映画「グラマ島の誘惑」〜クーデターと投降
戦前の価値観崩壊の上に制作された怪作、
「グラマ島の誘惑」中編です。
ミクロネシアあたりの小さな島、グラマ島に流れ着いた
宮様二人と御付き軍人という男3人に9人の女の生活は、
当初平時のヒエラルキーそのままに恙無く運んでいましたが、
そこはそれ、モデルとなったアナタハン島でもそうであったように
日を経るに従い、そこで生まれる人間関係が秩序を崩壊させていくのでした。
■下剋上発生
ある晩「お話ししようと」部屋に忍んでいき、すっかり嫌われる羽目に。
こちらはグループから離れて丘の上に移住した報道班員二人。
残された女たちの間では、彼女らがなぜか綺麗な白い服を着込み、
食べ物や薬を持っているらしい、という噂が立っていました。
そんな折、慰安婦が二人マラリアにかかったので、
助けを求めるため女将が彼女らの居住区を訪ねてみると、
報道班員たちは噂通りの生活をしており、チョコレートに缶詰、
キニーネを気前よく分け与えてくれました。
種明かしをすると、彼女らは、コロニーを去った後、島の反対側で
アメリカ軍の飛行機の残骸を発見したのです。
搭載されていた潤沢な物資で生き延び、落下傘で服を作って着ていました。
そして、様子を見にきた慰安婦たちに「蜂起」を扇動し始めるのでした。
それがなかなかに過激です。
「あんたたち、あれが本物の宮様だと思ってるの?
国民のことをいつも考えてくださってるお優しい天皇陛下の親戚が、
あんな食べることと女のことしか考えない下品な連中なわけないじゃない!」
下克上のクーデターが起こりました。
プラカードを持ち、皇族兄弟と兵藤を追いかけ回して縛り上げ、
自分達のコミュニティから追放して、
「もう威張る奴はいないわ。皆平等なのよ!」
追放されてトボトボと歩いて行く二人の宮様と一人の軍人。
「革命だね。しかし女の革命だから命は取られずに済んだ」
兵藤は怒り心頭ですが、為久殿下は案外のんびりと達観しています。
その頃女たちは宮様の住居を占拠し、賑やかに飲んで踊って歌っていました。
さて、島を歩いていた3人は、報道班員たちが既に発見していた
撃墜されたB29の残骸を見つけました。
この機体の残骸には、ちょっとしたいわくがあります。
実はこれ本物のB29の残骸で、川島監督がどうしてもこだわって
本物をセットに持ち込むことを主張し、実現したものなのです。
その頃はまだ戦争中の名残が国内で手付かずになっていたのかもしれません。
スタッフは機体を手に入れるため、まず防衛庁と航空会社に交渉しましたが、
全く成果はなく(というか相手にされなかったんだと思う)
ついに最後の手段、脚本を英訳して米軍立川基地に持ち込み、交渉しました。
米軍は持ち込まれた脚本をつぶさにチェックした結果、
全くこの内容に政治的な問題はない、と返答した上、
その筋に協力させて、B29の機体残骸を入手して提供してくれました。
二つに輪切りにされたB 29は、半分づつ、トレーラーで
ロケ地のあった千葉に運ばれた・・・ということです。
特に当時の日本では、残骸とはいえ、もしそこで誰かが亡くなっていたら、
それだけでダメになりそうな話ですが、アメリカ人にとっては
全くその辺に対するタブーはないのが幸いしたということかもしれません。
機体の中に恐る恐る踏み込んだ3人が見たものは、
ノーズペイントを描くための見本なのか、肌も顕わな女性の写真でした。
男たちが生唾を飲み込んでいると、機体の奥に人影が動きました。
物資を漁りにきていたカナカの男、ウルメルでした。
兵藤は機内にあった銃で迷わず彼を撃ち、その姿は崖下に落ちていきます。
「殺さなくたっていいのに」
得意になってそれを報告する兵藤に、為久はかなり引き気味。
しかも兵藤が、この銃で脅かして、女たちを軍事裁判にかけて処刑してやる、
とまで息巻き始めると、為久はため息をつき、
「連中が死んだら誰が私たちのために働くんだ」
兵藤は軍人の固定概念に縛られたドグマに忠実で残忍な男ですが、
殿下にとって平民の命は自分達の生活のための労働力に過ぎません。
いい悪いではなく、そのことに疑問も持っていない、
殿上世界に生きてきた人間特有の傲慢さがここに垣間見えます。
しかし、兵藤が、革命の首謀者である坪井すみ子だけでも殺してはというと、
命令だからあの女だけは殺してはいかん、と珍しく強く言います。
兵藤は不満げな様子を隠しません。
■兵藤中佐の死
墜落機から写真の現像液を手に入れた為永は、
早速マイアルバムを作成しております。
木で作ったアルバムのページには、未亡人の姿が多数貼られることに。
この写真が、のちにとんでもない事情で使われることになるのですが、
この時の為永はそんなことなど知る由もありません。
そこここに飾られるようになりました。
銃を手に入れたことで権力を取り戻した兵藤。
なぜか'たつ'はお払い箱となり、お相手は詩人の香坂に代わりました。
その時です。
兵藤が殺したと思われたウルメルが皆の前に姿を表しました。
兵藤が銃を持って追いかけ回しますが、派手な立ち回りの末、
