">https://x.com/df_inc/status/2038904142240833736?s=58</a>
INTRODUCTION
2025年11月22日より公開された細田 守監督作品『果てしなきスカーレット』では、デジタル・フロンティアがCGパートの制作を担当しており、1000以上のCGカットを手掛けている。本作は父を陥れ処刑した叔父・クローディアスへの復讐に失敗し、《死者の国》へ落ちた王女・スカーレットが、時を経て同じく《死者の国》にいる叔父への復讐を果たすべく《死者の国》を旅する物語だが、大きく分けて《死者の国》のパートがCG、現世のパートが作画によるアニメーションとなっている。本作のCGパートを手掛けたディレクター陣による対談とCGメイキングを紹介する。
LINK: 「果てしなきスカーレット」公式サイト(インタービュアー・テキスト:ビットプランクス 大河原浩一)
ディレクター座談会~新たな課題への挑戦
これまで、デジタル・フロンティアは『サマーウォーズ』から本作まで、多くの細田監督作品のCGパートを手掛けてきたが、これまでは仮想空間などのCG表現に留まっており、本作では初めてドラマパートでのCG起用ということで、多くのチャレンジがあったという。今回は、堀部 亮氏、下澤洋平氏、川村 泰氏のCGディレクター陣に本作のCG制作についてお話を伺った。

役割
まずは、『スカーレット』で担当された役割を教えてください。

CGディレクター
堀部 亮
キャラクターアセットを中心に、一部アニメーション、下澤と分担して最終コンポジットの監修を担当しました。細田監督とは『サマーウォーズ』(2009)から長くご一緒しています。作品ごとに変化するCGの役割を制作初期から共有しているので、ポスターや予告など、変則的な重要素材も監修するケースが多いですね。

CGディレクター
下澤 洋平
私は背景美術とエフェクト、コンポジット周りの統括として、最終的な画づくりのトーンコントロールを担いました。今回は雨や土煙といった環境要素もキャラクターと同じ“演技する存在”として扱う方針で、1カットごとに調整していきました。

CGディレクター
川村 泰
私は主にアニメーション監修を担当しました。今回は本編の約8〜9割がCGカットで、キャラクターもほぼ全てCGです。結果として、全体予算の約6割がアニメーション工程に充てられるほどのボリュームでした。700〜800カットほどを監修し、最初のルックデブ以降は、ほぼアニメーションにかかりきりでしたね。渋谷を舞台にした一部パートは、コンポジットまで自分で見ています。
プリプロダクション
まずは本作の制作期間や制作にあたってのプリプロダクションについてお伺いします。

CGディレクター
堀部 亮
最初の打合せが2022年の秋頃です。2023年に入ってシナリオやコンテが動きだし、世界観や作画パートとCGパートの作業分担に関する打合せが始まりました。スカーレットが生きている世界は作画、死んだ後の世界はCGという風に大きく切り分けられています。
前作『竜とそばかすの姫』と比べて、本作で注力した点や目標としたことは何でしょうか。

CGディレクター
堀部 亮
『竜とそばかすの姫』ではメインキャラクターをCGで描くことに挑戦し、成果を得ることができました。その経験を踏まえて、本作では大幅にCGのボリュームが増えています。復讐劇の舞台となる《死者の国》では、キャラクターの顔や服など泥や血にまみれるような表現が多いため、CGによる質感表現に適していたのではないでしょうか。
デジタル・フロンティアとしての目標は、膨大な制作ボリュームを効率よく進めていくワークフローの構築と、前作以上にキャラクターの芝居の量が増えているのでしっかりと感情を表現する演技を付けること、新しいキャラクタールックの開発、《死者の国》の世界観構築が目標となりました。

CGディレクター
下澤 洋平
前作で担当したパートは電脳空間という、割と画的に分かりやすい世界観だったので、空間もグラフィカルであったり、キャラクターのルックも従来のアニメ的な表現だったためあまり試行錯誤しなかったのですが、本作では全く新しいキャラクターのルックでやりたいという細田監督の考えもあったので、かなり汚しの多いルックになると言われていました、まったくルックに関しては未知数で。蓋を開けてみたら思っていたよりも大変で。

CGディレクター
堀部 亮
前作は電脳空間だったのでCGキャラクターを動かすことと相性が良かった。今回は現実の世界ではなく、死後の世界だけどキャラクターに生身感を表現しないといけない。いわゆるアニメの作画をベースとして描いたらどういうルック、動きになるのかを考えないといけなかったので。ではどう表現したらいいのかを考えるところがかなり大変でした。

