2025年4月1日火曜日

李賀2「李憑箜篌引、出城寄権キョ楊敬之、示弟」 | 山中しげひろのブログ

李賀2「李憑箜篌引、出城寄権キョ楊敬之、示弟」 | 山中しげひろのブログ

李賀2「李憑箜篌引、出城寄権キョ楊敬之、示弟」

中唐—20

    李憑箜篌引(李憑(りひょう)の箜篌(くご)の引(うた)) 李賀  

  呉の弦と蜀の桐とで作りたるハープを秋の
  空のもと弾けば、
 
  白雲はくずれて流れず竹に江娥 (こうが) 、涙を注ぎ
  素女(そじょ)は愁へん 

  竪琴の名手の李憑が弾きし音(ね)はそは崑崙(こんろん)
  玉砕く音(おと)か、 

  鳳凰の叫びし声か蓮花(はすはな)の露に泣く音か
  蘭の笑ひ声 

  十二門の凍えし光も融けゆるみハープの調べは
  天子も動かす 

  石を煉り女(じょかし)が天を繕(つくろ)へば石は破れて
  秋雨漏れん
       は禍のしめすへんを女へんに変えた字。
  夢の中もしも李憑が神山(しんざん)に入りて仙女に
  曲教ふれば、

  老いし魚(うお)いたく驚き波に跳ね痩せし蛟(みずち)
  海にて舞はん

  かの呉質月にて眠らず聞きほれて桂の露は
  兎を濡らす

   
     これは李憑という箜篌の名人をたたえた詩

    「箜篌」は今のハープに似た二十三絃の竪琴。

    「江娥」湘江の二女神。
        尭帝の娘で、舜の后となったが、
        舜が巡幸先で死んだのを悲しみ、
        竹に涙を注いだ。

    「崑崙」山の名。

    「女カ氏」中国古代の伝説上の女帝で五色の
         石を練って天の割れた所を補修した。

    「素女」昔の仙女の名で琴をひくのが巧みであった。

    「蛟」蛇に似てからだがよじれ四つ足を持つという
       想像上の動物(竜の一種)。

    「呉質」呉剛の誤記と考えられている。

    「呉剛」仙術を学んで罪を犯し、
        月世界に流されて、
        高い桂の木を切らされたが、
        いくら切っても
        木の傷はすぐに元に服した。  





    出城寄権キョ楊敬之 李賀
       (城を出でて権キョ・楊敬之(ようけいし)に寄す)

          キョは據のてへんを王へんに変えた字。

            訓読文
  草暖雲昏萬里春  草は暖かく雲は昏し 萬里の春
  宮花払面送行人  宮花(きゅうか) 面を払って行人を送る
  自言漢剣当飛去  自ら言う 漢剣当(まさ)に飛び去るべしと
  何事還車載病身  何事ぞ 還車(かんしゃ)に病身を載せんとは

            和訳文
  草暖雲昏萬里春  草は暖かく、雲はくらく、万里が春だ
  宮花払面送行人  宮城の花が顔にふれ、去り行く人を送る
  自言漢剣当飛去  自ら漢剣はまさに飛び去るべしと言っていたが  
  何事還車載病身  何たる事か、病身を車に乗せんとは。

     二人の友に寄せて

  草も木も暖かくして雲くらく万里に渡り
  春は来にけり

  宮城の花飛び来 (きた) り帰り行く人の顔なで
  慰めにけり   

  かの漢の高祖の剣の如くして空へと我も
  飛ばんとせしに、

  何ごとぞ車の上に病身を乗せて郷里に
  帰り行くとは


   
    これは志をとげぬまま、長安を去り故郷に
    帰る際に、二人の友に与えた詩。

   「漢剣」晋代、宮中の宝庫が焼けたとき、漢の
       高祖の用いた剣が、屋根をつき破って
       飛び去ったという。




    示弟(弟に示す)  李賀   


  別弟三年後    弟と別れて三年後
  還家十日餘    家に帰って十日余り
  リョクレイ今夕酒 リョクレイが今晩の酒
  ショウ帙去事書  持ちかえった書物はあさぎ色の帙に
           納められている
  病骨独能在    病骨の身で一人帰りよくここに居る
  人間底事無    世間に何事か無かろうか
  何須問牛馬    牛馬かと問われようとも構はない
  抛擲任梟盧    さいころは投げられ、その目にまかすのみだ


     弟に与える

  弟と別れて三年帰宅して既に十日の日は過ぎにけり

  今宵飲む酒はリョクレイ去事の書をおさめし帙(ちつ)
  あさぎ色なり  

  病身で生きながらへて帰りたり、この世の中に何事かなからん 

  牛馬(うしうま)と呼ばれやうとも投げられし采(さい)の目にただ
  身をまかすのみ

     リョクは緑のいとへんを酉へんに変えた字。
     レイは儒のにんべんを酉へんに変えた字。
     ショウは糸へんに相。

   
    この詩は三年前、長安に出たが不合理な理由で
    進士になる道がとざされ、低い官職についたものの、
    やがて病気になり帰郷した時の作。
    作者二十三歳。

   「リョクレイ」湖南省衡陽付近に産する緑酒。

   「ショウ」あさぎ色。またあさぎ色した絹の布。

   「帙」和とじの本を包むおおい(カバー)。
   
   「人間底事無」訓読みは、人間(じんかん)底事(なにごと)か無からん。
          世間には何事(きれいでない事、
          不合理な事)がなかろうか。
         (進士の受験が許されず、前途が閉ざされた事に
          対する不満•憤りの意が込められている。)

   「人間(じんかん)」人が住む世。世間。

   「底」疑問詞。唐代•宋代の俗語。
      何と同じ。なんぞ•なにと訓読する。
  
   「梟盧(きょうろ)」サイコロの目で、梟は一、盧は六をいう。

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