2026年4月1日水曜日

果てしなきスカーレット CG

果てしなきスカーレット

果てしなきスカーレット

キャラクターのリギング

今作のリグ制作は、前作『竜とそばかすの姫』でのリギングで発生した課題を整理し分析するところから始まったという。課題は大きくふたつ。ひとつは衣装のシルエットや動きを物理シミュレーションベースで構築していたため、作画アニメのような誇張や特徴的な表現を作りづらかった点。もうひとつはリグの処理が重く、膨大なカット数を扱うには作業負荷が無視できない状態だった点だ。社内ではこのような課題と踏まえて、チーム構成やスキル分布、アニメーション工程との関係性を洗いだし、この結果から「スカーレットのリグを最適に組み、チーム全体で運用・改善できる体制を整える」ことを念頭に中長期的な視点での設計と教育を含めた準備が進められたという。
リグの制作は2023年夏頃から本格的な開発が始まった。まずはボディのリグから開発を行い、続いてキャラクターのベースリグ制作が行われた。キャラクター数が非常に多いため、プロポーションリグの仕組みを導入し、モブキャラクターを含め作業の効率化が図られている。リグの処理スピードの重さについては、これまでワールドスペースで構築されていたリグを、ローカルスペースへ全面的に移行。paralle環境で最適に動くように設計をすることで、処理速度は約5倍まで改善されたという。
 細田監督のレイアウトには、パースの強弱や線の抑揚、顔の歪みなど作画的な表現が多数描かれているため、監督が目指す絵として成立する見え方を目指してリグが設計されている。「アニメーション工程で形を作りきる」という前提の基、これまでシルエットやメッシュ調整はショット担当に任せていたが、アニメーター側で最後まで責任をもって制作できるようなリグを構築していったという。

リグ設計にあたって、ショットやキャラクターごとに必要なコントローラーを精査する「技法打ち」が実施されている。「技法打ち」では、アニメーター側から求められる表現を事前ヒアリングして、対応に必要な操作や調整項目を洗い出し工数を算出することで、アニメーション工程で想定される調整や手戻りの時間を事前に吸収することができ、その分アニメーター側の作業負担を減らし、カット制作に集中できる環境が作れたという。リグはLow/Mid/Highの三段階の構造になっており、作業の段階に合わせて切り替えることができるようになっているため、アニメーターはストレスなく効率的に作業ができるようになった

左からスカーレット、聖、馬のリグ構成。作画レイアウトに応じた誇張表現を可能にする補助骨などが設定されており、アニメーターがレイアウトの見た目に近づけられてように変形の自由度が高められている

補助骨を使った変形の例と、リグに仕込まれた補助骨の例。赤い部分が補助骨だ

衣装周りのリグのセレクター。物理シミュレーションベースのリグから、手付けによるアニメーションが容易になるようにリグが変更されている

フェイシャルリグ

前作のキャラクターに実装されていたフェイシャルリグは、機能としては必要十分とされていたので、本作では新しく構築するのではなく、より使いやすく改良する方向で開発が進んでいったという。「前作では、アニメのルックに寄せた作品が弊社では初めてだったので、開発をしながらショットワークも並行して進めていたために、用意していても使われていないリグの機能も多かった。今作では、それらの使われていない機能を精査して開発を進めていきました。」フェイシャルはジョイントベースで構築されているが、各コントローラーの大量のコントローラーを手動で操作するのは現実的ではないため、ジョイントがカーブに沿って動く仕組みを構築し、カーブのCVをアニメーションさせることでフェイシャルを制御する「カーブリグ」が使用されている。

スカーレットのフェイシャルリグ。左にあるのがカーブリグ。カーブを変形させるとその通りに表情が変化する

カーブリグの例。カーブの変形通りに目の輪郭が変形されているのがわかる

髪の生え際の形状もリグでコントロールすることができるようになっている

アニメーション

本作のアニメーションは、単純にCGでキャラクターを動かしているのではなく、細田監督の絵コンテとレイアウトを起点に、「2DでもCGでもない」と監督が語る表現を実現するため、アニメ-ション、リグ、クラウド(群衆)、シミュレーションの各チームが一体となったワークフローが組まれている。アニメーションチームはレイアウトからプリビズ、本番アニメーションへと進む独自のワークフローを構築し、実写のリファレンス撮影、汎用モーションの作成など組み合わせることで、膨大なカット数と物量をさばきつつ、キャラクターの芝居の密度を高めていったという。
本作のプリビズは、「ラフ」としてではなく、かなり作り込まれた「カットの設計図」に近いものになっている。レイアウトの数枚の画から、キャラクターのポーズ、カメラ位置、水平線の高さ、背景のパースなどを読み取り、「止め画」として成立しているCGレイアウト作ることが目的となっている。

