2025年11月5日水曜日

動物福祉:映画「キタキツネ物語」は動物虐待映画?~: Barking Dog

動物福祉:映画「キタキツネ物語」は動物虐待映画?~: Barking Dog

動物福祉:映画「キタキツネ物語」は動物虐待映画?~

 以前に少し触れましたが、映画「キタキツネ物語」はサンリオが制作して1978年5月に公開された一応ドキュメンタリーってことになっている映画です。罠に捕らえられたキツネが死んでしまうため一部で虐待映画だと酷評されてもいます。

本作の前にも、米国映画「子鹿物語」、海外ドラマ「黒馬物語」(いずれも原作は小説。前者はテレビで観ましたし、後者はNHKが70年代に海外ドラマを放送していました。)たなどがありましたので、この「キタキツネ物語」のタイトルは安直な感じがしたものですが、その後もバカの一つ覚えのように「南極物語」、「子猫物語」、「ハチ公物語」、「象物語」、「子熊物語(フランス映画の邦題)」など「○○物語」と題された動物映画が続くことになります。

翌年の1979年8月に、フジテレビで放送され、その時の視聴率44.7㌫は宮崎駿の「千と千尋の神隠し」に破られるまでテレビで放映された映画の中では最高の視聴率でした。そこで、フジテレビが「キタキツネ物語」とアメリカ映画「アドベンチャーファミリー」のようなドラマを製作できないかと北海道に移り住んでいた脚本家の倉本 聰に依頼したのがドラマ「北の国から」だったと倉本 氏があちこちで語っています。(「北の国から」は、さだまさしの主題歌が嫌いで10年くらい前まで全く観たことがありませんでした。)* 映画高世帯視聴率番組 | 映画 | 過去の視聴率 | 週間高世帯視聴率番組10

私も『キタキツネ物語」をテレビで観るまでは映画のタイトルを知っていた程度なので(*1)、現在NHK-BSで放送されている「ワイルドライフ」のような動物ドキュメンタリーかと思っていましたが、ドキュメンタリーにしてはオスのキツネが流氷に乗ってやって来たなんて話は作り話のようで所詮映画なんてそんなものかと思いながら観ていました。(*2)

問題のトラバサミに捕らえられたキツネが逃れようと悶絶しているシーンについては、酪農地帯で乳牛と放し飼いの鶏を飼っている環境で育ちましたから(狩猟区域なので晩秋には猟犬を連れたハンターも現れました。)そういうシチュエーションは特に違和感は覚えませんでしたし、キツネが主人公ですから人間との摩擦は予想はしていたものの今でも思い出したくもない嫌なシーンでした。

しかし、映像はなんとなく不自然で待ち伏せしていたかのようにその場にカメラがセットされていたことや撮影対象の子育て中のキツネが罠にかかったにもかかわらず助ける訳でもなく見殺しにするかのように撮影し続けていたことが不可解で、本物の罠なのか、本物だったとしても撮影のために仕掛けたのか、それともキツネ駆除のために仕掛けられた罠を撮影していただけなのか、その点がわかりませんでした。

いずれにしても、駆除目的で仕掛けた罠であれば仕掛けた人物がいる訳で、見回りに来た時に殺されるのではないかと思いましたが、そう言う場面はありませんでしたから撮影のために仕掛けたもの若しくはバネを弱めるなどしてそれらしく撮影したのではないかと長い間思っていました。

今であれば即座にネット上で反響があるのでしょうけど、インターネットなんてものは影も形も無い時代です。残酷であると著書で批判していた料理研究家がいましたがそれを知ったのは随分後のことでしたし(*3)、あの場面を回想しながら罠のシーンについて述べている狩猟者の方もいたりして(*4)、助けもせずに撮影し続ける非道を詰る人、撮影のために仕掛けたと考える人、感想は人それぞれですが、誰もが印象に残るシーンだったようです。

私は、後にも先にも1度しか観ていませんので今では断片的に覚えているだけですが、映像の不自然さは劇中の音楽(野生で生きるキツネの心情を代弁しているかのような挿入歌)に誤魔化されてしまったような感じがします。(当時に買ったサウンドトラックのLPレコードは未だに持っています。)

予断ですが、あのころ動物が出てくる映画には「世界残酷物語」とか「グレートハンティング」などがありましたが、それとは異質な感じがしたのが1980年に公開された映画「ジャンク 死と惨劇」でした。映画館の看板(電気椅子で処刑された死刑囚が目隠しの下から血の涙をながしている姿)を見上げながら本当の話なのか?と疑わしく思ったものです。怖い物見たさから数年後にビデオを借りて観ましたが、首から上だけが出ているサルの頭をハンマーで割って脳みそを食べるシーンとか、カルト教団が女性を生け贄にする怪しい儀式とか、信じられないような話ばかりでした。

その後に公開された「食人族」は映画館で観ました。勿論フィクションですが、上映時はあえてその点は曖昧にされていたように思います。

 「キタキツネ物語」に話を戻しますが、企画と動物監督を務めていたとは知らずに獣医師の話なのかと思って読み始めた竹田津 実(北海道在住の獣医師)の著書「獣医師の森への訪問者たち(集英社文庫2018.11)」の中で「キタキツネ物語」について語られていました。

