2026年7月6日月曜日

「『果てしなきスカーレット』は爆死してしまった」細田守が語る最新作の苦戦…「細田は変わった」と言われても、中学生の頃から変わらない“原点” | 集英社オンライン

「『果てしなきスカーレット』は爆死してしまった」細田守が語る最新作の苦戦…「細田は変わった」と言われても、中学生の頃から変わらない“原点” | 集英社オンライン

細田作品には、なぜ「仄暗さ」が宿るのか

──中学生の時に初めて作ったアニメーションが展示されていますが、ダークな作風ですよね。

細田守(以下同) 厨二病らしさが全面的に出ていますよね(笑)。

この映像は、もともと『少年ケニヤ』(1984)のアニメーター募集で東映に送ったものです。中間テストの時に母から「怪しい電話がかかってきた」と言われて、出てみたら東映からだった。

電話越しに「打ち合わせをしたいので、東京に来てください」と言われて「テスト前なので別日にしてほしい」とお願いしたんです。結局、学業優先ということでその時のお話はなくなりました(笑)。

「細田守の原点/展」では細田監督が初めて作ったアニメーションの展示も(撮影/山本倫子)
「細田守の原点/展」では細田監督が初めて作ったアニメーションの展示も(撮影/山本倫子)
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──すさまじい経験です。大学では一転、油絵専攻に進まれていますね。

成長とともに、現代美術や実写映画に興味が出るようになったんです。そういうこともあって、大学時代は実写映画ばかり見ていて、アニメーションはジブリ作品ぐらいしか見てなかったんですよ。

細田監督が油画専攻に在籍していた大学時代の作品
細田監督が油画専攻に在籍していた大学時代の作品

──展覧会では、大学時代の実写映画『SILENT』(1989年)​も展示されていました。

37年ぶりに見返しましたけど、辛辣なストーリーで自分でも驚きました。この映画は「コミュニケーションの手段としての『言葉』を捨てた集団の中に、『言葉』が復活して、『言葉』が人間関係を破壊していく」ストーリーなんですね。

──言葉が人間関係を壊す……。

「人間ってこういうものだよね」という気持ちを嘘をつかないで描くと、ああなる。『SILENT』は、21歳の頃に作った映画ですが、若い頃の方が、今より諦念や反骨精神が強かったように思います。

それはそれで20歳すぎの人間の正直な眼差しだった気もしますが、ある種の真実を描こうとしてる姿勢がある。それは今でも変わっていない。

──「真実」とは?

人生はそんなにうまくいかない。人を信じた先で、いろいろな問題は絶対に起きる。世の中は綺麗事だらけではない。そういう真実の部分を描かない物語は「甘い」ような気がして、作る気になれないんです。嘘をつきたくない、と言えばいいのかな。

細田作品の「原点」にあるものとは
細田作品の「原点」にあるものとは

──何かきっかけがないと、若くしてその境地に至れないような気がします。

ありますね、生々しい経験。

──どんな経験でしょう?

あまり声高に言いたいことではないのですが、僕は幼い頃から吃音なんです。Wikipediaには書かれているんですけど(笑)。

今はこうして言葉が出てきますけれど、子どもの頃は苦労しました。周りは口が動いて言葉が出るのに、自分はできない。普通に話せる人たちからのまなざしも感じる。そうすると自分の中にいろいろな感情が溜まっていってしまう。

普通の中学生だったらアニメなんか作らないと思うし、大学時代に言葉をテーマにした映画なんて選ばなかった。こうやって説明するといかにも図式っぽくて嫌ですけど、逃れられない衝動なのだと思います。

https://shueisha.online/articles/-/258007?disp=paging&page=2

原点にあるのは「言葉ではないもの」

──細田さんの作品には、セリフではなく絵の力で物語が進んでいく場面が多くあります。そうした表現には、ご自身のバックボーンも影響しているのでしょうか。

そうです。吃音だからこそ、言葉にもこだわるし、逆に言葉でない表現にもこだわらざるを得ない。

同じようなことを、山下達郎さんとも話したことがありました。「絵で伝えていることは、なかなか気づいてもらえない」とボヤいていたら、達郎さんが「音楽も同じだ」とうなずいてくださったんです。

曲を聴くことが、歌詞を読むことになっている人も多い。でも本当は、音そのものに込めているものがある。アニメーションも同じで、批評や感想の中心はセリフになることが多いけれど、作り手としては言葉以外のところに熱を込めていることがある。