CGディレクター
川村 泰
脚本を読むと普通の男女が普通に対話しているようなカットが多いので、アニメ作画的にCGキャラクターを動かすという点はもう避けられないというか。
前作の経験からCGキャラクター特有の硬さや冷たさといった部分は越えられると監督は踏んでいたのだと思いますが、アニメーションとしては大変でしたし、動きを飾るキャラクターのルックをどこに落とし込むかというのは非常に時間がかかりましたね。
試行錯誤したルック開発
キャラクターのルックの開発はどれぐらいの期間をかけているのでしょうか。


堀部
アニメーションの作業に入る前のキャラクターのルックを決める作業は、とても時間がかかりました。1年ぐらいルックデブにかかっています。キャラクターのルックは最初からセルルックに絞らずに、造形的な表現を含め様々なルックを試しています。まずはキャラクター単体のルックを探っていき、次に背景と合わせてバランスを調整していきました。
バランスが決まったところで動かしてみて、最終的に実際に使用するシーンに当てはめてコンポジットされた段階でようやくキャラクターのルックが決まりました。ファイナルをどうするんだという段階でやっと決まった感じです。

下澤
最初は前作のベルのモデルを使って色々と汚しのパターンとかを試していましたね。それが2022年ぐらい。2023年の6月ぐらいに実際に使用するスカーレットのモデルができはじめて、本格的なルックデブが始まっています。最初はCG感が残っていたり立体感が生々しかったりしていました。静止画レベルで膨大な量のパターンを作成して最終的に3パターンぐらいに絞られてところで、じゃあ動かしてみようということで今度はキャラクターを動かしながらルックを探っていきました。
このキャラクターを動かしながらのルックデブも結構な量を作ったのですが、その過程でだんだんCG臭さがそがれていって、セルアニメによった今のルックに近い形に落ち着いた。この頃になると背景のルックも決まりかけていたので、今度は背景に合わせてみようということになりました。背景に合わせた時に、絵画的なタッチを強めに入れたりしてみたのですが、監督から絵になっていないというようなフィードバックがあったり。
アニメ的背景美術のテイストを探る
本作の背景美術は非常に特徴的で、これまでの細田作品にはないルックになっています。監督とはどのようなやりとりをしながら制作が進められたのでしょうか。


下澤
我々と細田監督とで、色の捉え方というか絵に対する美意識に結構ちがいがあって、実写的な背景制作に慣れているので、アニメ的な背景美術の空間的なデフォルメを効かせたりという意識が弱く、監督から見ると絵になっていないと指摘されることが多かったですね。

川村
デジタル・フロンティアは実写も割と手掛けているので、これまで明度の差が32ビットの色域を活かした絵作りが多かったんですね。監督がイメージしている背景美術は、おそらく紙に描かれた絵の味わいを意識されてて、紙に描いた範囲の明度差なので、明度のレンジが凄く狭い。実写だとHDRなので結構な輝度があって、黒と白の階調表現が非常に広いですが、それをアニメの背景美術でそのような階調表現をしてしまうとどうもしっくりこない。なので、紙に描いた絵の明度の暗部と明度の明るい部分の差を作って階調を狭くして、その代わり色相を使って明度のレンジが少ない分を色数で補っていくという概念で背景美術は描かれているんだなと気付かされました。

下澤
CGとアニメでは、そういう技法的な部分が全然ちがう。CGだと狙っていようがいまいが、勝手に出力されてしまうものもあったりするので、当然そのままにはしないのですが、なんというか表現に対する甘えみたいな部分が、監督的に目についたんだろうと思います。その感覚をつかむのに結構苦労しました。
キャラクターと背景のマッチング
背景とキャラクターのルックの馴染みが難しそうですね。


下澤
キャラクターのルックや背景の方向性が決まりはじめたところで、キャラクターと背景をコンポジットしたときの馴染み具合を探っていくのですが、そのときに特に問題になったのが、夜のシーンでした。実写合成的な考え方だといかに自然に背景とキャラクターが馴染ませるかということに注力しますが、そうすると完全にキャラクターがシーンの中に埋没しちゃう。リムライトを入れて目立たせたりしていたのですが、それでもぱっと見たときにキャラクターが見づらいと監督からよく言われていました。最終的には色相をガラッと変えてキャラクターを浮き立たせる方向で落ち着いたのですが、我々としては中々その発想に自然とならない。キャラクターを背景から浮き立つように気を付けながらマッチングさせていくと、だいぶセルアニメーション的な趣になってきて、ようやく監督の感触も良くなってきて、ルックの方向性が見えてきた。それが2024年の9月ぐらいでした。
今回CG側では美術監督的な人を立てていないので、背景を作る上でアニメ作品としてどこをベースとして考えて絵作りをしていくのか全然わからなくて、CG的な美意識で画作りをしていたのですが途中からだんだん雲行きが怪しくなってしまって、途中から大久保錦一美術監督にお願いしてチェックに立ち会っていただくようにした。そのときに得られた知見というのが凄く大きかった。知見が蓄積されることでアニメの美術的な考え方が分かりはじめてから、背景制作が流れはじめた感じでしたね。
プリビズ制作
アニメーション絡みの話題に移りたいと思うのですが、本制作を前にプリビズのようなものは作られたのですか?

