2024年10月14日月曜日

ナニヤドヤラ 古川善盛 1956




ナニヤドヤラ      古川善盛

なにが愛しくて伝え受ける旋回なのだ
ひとつのちょうちん 古太鼓
それらを芯に踊りつづける
おれたち 輪になって

ナニヤドヤラニヤドヤラニヤ
 (それなあに?)
 (ヘブライ語)
 (え?)

ひとよ
讃美歌といったらおまえは笑うだろうか
しめった火山灰の上に軒を傾け
ひそひそ噂しあっているおれの故郷の
夏の夜
きまって旋回するしわがれた挽歌だ

真昼の草原に腕を組みあうダンスではない
歴史と屋根の下から集まり
部落をまわす いびつな
ナニヤ と歌って
差し伸ばした手は
前の下駄の蹴上げた土ぼこりを
むなしく握ったまま
脇腹をすり抜けて尻へ押返される
それでおれたちは
トヤラ と歌うなり
太鼓にあわせてくるりと後向きになるのだ

ひとつの拍子に手足はそろえているが
所詮
つないでもつないでもちぎれる輪である

ちぎれる輪のすきまから
ひゆうひゆうと流れ出るのは
伝統 それとも惰性
その芯の中では
釈迦もキリストもごちゃ混ぜの太鼓
緑くさい旋律が夜をぶちぬく

ニヤトセニヤドヤラニヤ 
(民謡は豊饒の中でも悲しいの生活の…)
(また)
(え?)
(十八番 あなたの すなおに楽しんでい
ると思ったのにすぐそれ)

そうではないのだ ひとよ
五百年
それは時間の推移ではない
ほこりを浮べて踊りすぎる
わびしい鉢巻姿の
額にはりついている色
横顔を照らすの陰影なのだ
そろいのと三味線入りのしか知らない
都会育ちのおまえに
時間ではない歴史がわかるだろうか

ちょうちんがそこに位置するかぎり
こんりんざい
土ほこりを立てつづけるこの広場
ナニヤ
 と前へ三歩
ヤラ
 と後へ二歩
それでも拍子をとれば一歩の前がある
ひとうたえ終えるに
僅かにふくれる輪の大きさが
おれたちの信頼のしるし

ぐるりと廻って
おれは又もとの位置へ
腕をふりながら戻ってくる

(註)
ナニヤドヤラ・南部の歌ともいわれ
青森県八戸地方に伝わる意味不可
解の歌詞をもつて知られ、地方に古い
キリスト教の伝や遺跡が残っていると
ころから、それに関係あるヘブライ語が
訛ったものではないかともいわれる。

     
     (掲載:「詩学」1956年10月)

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