ギリシア神話におけるイーピゲネイア(イフィゲネイア)の人身御供(生贄)は、トロイア戦争の発端として描かれる最も悲劇的なエピソードの一つです。 [
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トロイア遠征のために、総大将
アガメムノーン(ミュケーナイの王)率いるギリシア連合軍の艦隊がアウリスの港に結集しました。しかし、いくら待っても風が全く吹かず、船団は出発できずに立ち往生してしまいます。 [
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その原因は、アガメムノーンが女神
アルテミスの聖なる鹿を殺した(あるいは「女神でも自分ほどの腕前では射られまい」と豪語した)ことで、女神の怒りを買ったためでした。予言者カルカスは、「女神の怒りを解いて順風を吹かせるには、
アガメムノーンの気高い娘イーピゲネイアを人身御供として捧げるほかない」という神託を告げます。 [
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アガメムノーンは苦悩の末、軍の体面と遠征の成功のために娘を犠牲にすることを決意します。彼は妻クリュタイムネーストラーに、
「娘を英雄アキレウスと結婚させる」という偽りの口実を記した手紙を送り、イーピゲネイアをアウリスの軍営へと呼び寄せました。 [
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華やかな婚礼を信じて喜んでやってきたイーピゲネイアでしたが、アウリスに着くとそれが自分を殺すための罠であったという残酷な真実を知らされます。 [
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当初は涙ながらに命乞いをしたイーピゲネイアでしたが、ギリシア軍全体の運命や名誉、そして神々の意志の大きさを悟ると、
自ら進んで生贄になることを受け入れ、勇敢に祭壇へと登りました。 [
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この結末には、古代の文学作品によって大きく2つのパターンが存在します。
- 身代わりの救出(エウリーピデース等の説)
いよいよ刃が当てられようとしたその瞬間、女神アルテミスがイーピゲネイアを哀れんで彼女を連れ去り、代わりに一頭の牝鹿(ひめじか)を祭壇に残しました。命を救われたイーピゲネイアは、遠く離れたタウリケ(現在のクリミア半島周辺)のアルテミス神殿へと運ばれ、そこの女祭司として生き延びることになります。
- そのまま犠牲になった説(アイスキュロス等の説)
身代わりはなく、彼女はそのまま父親の手によって血を流し、息絶えたとされます。 [1, 2]
どちらの結末にせよ、残された母親の
クリュタイムネーストラーは「娘を騙して生贄に捧げた夫」への激しい憎悪を抱くようになります。 [
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トロイア戦争が終結し、10年ぶりに帰国したアガメムノーンは、妻とその愛人によって惨殺されます。さらにその後、取り残された弟オレステースが「父の復讐」として実の母を殺害するという、
アトレウス家(ミケーネ王家)の血で血を洗うさらなる悲劇へと繋がっていくことになります。 [
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