2025年3月16日日曜日

夢見猫のひとり風信(たより) 美しき虚像「The Scapegoat」

夢見猫のひとり風信(たより) 美しき虚像「The Scapegoat」

美しき虚像「The Scapegoat」

ダフネ・デュ・モーリアの長編小説としては12作目、ただし、その前の伝記小説「メアリー・アン(1954年)」を除けば11作目となります。前作(10作目)の「レーチェル(My Cousin Rachel 1952年)」は「レベッカ」と双璧をなす作品でした。

ダフネは祖先であるガラス職人ルイ・マトウリン・ロバート・ブッソンの人生を探ってる間(伝記小説 The Glass Blowers 1963年 14作目)に、「The Scapegoat 1957年」を異例な速さ、半年間で書き上げました。この物語は自分とうり二つの相手と出会い、その人物にならざるを得ない状況に追い込まれ、その家族たちとの心理的な葛藤を描き出しています。

この時、50歳のダフネは精神的な危機に陥っていました。5年前の1952年に突然、友人のガートルード・ローレンス(女優 54歳)を失い、物語ではフランソワーズが輸血を必要としていましたが、実生活ではダフネの娘テサは出産で輸血を必要としていました。また、夫のブラウニングはコーンウォールとロンドンでの二重生活、長年のアルコール依存症から1957年には重度の精神障害に見舞われていました。彼女自身と夫は表裏一体だと後に語っています。それはまた、スティーブンソンのジキル博士とハイド氏でもありました。この後のあらすじでは触れていませんが、物語のなかの一人、娘マリー・ノエルは父のために我が身を犠牲としたい、己の肉体を傷つける宗教的な祈りに我が身をさらしています。これはダフネの最後の秘密である父親との強い絆が反映されているようです。

ダフネの小説に特徴的な主人公がのっぴきならぬ状況に追い込まれ、張り詰めた神経の糸が今にも切れそうなぎりぎりの展開がこの物語でも続きます。



以下、読む機会のある方は興味を失うかもしれませんのであらすじは飛ばしてください。ただ、あらすじを書くのは難しいので概略だけにします。

この物語はイギリス人でフランス史の講師を務めるジョンがフランスのル・マンでの休暇を終えようとしているところから始まります。彼は大学での仕事を憂鬱に感じ、休暇の最後の目的地としてグラン・トラップ修道院を訪れようとしていました。そんな時、ジョンは自分とうり二つ(ドッペルゲンガー)のフランス人ジャン・ド・ゲと出会います。二人は驚嘆し、互いに自分の身の上を語り合います。ジャン・ド・ゲは城館とガラス工場を所有し、家族、使用人を抱え放縦な生活を送っていますがそれに飽いていました。酔ったジョンはジャンとホテルに宿泊しますが、翌朝、ジョンは自分の服も荷物もそして車もないことに気づきます。代わりにジャンの服と荷物が残されていました。仕方なくジャンの服装のままで外に出るとジャンのルノーの車の運転手が出迎えていました。彼はジョンを少しの疑いもなく主人のジャンとして応対します。

ジャンの城館に着くと、そこには口も利かず顔を合わせることもしない姉のブランシュ、ガラス工場の経営を任された弟のポール、どうやらジャンに気があるポールの妻のルネ、ジャンの二人目の子を妊娠している妻のフランソワーズ、長女マリー・ノエル、そしてジャンの母親、老伯爵夫人が住んでいました。また、何人もの使用人が世話をしています。その誰一人として身代わりのジョンを疑いません。ジョンはジャンが買ったと思われる土産を家族に渡しますが、これが当人を侮辱するような土産物で、家族は怒りと侮蔑を投げかけます。悪ふざけはジャンのいつもの仕草と態度のようでした。ただ、母親の老伯爵夫人だけが優しく接していたようでした。

弟のポールはガラス製品のカルヴァレとの販売契約について問いただしましたが、ジョンは分からぬまま再契約が可能だと告げポールとその従業員をひとまず安心させました。どうやら再契約が拒否され、ガラス工場は閉鎖の危機にあったようでした。ジョンは急いでカルヴァレと交渉し、言い値で再契約の約束を取り付けましたが、それは倒産を意味するような内容でした。一方ジョンは、妻のフランソワーズの実家の財産が、妻の子が男子ならその子に、もしフランソワーズがその前に死亡したらジャンに相続されることを知りました。さらに、ジャンには街にベラという愛人がいることを知ります。また、かつて姉ブランシュの許婚でガラス工場の工場長だった男性がレジスタンスの裏切り者としてジャンの黙認のもと射殺され井戸に投げ込まれた事件を知ります。そんなある日、長女のマリー・ノエルの姿が見えなくなります。妊娠で体調が思わしくないフランソワーズは思いがけなく窓から落ちて瀕死となります。自殺とも見えました。医者はジョンに輸血の血を提供するよう依頼しますが、ジョンはジャンと血液型が異なるため拒否します。結果、妻は死亡します。誰もが財産の件を頭に浮かべました。マリー・ノエルは井戸の中で寝ているのが発見され無事でした。工場長がいた家は昔の儘でした。

葬儀を終えたところで、毎年恒例の狩猟の催事が行われることになりました。ジャンは率先して計画を立てその責任者でしたが、ジョンは狩猟の経験も猟銃も撃ったことはなく、やむなく焚火に手を入れ火傷をして責任を逃れます。ジョンは弟のポールとルネにガラス工場の経営から離れ、しばらくヨーロッパ各地を視察したらどうかと勧めます。この地を離れることのなかったポールはこの提案を喜んで受け入れます。また、ブランシュに対しては、かつての工場長の家に住んで、ガラス工場の経営にあたってみたらどうか勧めます。ブランシュは許婚との工場の経営を夢見ていました。いま、思い出とともに経営にあたることを肯います。

こうしてジョンはジャンの家族たちに希望を見出させます。ところが、フランソワーズの死をしり、財産が入ってくることを知った、ジャンが戻ってきます。ジョンは愛人のベラに会いに行きます。ベラはジョンがジャンでないことを知っていました。ジョンは、家族が再びもとに戻るのではないかと心配しますが、ベラはそうとは限らないと言います。私たちはあなたの中にジャンではなく、ジャンの中にあなたを見ることになるだろう告げます。ジョンはジャンが家族と再会するのを目にした後、グラン・トラップ修道院に向かって車を走らせます。

新型コロナによるパンデミックによって世は様変わりしました。東京、および近郊県に限らず、各地域で感染者が増大しています。心疾患などの基礎疾患を持った私には感染は致命傷になりかねません。昨年はほとんど話題となったミステリーやSFが読めませんでした。一応、本は買ったりしているのですが積読です。映画も公開が延期となったりしています。鬼滅の刃は?ですね。アナと雪の女王のフィーバーも今となっては作品はそれなりですし、鬼滅の刃も一応私は持ち上げましたが、作品として今後どうでしょうか。さて、気になっているのは黄表紙の紹介を予定していたのですが、再読するほどに現在の世とかけ離れた(古文表現や風俗習慣、笑いなど)もので果たして意味合いがあるのだろうかと疑問がつのりました。この感覚はたとえですが関東人の私が関西お笑いが(漫才等)いまいち壺にはまらないもどかしさに似ています。米国などのユーモアが通じないとも似ているでしょうか。江戸時代は遠くになったのでしょうか。まあ、私の限界なのでしょう。ダフネ・デュ・モーリアは今年もまだ続ける予定です。感染が収まり(ワクチンを期待しますが)落ち着いた年になるよう祈りたいと思います。

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