【トリック図解!】ミステリーネタバレ感想「虚無への供物」中井英夫
日本3大奇書といわれるミステリーがある。
『ドグラ・マグラ』夢野久作
『黒死館殺人事件』小栗虫太郎
『虚無への供物』中井英夫
ドグラマグラや黒死館殺人事件はさすが奇書と言われるだけあって、ものすごく読みにくくて難解。
しかし虚無への供物はこれらの中で一番まとも(?)で、ミステリー好きには嬉しい要素が詰まっている。
多重解決、作中作、4つの密室、過去のミステリーへのオマージュ、メタ展開などなど。
今でこそいろいろなミステリーが登場し、バカミスなんていわれるものも存在するが、虚無への供物が出版されたのは1964年である。
当時はいかにセンセーショナルであったかは想像に難くない。
とんでもミステリー、バカミスの元祖と言えるのかもしれない。
ミステリーベスト10のネタバレ感想・解説。
今回は3大奇書の1冊「虚無への供物」。
目次
- 「虚無への供物」のあらすじ
- 「虚無への供物」のネタバレ解説
- ①密室の病死
- ②密室の事故
- ③密室の自殺
- ④密室での他殺
- 「虚無への供物」の真相
- 「虚無への供物」の真犯人
- まとめ
「虚無への供物」のあらすじ
あらすじ
氷沼家を舞台として繰り広げられる奇妙な殺人事件。その現場に居合わせた主人公たちが推理合戦を交わす。
この小説の特徴は荒唐無稽な作風。
殺人事件が起きる前から、その殺人事件を解決してしまおうと推理が始まる。
また登場人物たちは全員がミステリー好きで、事件が起きるたびに各々が好き勝手に推理を行う。
たとえば、事件は五色不動になぞって起きている、犯人は不動明王の使者であるコンガラ童子だと言ったり……。
推理もユニークで、仏教や植物学、色彩学、遺伝子学、色彩学、SM、シャンソンなど、さまざまな分野の専門知識を駆使して推理が行われる。
全編にわたってずっと推理が行われるこの作品。事件は4つの密室で起こる。
- 密室の病死
- 密室の事故
- 密室の自殺
- 密室の他殺
ミステリー好きの自分はこれを見ただけでワクワクする。
これらは事件なのか事故なのか。はっきりしないままストーリーは進む。
以下ネタバレあり
ネタバレなしの感想はこちら>>絶対読むべきおすすめミステリーランキング10
「虚無への供物」のネタバレ解説
①密室の病死
密室の浴室の中で心臓の発作で死んだ紅司。
紅司の背中には十字のみみず腫れ。浴室には謎の赤い毬が残されていた。
これは事件なのか事故なのか。
浮かび上がるのは4人の容疑者。
■不動明王の使者説
不動明王の使者の小人(コンガラ童子)が洗濯機の中に潜んでいた。
■10年前に死んだ黄司説
10年前に死んだはずの黄司が生きていた!
■紅司の自作自演
発見時紅司はまだ生きていた。その後、別人の死体と入れ替わった。
■謎の人物・鴻巣玄次説
謎の男玄次の仕業だった。玄次は橙二郎と協力し、自殺に見せかけて紅司を殺害した。
現実離れしたものから、本格っぽいものまで、各々の推理からはこの小説の方向性がまったく読めない。
不動明王の使者が出現する幻想小説なのか、死んだはずの人間が生きていたというオチがある小説なのか、それともフェアなトリックが仕掛けられた本格推理小説なのか。
しかし真相は分からず、次の事件が起こる。
②密室の事故
密室の寝室でガス事故によって死亡した橙司。これは事故なのか事件なのか。
披露される容疑者は3人(2人と1体)。
■機械仕掛けの人形説
機械仕掛けの人形がガス栓を開けた。
■藍司説
藍司がガスの噴き出す仕掛けを部屋に設置していた。
■謎の人物・鴻巣玄次説
玄次が合鍵を使って寝室へ侵入しガス栓を開けた。
第二の事件の推理はパッとしないが、再び登場する謎の男玄次。
しかしその存在は否定されてしまう。
鴻巣玄次という人間はこの世にはいない。それだけは確かなことなんだ。
そして真相ははっきりしないまま上巻は終了する。
何とも言えない読後感である。
③密室の自殺
ところが下巻に入り、存在が否定されたはずの虚構の人物玄次が実在することが明らかになる。
事件は新展開をむかえ、この辺りが虚無への供物の中で一番面白いところ。
密室の中で自殺した玄次。これは事故なのか事件なのか。
■10年前に死んだはずの黄司説
再び推理に黄司が登場。
隠し通路を使って部屋に出入りし、自殺に見せかけた。
しかし実際には隠し通路は存在せず、やはり事件の真相は不明。
④密室での他殺
4つ目の密室はかなりトリッキー。
事件の謎を解くため、第四の事件が起こる前に自分たちで密室を準備することになる。
最後の事件は作中作の中で起きる。
犯人は黄司。
しかしあくまでもフィクションであり、事件の真相はうやむやである。
この作中作に隠された意図を読み取ることで、事件の真相がわかるというが…。
肝心の探偵が煙に巻くような発言ばかりしていて、作中作の意味もはっきりしない。
ここら辺から、物語が迷走してしまうように見える。
どれが事実で、どれが虚構だったのか。
死んだはずの黄司はいるのか、だれとだれが共犯なのか。
何かとんでもない真相が隠されているのだろうかと、ページをめくる手が止まらない!
