時代のアイコンのポスターがさりげなく貼られているのも演出なのだろう。少年ハロルドに絡めて当時の低所得層の子供たちの生活環境をリアリズムで描いているシーンもとても良かった。
唐突なラストシーンだけが特に劇映画的なのには意味がありそう。作り物のフィクションよりも、現実の方が差し迫った理不尽にあることを表したかったのかもしれない。
劇伴で流れているマイク・ブルームフィールドのブルースロックやフランク・ザッパも渋くて良かった。取材者が主人公の設定には「コミック雑誌なんかいらない」(1986)を連想した。
※雑感
昨日観た「連邦議会襲撃事件 緊迫の4時間」(2021)ではトランプ支持者デモ隊と警官隊との衝突が映されていた。同作では議会を守る警官隊の方に共感したが、本作では市民を鎮圧する警官隊に反感を感じた。右と左の思想的違いというか、民主主義を守ろうとする立場の方に自分は肩入れしてしまう。いわゆるリベラル派の価値観なのだと思うし、反対の向きから見たら偏った人間に見えることを自覚しておかなければならない。
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