(家をぐるぐる同じ方向に回り、背中を向けた相手に気づかないなど
いかにもベタな喜劇展開)銃声が1発響きました。
そして皆の前に姿を表したのはウルメルだけ。
全てを見ていた未亡人と坪井すみ子が皆の前に現れ、
兵藤は追いかけっこの末、「心臓発作で」死んだと言います。
「えええ〜!」
本当に心臓発作だったか解き明かされぬまま、兵藤の出番はここで終わり。
今やウルメルは武器を手に入れた島の実力者となりましたが、
しかし、権力を得た彼が欲したのは、ただ一つのこと、いや女性でした。
彼は上山とみ子未亡人を連れて島のどこかに姿を消し、
2度と人々の前に姿を現すことはなかったのです。
グラマ島の構成員は、いつの間にか男二人、宮様兄弟だけになりました。
女性は未亡人の上山とみ子がウルメルに連れていかれたので8人です。
島での生活も月日が重なっていくと、そのうち
委員長を香椎為永とするグラマ島自治運営員会も創立されました。
ちなみに香椎為久の役割は「宴会委員」となっています。
階級社会は一旦クーデターによって破壊されたという建前上、
この島で皇族は身分を主張しないことと決まりました。
自由平等の民主制度がここグラマ島に生まれることになったのです。
全員で椰子の木を削って作った待望のカヌーもようやく出来上がり、
いよいよ進水式というある日のことでした。
進水前のカヌー「あほうどり」号上に、香椎宮為久殿下、
もとい、香椎為久と慰安婦のあいの姿がありました。
彼らは、誰も見ていない間に、何を思ったのか沖に漕ぎ出してしまいます。
二人がいないのに気づいた全員が進水式会場に来てみると、
「めんそーれ〜!」「さらば〜!」
既に沖に向かいつつあるあほうどり号。
二人はその後、島から姿を消してしまいました。
(音楽はハワイアン調)
それっきり二人は島には二度と帰ってきませんでした。
島の四つの墓標の前で、香椎宮為久王殿下、兵藤惣五郎陸軍中佐、
名護あい及びその娘の1年記念法要が行われております。
今や島でたった一人の男性となった為永が、
USAFの印のついたトイレットペーパーを巻き紙に、
法要の弔辞を読み上げて儀式は終わりました。
轟音と共に沖でキノコ雲が発生!
「あんたあれ見てなんか変なこと想像してない?」
「まあやーだあ、オホホホ」
彼女らは終戦前に島に流れ着いたので誰も原爆のなんたるかを知りません。
■ 投降
それによると、もう戦争は6年前に終わっているではありませんか。
早速米軍に投稿した彼らを出迎えたのは、通訳とサイパンの民生部長、
G.P.ジョンソン少佐、連絡将校のハガティ中佐でした。
ジョンソン中佐を演じるのは、当ブログでもおなじみハロルド・コンウェイ。
そしてハガティ中佐役はアレキサンダー・ヤコブ。
「ワタシ通訳の赤井八郎座右衛門でいらっしゃいます。
彼方連絡将校のハガティ中佐でござります」
という日本語が達者なようなそうでもないような2世役は、加藤武。
香椎為永に質問します。
「アンタ、宮様でござりまするか?」
「はい」
「ヒー・イズ・プリンス」と聞いてジョンソン司令は畏まり、
握手と敬礼を求め、ハガティ中佐も最敬礼で挨拶します。
ちなみにこのハガティ中佐の英語は、
「アイム・コマンダル・ハガティ、ハピトゥミーチュー」
とあんまり「ハガティ」っぽくない発音です。
この役者、フィリピンかヒスパニック系の人なんじゃないかしら。
逆に加藤武の英語の発音が恐ろしく上手なので、あらためて経歴を見ると、
早稲田大学英文科を卒業した人でした。
奇しくも為永役のフランキー堺とは麻布中学の同級生だったそうです。
その頃、報道班員坪井すみ子は、ウルメルに拉致?された未亡人に、
皆と一緒に日本に帰ることを熱心に説得していました。
しかしどういうわけか、彼女はウルメルとここで暮らすことを選びます。
島の女たちがいわゆる「玄人」でノリが良かったせいか、
尋問の合間にすっかり米兵たちは女性たちと仲良くなっていました。
いつの間にかダンスパーティが開催されております。
すみ子がウルメルととみ子を連れてくると言いながら、
一向に帰ってこないので、ジョンソン司令官は困惑します。
赤井八郎座右衛門通訳を通じて、
「その二人ねー、今日我々が迎えにいらっしゃいますことを
知っていたでしょうかしら〜?」
「あと十分お待ちたてまつるのでございます」
などと伝えていると、そこに坪井すみ子が帰ってきて衝撃の一言を・・・。
「(二人とも)死んでました」
一人の男と7人の女を乗せた船はグラマ島を出港し日本に向かいました。
っていうか、これどう見てもアメリカ海軍の船じゃないよね?
島の先端には、その船を見送るウルメルととみ子の姿がありました。
二人は死んだわけではなく、島に残ることを選んだだけだったのです。
ちなみにウルメルが着ているのは米軍第13爆撃隊のステンシル入りシャツで、
テントか何かを拾ってきて、とみ子が仕立て直したものだと思われます。
たった二人でこの島で生きていくつもりなのでしょうか。
続く。
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