兄弟の壮絶な愛憎劇!映画『アディダスVSプーマ -運命を分けた兄弟-』≪6/4-10開催!ヨコハマ・フットボール映画祭2022≫
世界的スポーツブランド、アディダスとプーマの創業者は兄弟だった!?なぜ、兄弟は決裂してしまったのか?実話をベースにした、壮絶な兄弟喧嘩の顛末をドラマチックに描いたドイツ映画をご紹介します。
みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第54回を担当します、スタッフの細川です。
今回は、YFFF2022上映作品『アディダスVSプーマ -運命を分けた兄弟-』をご紹介します。ダスラー兄弟が別々の会社を創業するに至った経緯は、2006年に日本でも出版されたバーバラ・スミットの「アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争」でも触れられたり、あちこちで紹介されているのでご存知の方も多いかもしれません。
本作は兄弟の関係に焦点を絞ったドラマになっているため、その背景の解説を交えながらご紹介していきます。
映画は、第一次世界大戦の数年後から「ベルンの奇跡」と呼ばれる1954年のワールドカップ決勝、西ドイツVSハンガリー戦までが描かれていきます。
ダスラー家
本作の主人公のルディとアディの父、クリストフ・ダスラーは、バイエルン北部のヘルツォーゲンアウラッハで、代々続く織工職人でした。この地は、19世紀末までは、織物工場の町として栄えていましたが、産業革命を境に衰退していきます。クリストフは靴職人に転向し、技術を学んでいる間、妻パウリーナは自宅裏で洗濯屋をして家計を助けていました。ふたりの間にはルディとアディの他に、長男のフリッツ、長女のマリーがいました。
ダスラー兄弟が会社を設立
1920年代、バイエルン北部のヘルツォーゲンアウラッハ。森の中を颯爽と駆け抜けるアディことアドルフ・ダスラーが牧草地帯に出てくると、一台の車がやってきます。ルディこと兄のルドルフ・ダスラーです。アディは自身が作ったシューズを試すため、ルディの運転する車と競走していたのでした。
スポーツ・シューズ制作に情熱を注いでいたアディは、世間では「スニーカー狂」と呼ばれ、揶揄されていました。当時、ドイツ国内でのスポーツの地位は低く、スポーツ・シューズの需要はないと思われていたのです。しかし、アディには、一流アスリートが自身の作ったシューズで活躍するヴィジョンが明確に見えていました。ただ、試作を重ねるにもコストがかかります。金策に頭を痛めているアディに、ルディが共同事業を持ち掛けます。アディが作ったシューズをルディが売る、「ダスラー兄弟商会」の誕生です。
ひとつ屋根の下にふたつの家族
やがて、ルディはフリードルと、アディはケーテと結婚し、同じ家で暮らしながらもそれぞれの家庭を築いていきます。ルディの売上への執着と、アディの品質へのこだわり。対立が生じながらも、会社は軌道に乗り、売上を伸ばしていきました。その陰で、ケーテは夫婦の時間が取れないことに寂しさを感じ始めます。フリードルに勧められ、工場で働くことにしたケーテはビジネスの才能を開花させます。
ナチスのプロパガンダとして利用されたベルリン五輪
当時、ドイツ国内ではナチ党が勢力を拡大、党員を増やしていました。1933年のヒトラー政権樹立後間もなく、兄弟も入党しています。プロパガンダとしてスポーツを利用していた党でも、彼らのシューズが採用されていました。
ヒトラー政権は、ベルリン五輪では「アーリア人」以外を排除する方針を決定していました。五輪のみならず、施設や団体など、スポーツそのものからユダヤ人、ユダヤ系、ロマ族の人々は、除名、追放されてしまいます。しかし、ベルリン五輪開催期間中は、人種差別主義や独裁主義の体質を完全に隠蔽、国際社会に国家が平和で寛容であることをアピールしました。
ダスラー兄弟とベルリン五輪
ルディはドイツの陸上選手、ルッツ・ロングとエルフリーデ・カウンにベルリン五輪で自社のシューズを履かせたいと考えますが、アディはアメリカの陸上選手ジェシー・オーエンスに目を付けます。ライバル国であるアメリカの、しかも黒人選手であるということでルディは反対しますが、アディは独断でオーエンスと交渉。結果、ダスラー・スパイクを履いたオーエンスは4つの金メダルを獲得という偉業を成し遂げ、ベルリン五輪のヒーローになりました。
オーエンスが金メダルを獲ったことにより、「オーエンスのせいでドイツが優勝を逃した」と兄弟が懇意にしていた陸上監督から怒りの電報が届きます。五輪後、彼は監督を解任させられてしまうのでした。
具体的には言及されませんが、走り幅跳びの決勝では、ルッツ・ロングとオーエンスによる一騎打ちとなり、結果的にオーエンスが脅威の記録を打ち出します。スポーツマンシップに熱かったロングとオーエンスの友情は五輪後も続きました。オーエンスの半生は『栄光のランナー 1936ベルリン』で描かれています。
兄弟の運命を決定付けた第二次世界大戦
やがて、世の中は第二次世界大戦へと突入していきます。ルディは軍用ブーツの生産を決め、ユダヤ人を解雇しようとします。しかし、アディはユダヤ人を解雇することを拒否。やがて、納品した軍用ブーツは品質に問題があるとされて返品され、ルディに召集令状が届きます。一方、アディは召集を免除されていました。ルディは、自分だけが召集されたのは自分を追放するためのアディの策略だと思い込み、ふたりは口汚く罵り合います。
帰還後も、ルディの疑いは晴れることがないまま、ふたりの関係は泥沼と化していくのでした……
作品情報
本作では、ルディが共同事業を持ち掛けていますが、実際はアディから誘ったようです。また、兄弟の決裂の原因も諸説ありますが、あくまでも実話をベースとしたドラマとして楽しめる作りになっています。
アディがケーテをルディとフリードル夫妻に紹介するシーンは微笑ましいのですが、振り返るとその後の4人の運命を暗示しているようでもあります。その他にも、最悪の事態に向かっていくきっかけがあちこちに散りばめられた演出にもご注目ください。
ドラマとしてのおもしろさもさることながら、ビジネスや人間関係においての重要な気付きもたくさん得られると思います。現在のスポーツ・ブランドの礎を築いたダスラー兄弟の壮絶な半生をぜひ、スクリーンでご覧ください。
また、6/5(日)かなっくホールでの上映後、スパイクマイスターKoheiさんをお招きしてのトークショーもあるのでお楽しみに!
「ヨコハマ・フットボール映画祭 2022」は6/4(土)-5(日)にかなっくホール(東神奈川)、6/6(月)-10(金)シネマ・ジャック&ベティにて開催します。
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