パリ五輪開会式の芸術監督トマ・ジョリー ゲイ公表の42歳、芸術性と社会性備えた演出
26日行われたパリ五輪開会式では、フランス革命で処刑された王妃マリー・アントワネットが自分の首を持って歌ったり、レオナルド・ダビンチの名画「最後の晩餐(ばんさん)」を連想させる演出が物議を醸した。その開会式の芸術監督として演出を手掛けたのが、フランス気鋭の演出家で俳優、トマ・ジョリーさん(42)だ。「常に大衆的な芸術性に尽力してきた」(仏ルモンド紙)芸術家だが、作品を通じ社会問題を提起する革新性も備える。
ジョリーさんは1982年、仏北部ルーアン出身。幼少時から芸術への関心が高く、児童劇団での活動を経てカーン大学、国立演劇学校TNB(ブルターニュ国立高等劇場)に学び、舞台俳優から演劇人としてのキャリアをスタート。2006年には自身の劇団「ラ・ピッコラ・ファミリア(小さな家族)」を設立した。
仏国内での評価を確立したのがシェークスピア作品の大胆な翻案で、「ヘンリー6世」3部作を題材に18時間連続上演する企画を成功させたほか、「リチャード3世」では殺人場面も斬新に表現。仏演劇界でもっとも権威あるモリエール賞などを受賞し、20年にアンジェ・ペイ・ド・ラ・ロワール国立演劇センターの芸術監督に就任した。
俳優出身だが、近年は演出家としての活動が主で評価も高い。過去の因習やジェンダー(性差)など、固定概念にとらわれない革新的な舞台で知られる。トマさん自身、ゲイであることを公表し、LGBTの視点を取り入れた独自の表現を続ける。パリのオペラ・バスチーユでワッキング(1970年代米国のLGBTクラブで発祥したストリートダンス)を盛り込んだ「ロミオとジュリエット」を演出したほか、ロックミュージカル「スターマニア」のツアー版も、ジェンダーの切り口で手掛けた。
さらに移民や環境、格差など社会問題も作品に大胆に取り入れ、過去にも論議を呼んできた。ある意味、観客に社会問題を投げかける表現そのものが〝演出〟ともいえる。ただし今回は開会式後、演出に否定的な声が世界的に広がり、ジョリーさんは28日、仏民放テレビに出演し、「すべて芸術表現のため」と反論。また30日の自身のインスタグラムのストーリーズでは「この式典は寛容の雲の中で行われた」との言葉もアップしている。(飯塚友子)
五輪開会式の芸術監督 演出批判に「ギロチン美化ではない」と反論 「芸術表現のため」
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