堀部
2024年1月ぐらいから11月ぐらいまでプリビズの作業をしていました。前作もアニメーションの前にラフアニメーションを作成して、監督と確認しながら進めていきたいと思っていたのですが、うまくいきませんでした。プリビズというのはCG特有の工程で、まずはラフなモデルや動きを作り、そこから段階を踏んで徐々にクオリティをあげていくことが一般的です。作画アニメの監督の方がチェックする場合、最初の段階はラフ過ぎて何をチェックしたらいいかわからないという反応でした。そこである程度きちんとアニメーションを詰めたムービーで確認してもらっていたんです。それなので、そこで演出がひっくり返ってしまうと、もう一度アニメーションを付け直しになってしまい効率がとても悪かったんです。
そこで今回はプレビズをしっかりと作成して、OKをいただいたうえでアニメーションの工程に進むという2段階でいきましょう、という了承をもらい進めていきました。細田監督はコンテの段階でレイアウトをきっちり取られる方なので、プリビズの段階でコンテの感じがでてないとチェックバックで水平線のラインの位置が違うとか、非常に細かい精度でリテイクがありました。

下澤
アニメ作品のレイアウトは、CGの発想とは全然ちがうんですよね。CGの場合大きなステージを用意しておいて、色々な角度で撮ろうっていう実写的な考え方があるんですが、アニメではそれができない。カットバイで色々な調整が必要になってくるっていうのがとても大変だと思っていました。アニメのパースの考え方とCGのパースの考え方では全然違う。そのアニメ特有の感じをつかむのに苦労しましたね。細田監督のコンテでは、パースの意味がすごくシビアで、コンテに描かれている何気ない線とかにも込められている情報量が凄く多い。序盤は苦労しながら読み取ってプリビズを作ってましたね。

川村
プリビズは最初ある程度使い回せるのではという考え方で進めていたのですが、徐々に崩れていって、結局カットバイカットになり始めていくという。

堀部
最初はキャラクターの芝居もワンカットに付き2ポーズぐらいの感覚で動かしていたのですが、制作が進むにつれてプリビズでタイミングを詰めたり、山下作画監督の絵もだんだん上がり始めたので、表情もプリビズの段階で詰めたりっていう感じになっていきました。そこまでプリビズの時に詰めているので、アニメーションの時にはもう迷いがないという状態になっていて、逆に良かった部分もありました。山下さんのレイアウトは監督の信頼度が非常に高いので、そこが担保されているだけでもアニメーターにとっては非常に安心感があったのではないですかね。

川村
最終的に表情をつくるために、顔をモデリングするみたいになってしまって。アニメーターはキャラクターを動かす作業に特化しているので、顔のモデル自体を編集するのは多分苦手な人がほとんどだったと思うんですよ。でもプリビズの段階で経験値の高いアニメーターの方に担当してもらったので、結果的に若手のアニメーターがカットを担当しても表情のアニメーションがやりやすかったと思います。顔の表情がはっきりしていないと感情が伝わらないので、表情さえしっかり作れていれば、コマが少なくても伝わるんですよね。

下澤
初期の頃の問題はプリビズ用のモデルとアニメーション用のモデルでアニメーションデータが引き継げない。顔の表情とかシルエットとかをプリビズでいじっても、アニメーションの時に再現しないといけないことになって、そこはアニメーターにとってはストレスだったんじゃないかな。制作が進むにつれて完全ではないけど、アニメーションを引き継げるようになったんだよね。

作画的なキャラクターアニメーションの追求
キャラクターアニメーションに関して、作成方法など前作から変化した部分はありますか。

川村
前作と違うところは、CGキャラクターであっても本当に作画に見えるアニメーションになっているというところですかね。CGで作画の良さを出すっていうのは凄くむずかしくて、ただ滑らかに動かせばいいていう感じではないので、山下さんのレイアウトをヒントにキャラクターのシルエットをデフォルメしたり、手の大きさを左右で変えたり、徹底して山下さんのレイアウトになるようにアニメーターは動きを付けてましたね。動きをつけるときのチェック項目を作って、チェックしながら作業してました。絵コンテを見れば、どのようにレイアウトすればいいか、動かせばいいかが全て読みとれるようになっている。
前作ではアニメ風な動きを意識してはいましたが、CGっぽい立体感が出ている場合に立体感をそぐような動きにしたりとかはあまりしなかったのですが、今回はカメラが動く様なショットを以外はほぼコマを落としています。

