【戯曲】谷崎潤一郎『無明と愛染』あらすじと感想
『無明と愛染』作:谷崎潤一郎
大正13年3月
「またあの法師を迷わせて、煩悩地獄へ堕してやるのじゃ」
山奥の廃寺に住まう女のもとに、旅の僧侶が訪ねてくる。聞けば女は無明の太郎という盗賊の妻で、
彼は愛染という女に夢中になってからというもの、
彼女のいいなりに残虐な行いをするようになった、という。
坂口安吾の『桜の森の満開の下』でもこんな人間関係が登場したなぁと。
そして旅僧に、夫が戻る前に帰るのを勧めるが、
夫がそこに帰ってきてしまい、さらに愛染も登場するが…。
僧侶の出家のきっかけとなった愛染が、自分にも教えを説いてくれ、と奥の部屋へ誘い込み、
そこから二人はどうなるのか。
信仰心と絶対的美の対決、みたいな所で二幕に移る面白展開。
そしてその先の展開も、「谷崎ワールド!」という感じで、ブレないなこの人、と思いました。

【収録】
『潤一郎ラビリンスⅩⅥー戯曲傑作集』
1999年/中央公論新社
【ネタバレあらすじメモ】
時 南北朝の頃
所 或る山奥の廃寺
☆第一幕☆
楓が荒廃した寺の中で肉を焼いている。
高野の山を目指すという旅僧が宿を求めて訪ねてくる。
町は南北朝の戦いで大変な様子。
主人が留守なので悩む楓だが、寒そうなので日に当たれるところまで僧を上げる。
楓の主人はもとは京で身分ある仕事をしていたが、南北朝の争いで仕事を失った。
夫は今や無明の太郎という盗賊に成り果て、泊まる者は誰でも殺す、だからいないうちに帰れと楓。
僧は興味を持ち、太郎に会いたがる。
太郎を教化したいとのこと。
楓は感謝の念を述べる。夫がおかしくなったのは鬼のせいで、その鬼は今、奥の間に眠っていると。
鬼は遊女である。
それがために夫は奪われ、殺人の手助けをしている。どうにかしたい。
楓は鬼退治を僧に頼み、彼は引き受ける。
さらに楓は「自分でも救われる事が出来るか」と聞き、僧は信心さえあれば、と経文を渡そうとする。
とこの時、部屋の隅に太郎現れ僧に声をかける。
太郎は僧に持っているもの全て置いて行け、喜捨も集まっているだろうと脅す。
楓は「一乗院の名高い僧に手出しはならぬ」と止めるが太郎は斬りかかろうとする。
僧が呪文を唱えると黄金の仏像から光が放たれ、太郎は動きを止める。
太郎も楓も腰が抜けて動けない。
と、奥から鬼と呼ばれた愛染やってくる。
僧と愛染は顔見知りの様子。
僧が昔少将だった頃に関係があり、それが元で彼は出家した。
愛染は僧に懺悔し自分を導いてくれと言う。
奥の間でゆっくりと、とのことで、僧は楓に連れられて奥へ。
呪文の拘束が溶けた太郎は、化粧を始める愛染に問う。
なぜ説教を聞くのに化粧するのかと。
愛染は答える。
あの僧が恐れるのは自分の色香。
煩悩地獄に落としてやる、と。
☆第二幕☆
第一場
先程から一二時間の後、太郎と楓が食事中。
太郎は愛染の計画を楓に漏らす。
僧を謀るとは恐ろしい事、御仏の力を見てあなたの迷いも覚めると思ったが、と嘆く楓。
そんなに嫌なら死んでしまえと太郎。
と、愛染が襖を開けて計画の成功を告げる。
僧に毒酒を飲ませたのだと。
太郎は急いで僧のいる部屋へ向かう。
第二場
僧はガクガク痙攣している。
愛染は彼から仏像はじめ宝を奪い、仏を拝むより自分を拝めと挑発。
やがて僧は息絶える。
太郎、その様子を見て、埋葬はせめて自分がと言い始める。
すると向こうの部屋から物音。
見に行った太郎は、妻が自害していたと言い戻ってくる。
ならば晴れて今日から自分が妻だという愛染に、
自分はこれから独り身になる、僧と妻のおかげで無明の太郎の目が開いた、と告げる太郎。
宝を持って去ろうとする愛染を呼び止めた太郎。この寺のものは全部くれてやるからあの黄金仏は返せ、二人を弔うのだ、と。
愛染は仏像を太郎の元へ放り投げ、臆病者はとっとと去れと高笑い。
その笑いの中に、幕。
0 件のコメント:
コメントを投稿