アニメーション部門統括
プロジェクトリード

藤松 幸伸

レイアウトからプリビズを作成した例。プリビズがしっかり作成されることで経験の浅いアニメーターにもカットを振りやすく、最終的な画が大きく崩れないメリットがあるという

レイアウトに描かれたキャラクターの表情を忠実に再現するために、顔の皺の出方をコントロールすることができるToonLine Maker

本作は、CGでありながらキャラクターの豊かな表情変化も見どころのひとつだ

プリビズを作成する際に、本作では声優の声を事前に収録するプレスコ方式が採用されている。カット制作の前にキャラクターの声があることで、音声をベースにアニメーションを膨らませていくことができたという。細田作品としてもプレスコをしっかり使うやり方は新しい取り組みだったという。また、実写のリファレンスを撮影してキャラクターの動きの参考にする試みも試されている。「本来ならアニメーターが自分で考えるべき部分ではあるのですが、物量も多くクオリティのブレを抑えたいという狙いもあって、役者さんに演技をお願いして、参考映像を撮影しています。監督が直接ディレクションしているわけではなく、あくまでアニメーターが作業するための参考として使用しています」とプロジェクトリードの藤松幸伸氏。実写映像をそのままトレースするのではなく、身体の重さや視線の流れなど、アニメーションとして「これは効く」と思った要素を拾ってCGアニメーションに翻訳されている。キャプチャーに頼り過ぎていると、「キャプチャの癖」に引っ張られてしまうため、ヒーローショットのアクションや芝居はあえて手付けで作るという方針で制作が進められているという。

シーン26、スカーレットが聖と出会ってすぐのモブ兵士との戦闘のライカリール例。監督のコンテを基に、スタントコーディネーターの園村氏にビデオコンテとして演出を組み立ててもらい、デジタル・フロンティアの金井氏が演出を再構成している。3者の良いところが調和した非常に良い戦闘シーンとなった

群衆アニメーション

《死者の国》では、あらゆる時代・地域の人々が登場し、群衆表現も数多く見られる。
今作では、大規模な群衆のコントロールを可能にするため、新たにHoudiniを用いたパイプラインが組まれている。
開発はテクニカルディレクターの伊集朝用氏を中心に行われた。
データのやりとりにはUSDを使うことで、受け渡しやレンダリングをスムーズに進めることができ、前作より効率的に作業を行うことが出来た。

メインとなる群衆アニメーションはクラウドリードの飯田拓也氏が設計を行った。
モーションは、モーションキャプチャのデータをベースに作成されている。 その数は450種類にもなり、一部の動きは手付けで制作されたが他のアニメーションと違和感が無いように調整された。 また、群衆アニメーションは全てをシミュレーションで完結させず、Mayaで手付けしたアニメーションと合わせるために手作業で配置するなどの工夫も凝らされている。
監督が思い描くシーンの画を作るために、シミュレーションに拘らず手間のかかることも行った。

Houdiniを使った群衆シミュレーションの例。数万体規模のモブキャラクターによる群衆シーンをHoudiniによって制御し、監督の目指す画として完成させている

エフェクト

本作では、砂漠や荒野を舞台にしたロードムービーであるため、エフェクトの要素の大部分は煙や雨、稲妻などの環境エフェクトが多くを占めている。これらのエフェクトはHoudiniによって作成されている。

《死者の国》の上空は海になっているという設定であるため、空の表現も特殊な表現になっている。凪のときはほとんど白波も見えず、フラットな感じだが、ドラゴンの登場時は悪天となり、荒れた海のようになるなど多様なルックで構成されている。AOV素材を利用して、波形、流れ、密度が変化するようにHoudiniで設計されている

左上が採用された雷エフェクト。ドラゴンの放つ雷のようなエフェクトは普通の雷とはちがった表現が求められ、多数のバーションが試作されている。雷のエフェクトもHoudiniで作成されている

虚無化の例。《死者の国》で死ぬと虚無になるという設定から、この虚無化の表現をどのようにするか、監督と多数の議論を重ねながら表現の開発がおこなわれた。図は、試作された虚無化のエフェクトの数々。100種類以上のバリエーションが作成された。エフェクトリードの松井孝洋氏によれば「監督が求める画にどこまで近づけるか」が常に問われたという

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