『時をかける少女』の絵コンテ
『時をかける少女』の絵コンテ

──そうですね。

例えば『時をかける少女』(2006年)では、真琴が1分間走るシーンがあります。単に走っているわけではなくて、焦りや後悔、千昭に対する決意……言葉にできない感情を、走る身体そのものに託している。

言葉にすれば一言で済むかもしれないものを、絵と動きで、時間をかけて伝えようとしたシーンです。

アニメーションは、魂のような「目に見えないもの」を描くのに長けている表現だと思っているんですね。目には見えないけれど、確かにそこにある感情や気配を、絵にすることで届けられる。僕は、そういうことを信じて描いているんだと思います。

自分の原点にあるのは「言葉ではないもの」かもしれません。

https://shueisha.online/articles/-/258007?disp=paging&page=3

「細田は変わった」と言われることも多いけれど…

──細田さんが橋本カツヨ名義で絵コンテを担当した『少女革命ウテナ』の第29話「空より淡き瑠璃色の」(1997年放送)は、三角関係を椅子の向きで表現していたり、そういう姿勢が色濃く出てますよね。

『ウテナ』は、登場人物が言葉で言っていることは、嘘ばかりなんですよね。むしろ絵の方が真実を語る作品。29話は、樹璃というキャラクターのひとつの決着をつける回でもあります。

──樹璃は同性である枝織に思いを寄せながら、苦しんでいるキャラクターです。

樹璃は、気高くて、みんなに憧れられる存在なのに、すごく素朴な「ただ気持ちが伝わらない」ことに悩んでいる。そのアンバランスさがいいんですよ。そこにどう落とし前をつけるのか。それが29話でした。

東映動画でアニメーターとしてキャリアをスタートさせた細田監督
東映動画でアニメーターとしてキャリアをスタートさせた細田監督
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──あの回は、もともと脚本があったものを、細田さんが大きく変えたそうで。

懐かしい話!(笑) そうです。僕は7話「見果てぬ樹璃」から、延々と彼女を描いてきた人間でもあったので、思い入れがありました。

僕自身、優秀なスタッフに囲まれて、毎日戦っているような状態で、脱毛症になったり、心身ともにボロボロだった。彼女に共感する部分があったのだと思います。

当初予定されていた29話の脚本では樹璃がかわいそうで……そこで、幾原邦彦監督に相談して「スケジュールに間に合えば」という条件で許可してもらいました。時間がなかったので、最初から絵コンテを切ってます。

28話からは、不安定な状態の樹璃の前に、瑠果という男性キャラクターが登場する。瑠果は樹璃を傷つけるように振る舞うものの、実は彼が彼女を一番救おうとしているんです。

──瑠果は樹璃のことを想っているから。

でも、瑠果の気持ちも届かない。そのすれ違いも含めて、彼らの関係なんだと思います。だからこそ、樹璃にどう決着をつけてあげるかを考えた。幾原監督とは、相手を救うために自分が悪役を引き受ける『泣いた赤鬼』のような物語にしようと話しました。

──お話を聞いていると、最新作の『果てしなきスカーレット』(2025年)にも通じるものがあるように感じました。

そこはあまり届かなかったというか……『果てしなきスカーレット』は爆死してしまったし(苦笑)。

でも、僕の中ではつながっているんです。「強い女性を描くようになったのはなぜですか」と聞かれたり、「細田は強い女が好きなんだ」と見られたりすることもある。

でも、キャラクターの性別にこだわっているつもりはありません。男性キャラクターもたくさん描いてきましたからね。

「細田は変わった」と言われることもありますが、中学生の頃からやっていることは変わらない。根本的に「負けそうになっている人が負けないでほしい」という気持ちが強いんです。

──なぜそう思われるのですか?

……吃音ということも関係があるのかもしれません。言いたいことがあっても言えない。それをわかってもらえない。あの頃の経験が、自分の中にはずっとある。

僕は「負けそうな人が、そのまま負ける社会」が嫌なんです。どんな人生にも、負けそうになる瞬間があるでしょう。言葉が届かなかったり、誰かとすれ違ったり、自分ではどうにもできないことにぶつかったりする。

でも、その痛みをなかったことにはせず、それでも負けないでほしい。そう思っているんです。

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取材・文/嘉島唯

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