堀部
前作とちがって、今回は本当に作画に見えるCGキャラクターの動きを目指していたので、滑らかに動かせばいいというCG的な考えではなく作画的な動きを徹底しています。そのときに山下氏のレイアウトがあることで、ものすごく助かりました。

川村
フェイシャルの付け方に関しても、山下氏のレイアウトが非常に参考になっています。目の皺のラインも、カット毎にレイアウトを参考にしながら後から付け加えています。山下氏のレイアウトをみると、キャラクターの感情に合わせて線を使い分けているんですよね。二重のラインも悲しいときは交わる場所がちがっていたりとか。そういう所に気が付けないと難しい。
リアルとデフォルメのバランスを意識したアクションシーン
本作のアクションシーンはとてもダイナミックで見応えのあるアクションが多いのですが、どのような点に注力して作成されているのですか。

川村
アクションシーンは、とても難しいアクションが多いので、スタントコーディネーターの園村健介氏にアクションの殺陣を監修してもらい、アクションビデオコンテを作成してビデオを参考にしながら制作しています。実写のリファレンスがありますが、モーションキャプチャを使って居るわけではないので、アニメーションスキルが非常に高いスタッフが担当しているので、スムーズに制作することができました。
結構繊細な感情のやりとりがある演技がありますが、実写のリファレンスがあることでセリフを言う前の息遣いや、言い終わりの表情など繊細な感情表現をアニメーションに加えるため重宝しました。リアルさとデフォルメのバランスを意識しながら、特に呼吸感はほぼ全編にわたって意識的に演出して、キャラクターの存在感を高めています。
プレスコの効用
本作では事前に音声を収録するプレスコ方式を採用しています。プレスコにした理由をお聞かせください。

川村
今回アニメーションの段階で、とても有用だったのがアニメーション作業の前にセリフを収録するプレスコ方式を採用してもらったところだと思います。監督がプレスコの前に、プレスコ用のライカリールを作っていて、動くタイミングなどがとても分かりやすくなった。それに加えて音声もあるので、プリビズの精度をどんどんあげることができた。このライカリールがアニメーション付けに地味に効いていたと思います。
今回プレスコをお願いしたのは、キャラクターの声があるとアニメーターが触発されて、キャラクターがどれだけ怒っているのか、どれぐらい感情をおさえているのかはっきりするので、アニメーターが動きを付けやすい。音声があると無いとではアニメーションのクオリティに雲泥の差がでてしまう。ゼロから画コンテを読みとるというのは大変なので、音があるだけでも1000カットこなすには助けになりました。
伝統的なアニメーション手法をCGアニメーションに活用できた作品
最後に本作に携わってみて、感じたことや感想を伺いたいと思います。

堀部
私は『サマーウォーズ』から細田作品に参加させてもらい、本作で6作目なのですが、これまでの作品は、仮想世界の空間だったり、その中のアバターの制作を担当していました。今回の作品では、本編内の大部分のカットがCGで制作されており、とても感慨深いものがあります。過去作を担当している頃は自分たちがメインキャラクターまで担当して日常芝居まですることになるとは思っていなかったのですが、ここまで来たんだと感じており、このプロジェクトに参加できて良かったと思います。

川村
私は細田監督とはこれまであまり面識がなくて、前作も後半から参加したので今回初めて最初から係わらせてもらうことができて、大変勉強になりました。CGアニメーターとして参加していた『APPLESEED』でも1300カット近くキャラクターのアニメーションがありましたが、その時はモーションキャプチャーで対応していたので、手付けでキャラクターアニメーションをやってみたかったですよね。その20年後にこの作品をやれたのは、本当に大変でしたが、どこかですごく喜んでいる自分がいて。本当にこの作品に参加できて良かったです。

下澤
CGアニメーションを20年以上やってきた中で、自分の出力に対する言葉にならないようなもやっとした感覚があったのですが、伝統的なアニメーションって、おそらくそういう表現に対する疑問にひとつひとつ丁寧に向かい合った歴史があって、この作品に参加することで勉強になることがたくさんありました。自分のCGアニメーションでの足りなかったところは、元々あるアニメーションの技法を活かしたり、参考にしたら払拭できた事も多いのではと思わされました。伝統的な手法を取り入れることで、弊社で作る作品をもっといいところまで引っ張っていきたいと思います。
本作はCGキャラクターのアニメーションにおいて、エポックメイキングな作品のひとつになったと思います。今後の作品も楽しみにしています。貴重なお話ありがとうございました。


0 件のコメント:
コメントを投稿