ディドとエネアス
ウェルギリウスの『アエネーイス(Aeneis)』にある、トロイの王子エネアス(アイネイアース)とカルタゴの女王ディド(ディードー)の物語を題材にした作品で、パーセル20代中頃の作品、初演は1680年代。彼の早すぎた死(1695年に36歳で逝去)と後述する当時の状況から、18・9世紀を通じて上演の機会も殆どなく、他に影響を与えるものとはならなかったが、19世紀末のイギリスに興った自国の音楽語法の探求と古典的・民族的音楽復興の流れの中で注目されるようになり、1895年のパーセル没後200年記念で蘇演されてから注目を集め、たびたび上演されるようになるとともに、イギリスの作曲家に新たな歌劇作品を生み出させる原動力ともなった。また、上演時間が1時間そこそこという事も幸いして、当時の作品としては録音頻度も高いものとなっている。
台本は当時の流行劇作家ネイハム・テイトによるもので、テイトが自作の戯曲『アルバのブルータス(Brutus of Alba)』(『アエネーイス』を翻案したもの)を更に音楽劇用に改作したものである。テイトは前作ではエネアスを重点に作劇していたが、重点をディドへ移し、ディドとエネアスの運命的な愛とそれによるディドの死という悲劇性を前面に置くものに改めると共に、魔法使いや魔女といった超自然的な登場人物を追加することで、演劇としてのふくらみを持たせている。
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