2025年4月24日木曜日

Amazon.co.jp: アストレとセラドン 我が至上の愛 [DVD] : アンディー・ジレ, ステファニー・クレヤンクール, セシル・カッセル, ジョスラン・キヴラン, ロドルフ・ポリー, セルジュ・レンコ, ロゼット, ヴェロニク・レーモン, マリー・リヴィエール, マチルド・モニエ, アルチュール・デュポン, プリシラ・ガラン, アラン・リボル, エリック・ロメール, フランソワーズ・エチュガレ: DVD

2010年1月12日に日本でレビュー済み
残念ながら遺作となってしまったこの映画においてロメールはモラルというよりも「私の許可なく二度と姿をみせないで」という主人公セラドンとアストレーとの相互契約をストーリー上は守りつつ、描写としてはエモーション=肉感的欲望を手放さないという離れ業に挑み、見事に成功している。

そのストーリー上の「契約」について言えば、それは以下のようなドゥルーズの指摘を想起される。

「ライプニッツは、欺かない神についてのデカルトの推論をかなり警戒し、これに不共可能性の水準で新しい根拠を与えている。神は戯れるが、戯れの規則を与えるのだ(略)。この規則とは可能世界は神が選んだ世界と不共可能的ならば、存在にたどりつくことがないということだ。ライプニッツによれば『アストレー』のような小説だけが、われわれにこのような不共可能的(incompossible)*なものの理念を与えるのである。」(ドゥルーズ『襞 ライプニッツとバロック』邦訳 p110)

可能世界なるものがデカルトのような推論によって本質に回収されるのを嫌ったライプニッツがロメールによって映画化されたこのラブストーリー(17世紀当時流行した)を念頭においていたというのは面白い。

さて、一見些末なエピソードのように見える登場人物による神々の説明、肉体的愛に対する精神的愛の優位などなど、映画のところどころでロメール先生による間接的授業(とはいえカメラは常に登場人物と水平に位置され、決して権威的ではない)が展開されているが、これらは映画のなかで内容としてのモラルの描写として成功している。

おそらく賛否が分かれるであろう部分は、リアリティーを無視した時代描写および自然描写であり、何よりも女装したセラドンとの和解であるラブシーンを描いたラストだ。(劇場で見た際に)場内の失笑とともに観客である自分の胸にわき上がったのは、先述したライプニッツ的なモラル=論理を守りつつジャン・ルノワール的欲望を同時に肯定することに成功したロメールの巧みさへの賛美だ。

蓮実重彦はそこにハワード・ホークス的映画装置の作動、つまり映画の自同律を見出しているようだ。たしかにその装置の作動は形式としてのモラル(この場合は映画の自同律)の展開でもあるが、それ以上にそうした形式を主演俳優同士の官能の描写と背理させなかったロメールの手腕が称揚されるべきであり、そこに彼のデビュー作『獅子座』からの一貫性を見るべきだろう。

ちなみに、フーリエ(ロメールの兄はフーリエの研究者として著名)は原作となった『アストレ』からセラドニーCeladonieという概念を抽出し展開している。この造語は精神的ないし感傷的な恋愛情念を意味するらしい。その精神的愛はフーリエの唱える共同体では重要度を増すという。

*追記:
むしろ以下のようなスタッフの証言が実は不共可能性をうまく説明しているかもしれない。
[...]
「一番好きなのは、お城の迷宮のような庭園でニンフの女ボスのガラテと僕が口論をするシーンなんだ。このロケ地は最後の最後に見つけた場所なんだが、撮影段階になってロメール監督は素晴らしいアイデアを思い付いたんだ。城を出て行くと言い張る僕を引き止めようとしたガラテは、迷路の壁にぶち当たってしまう。このシーンを撮ることによって監督は、状況が硬直状態に陥り、壁にぶち当たったことと現実の動きをドッキングさせて見せているんだ。」

[...]
「私は原作を完全に自分のものにし、なんの気がねもなくのびのびと扱うことができた。ここではっきりとさせておくが、私の脚本はズカが残した脚本とはかなり異なるものである。今回、私は彼の脚本を一切活用しなかった。あとで読み比べてみて、2作に共通のセリフがたったひとつしかないことを確認してニヤリとしたほどである。とは言え、この作品を彼に捧げることは私には重要だった。」

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