ところが…。
「虚無への供物」の真相
しかし期待が高まる中、事件の真相は随分とあっさりとしたものだった。
■密室の病死の真相
紅司死んだのは事故だった。
蒼司が死体を風呂場へ運び、洗濯機を利用したトリックで密室にした。
■密室の事故の真相
これだけが殺人。
蒼司があらかじめ橙二郎を殺害していた。
鍵は開いていたが、閉まっているフリをして密室に見せかけた。
■密室の自殺の真相
ただの自殺。
事件とは関係なし。
■密室の他殺の真相
蒼司の殺人を告発するための小説。
物語中で語られた、薔薇の色彩の呪い、五色不動の呪い、氷沼家の呪い、シャンソンの見立てなどは、すべて真相とは無関係。
玄次の事件もまったく関係なし。黄司も存在しない。
密室の病死に関しては電話線のトリックが仕掛けられている
電話線の切替工事があり、九段の電話番号が一時的に隣の空き家につながっていた。
皓吉に家にいたため蒼司の犯行は不可能とされていたが、実は近くにいて死体を運ぶことができた。
しかし、そもそも殺人ではないためトリックの重要性は乏しい。
さんざん気を持たせておいて、実は大きな仕掛けも感動ストーリーも何もないというのが真相だった。
そこからメタ展開に突入し、突如提示される「読者が犯人」というフレーズ。
ページの外の読者に向かって「あなたが犯人だ」って指差す、そんな小説にしたいの。
真犯人はあたしたち御見物衆には違いないけど、どれは読者も同じでしょう。
意外な犯人にしては唐突すぎるし、意味もよくわからない。
思わせぶりに謎的をたくさん提示しながらもはぐらかし、風呂敷を広げておいて結末は肩すかし、というのが最初の印象だった。
しかしよく読み返してみると、それも作者の掌の上なのである。
「虚無への供物」の真犯人
「真犯人は読者」の意味をよく考えてみる。
なんでもない事故を、面白おかしく騒ぎ立てて事件に仕立て上げた、まわりの人間たちが犯人だということ。
さらに「どんなトリックで人を殺したのか」とワクワクしながら殺人小説を読んでる読者をも批判している。
つまり「真相が大したことない事件を、まわりの人間たちが面白おかしく騒ぎ立てる」というプロットが最初にあったということである。
それによってミステリー小説そのものの不謹慎さを非難しようとしたのだ。
最初はオチが弱いなと感じたが、改めて読み直すと「肩透かしなオチ自体が仕掛け」という小説の構造に気づいた。
「虚無への供物」はトリックやどんでん返しを楽しむ推理小説ではなく、ミステリー自体を否定するアンチミステリーなのだ。
まとめ
虚無への供物はミステリーの不謹慎さを否定するアンチミステリーである。
しかし謎が謎を呼ぶ物語の途中経過は、推理小説としても抜群に面白い。
ミステリー作家としてそれだけの筆力を持ちながらも、あえてミステリーファンを納得させるオチをつけなかった。
この結論にたどり着けば小説の本当の価値がわかるのでないかと思う。
肩透かしなオチ自体を仕掛けにしてしまう。
そのひねくれたところに強い魅力を感じる小説である。
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