撮影したフィルムは4年間で106時間分だったとのことで、残る104時間分の映像はどうなったのだろうかと撮影時の様子を回想されていましたが、興味深かったのは1千匹の野ねずみを捕獲して飼育個体のキツネの目前に放して撮影した時の様子が語られていたことです。(*5)

これで腑に落ちたというか、要するに、映画「キタキツネ物語」のキツネたちは同一の家族や個体ではなく、シナリオに沿って撮影し、撮りためた野生のキタキツネの映像からシナリオに合った場面を当てはめただけの似非ドキュメンタリーでした。

劇中の猟師も知人(最初に連れてきたのは後述する米田 氏とのこと。)で、これもそうとは知らずにその猟師の著書(*6)を読みましたが、これはこれで参考になる図書でした。

罠のシーンについての言及はありませんでしたが、これは竹田津 実 氏の著書をいくつか読めばわかりますが、キタキツネをはじめとして野生動物の保護(持ち込まれた野性鳥獣の救護)を長く行っていた獣医師ですし、婦人も氏でさえ安楽死を考えたくらいの視聴覚に障害のあった子狐(ヘレンと名付けていた。)の安楽死でさえ反対するような女性なので(前述のネズミの場面では飼育個体のキツネを放す係)撮影のために動物を傷つけるようなことはしないだろうとは思っています。

しかし、いかんせん「キタキツネ物語」は未だにあちこちでドキュメンタリー映画として紹介されています。これでは罠のシーンも本物ってことになってしまい、悶絶するキツネを冷淡に撮影し続けた虐待映画と思われても仕方がないかもしれません。2013年にリニューアル版が公開されていたようですが、動物は虐待していないとの注釈があるようです。フィクションとした上で虐待はしていないとしているならわかりますが、ドキュメンタリー映画に虐待していないというのもおかしな話です。

*1 当時からテレビとか映画はあまり信用していませんでした。いくつかきっかけはありますが一つは、ブームになったアニメ映画のプロデューサーのおっさんが訝しかったこと。もう一つは、映画「キングコング」のポスターに騙されたこと。ポスターではジェット戦闘機が描かれていたのに、実際には攻撃ヘリで戦闘機など全く出て来ませんでした。

*2 一時期少年マンガに飽きて読み切りの少女マンガも読んでいたのですが、ある少女マンガの主人公が作中で観に行った映画が「キタキツネ物語」だったことや、制作がサンリオでしたからキツネのイラストが描かれたキャラクターグッズを文具店で見かけた記憶はありますが、上映期間中にこの映画が話題になっていた記憶はありません。大都市と地方都市との違いでしょうか。

*3 「愛しのチー公へ 生きものたちとの一期一会:小林 カツ代(筑摩書房1999.8)」 

*  映画『キタキツネ物語』の残酷さ・キタキツネ物語の映画レビュー・感想・評価「動物虐待映画」:Yahoo!映画

*4 キタキツネ物語? | 知床桜

*5 撮影のための野ねずみを捕まえたメンバーに当時、学生だった米田政明 氏の名前がありました。(リンク先はWikipedia)この方は、日本オオカミ協会から反論されていた方だと思われます。2006年頃NHKラジオ第2カルチャーアワー・科学と人間「旅の野生動物記」と題したシリーズで協会の代表の丸山直樹日本農工大名誉教授が二十数回にわたって野生動物について語っていました。これも録音を持っていますが4分の1はオオカミの復活についての話でした。オオカミ再導入には共感を覚えますし、実現できれは良いとも思いますが、今の状態では難しいと思います。オオカミを管理できるかといったこと以前に、国も都道府県も、万が一にも被害があった時に責任を負う覚悟はないでしょうから放獣は認めないでしょう。*  米田論文への反論 | 日本オオカミ協会 ・「知床に再導入したオオカミを管理できるか」(米田政明2006)に関する疑問~知床にオオカミ再導入は不可能ではない: 森とシカtoオオカミⅡ

*6 「羆撃ち 久保 俊治(小学館文庫2012.2)」 良い本ですが、少々気になったのが、米国では狩猟で無線機の使用は禁止されているが、日本では米国とは逆に猟銃の使用は厳しく規制していても狩猟での無線機の使用には寛容だと述べていたこと。著者が米国でハンティングのインストラクターをしていた時代の1975年前後の話だったとしても、その当時の日本では、合法な免許不要の無線機は、0.5W最大8チャンネルのCB無線機があった程度。アマチュア無線機を使うには免許が必要ですが、そもそもアマチュア無線機は狩猟や駆除など業としての使用は認められていません。日本が無線機に緩いと言うのは事実誤認で使用が山中ってこともあって狩猟者に対する伝監の取締が緩かっただけのこと。電波法に対してそう言う認識だから、狩猟者の無免許でのアマチュア無線機の使用や違法ドッグマーカーなどの違法無線局が横行したため通信局から狩猟者が睨まれることになるのでしょう。

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