2026年4月1日水曜日

果てしなきスカーレット コンポジット⑩

果てしなきスカーレット

果てしなきスカーレット

コンポジット

アニメーション作業が終わったカットは、ショットワークによって、ルールに則って素材がレンダリングされ、コンポジット作業を経て最終的な画として完成する。本作では非常にルックのバリエーションが多いため、効率良く処理するための工夫が随所に施されている。

ショットワークの基本フォーマット

コンポジットの作業に入る前に、アニメーション作業の終わったキャラクター素材や背景素材がレンダリングされる。この作業をデジタル・フロンティアではショットワークと呼んでいる。背景のショットワークでは、アニメーション班が編集した背景モデルを、レンダリング用のモデルでも再現し、さらにルックの調整なども施されている。背景素材はUEやMayaから基本的にフォトリアルな素材が出力されている。キャラクターのショットワークでは、陰影素材の調整、キャラクターのアウトライン調整、アニメーション後に必要な部分のシェイプやめり込み調整用の素材がレンダリングされている。

スカーレットのショットワークの例。スカーレットの場合、髪の種類だけで23種類あるが、カットごとに細かい調整をアニメーションで施しているため、必要に応じて上のエクステモデルが追加されるなど、めり込みやアウトラインの再調整が非常に多く発生したという。ショットワークの作業はショットワーク班の他に、キャラクターモデリングが終わったキャラクター班がメインで作業しており、モデルに長けた人材でチーム構成できたのが非常に良かったという

ショットワークでは、作画監督によるレイアウトがリファレンスとなる

カットごとの設定に合わせて、Substance 3D Painterでカット専用の陰影テクスチャも作成された。白い部分は常に光があたる部分、グレー50%はシーンのライトに反応する部分、黒は常に影になる部分

コンポジットで、陰影用テクスチャを適用する前の状態と
Substance 3D Painterで作成した陰影テクスチャを適用し、目の下の隈や汚しを入れた状態

カットによっては、モデルをカット用にアニメーターが変形を施している場合もある。アニメーション工程後のシェイプを調整する前の状態とシェイプを調整した状態

シェイプの調整例。最終的なシェイプ調整は造形的なニュアンスを考慮して、ライティング工程で行われる

ライティング工程におけるNukeの使用
今作から、ライティング工程からNukeを使って陰影やラインのインク調整などが行われ、最終的にコンポジット班へ調整されたNukeのノードが引き継ぎされている。ライティング工程からNukeを使用することによって、コンポジット作業による手戻りを無くし、作業効率が改善されている。

スカーレットの髪の毛のエクステンション境界のうち交差する部分にマスクが切られていない状態とNukeでマスクが作成され、ゴミなどが取り除かれた状態

Nukeによる今作特有の合成処理
今作のカットごとのコンポジットは、Nukeを使って行われている。特に今作のコンポジットで注力したのが、「シーンごとの汚し処理の強弱調整」、「タッチの追加、はみ出し処理」、「背景とキャラクターの同化問題の解決」の3点だ。

まず、「シーンごとの汚し処理の強弱調整」は、AOVs素材を利用してNuke上で合成処理を行うことで強弱が調整されている。AOVsによって出力される素材は、トーンマスク関連で11種類、ライトや反射など物理ベースの情報を持った素材が18種類と膨大な量の素材が出力され、汚し処理に使用されている。高橋孝弥氏によればこのAOVsによる処理によって、これまでキーショットが終わっていないと色が決まらないのでライティングができないということがあったが、今回はシーンの色が決定していない状態でも、アニメーションが完了していれば、色を考えずに素材だけを出力してしまえるという利点があったという。

コンポジットのためにレンダリングされたトーンマスク関連の素材。(左上から、rgba、matteM、matteN、MiddleToneB、MiddleTone、ShadowTone、ShadowToneB、ToneMaskA、Ink、InkColor、MaskC )

ライト、反射、法線など物理ベースの情報に関する素材。(左上から、rgba 、depth、worldPosition、BackDiffuse、fresnel、
KeySpecular、uv_extra、DomeSpecular、ambOcclusion、BackSpecular、DiffuseColor、DomeDiffuse、GI、KeyDiffuse、SelfIllum、worldNormal、pref、velocity)

ライティング段階から個別の汚しの有無がチャンネルとして用意されており、図赤枠内の「parts毎_汚し調整」ノードを使って適用度をカットごとに細かくブレンドできるようになっている

タッチテクスチャの例。ブラシのタッチのようなテクスチャを複数用意し、UVにシティマップで貼り付け処理ごとに変えられるように幾つかのパターンが用意されている

タッチテクスチャをディストーションソースで影の形を滲ませて、はみ出し処理を行なっている。

コンポジットの基本構成とキャラクターを際立たせる処理
コンポジットでの主な処理は、ベースシェーディング、陰影、汚し、はみ出し等のタッチ、2D的なライティングエフェクト、カラーコレクション、タッチ強調処理などがあるが、前半の対談にもあるように、背景とキャラクターをコンポジットした時のバランスの取り方を探るのが非常に難しい作業となったという。当初は背景とキャラクターを同系色でまとめる方向で進めていたが、監督からのフィードバックの結果、背景とキャラクターの色相をずらし、キャラクターを際立たせる方向へ方針変更された。キャラクターの色相を調整することで、汚しなどキャラクターの情報量が多くなっても背景と同化することなく、キャラクターを際立たせることができたという。

作画素材をCGと同じフローで扱う
CGと作画のキャラクターが混在するカットは、別フローで馴染ませるよりも、作画素材をCG素材と同等の構造に寄せて、同一フローで処理されている。例えば、CGキャラクターと作画のキャラクターが同一画面にある場合は、CGキャラクターチームが作画に対して、Photoshopで汚しを加筆しコンポジットを行なっている。また作画素材であっても、After Effectsで編集し、CGにおけるAOVsに相当するマスク素材を生成し、コンポジットに利用されているという。生成したAOVsに相当する素材を使用することで、作画キャラクターもCGキャラクターと同様のノード構成でコンポジットされ、ルックの統一が図られている。

作画素材(手の部分)にPhotoshopで汚しを追加した状態

作画素材からAfterEffectsを使って生成されたマスク素材の例。(ToneMask、Ink、ShadowTone、MiddleToneなど)

NukeのSmartVectorで作画素材の動きを解析し、VectorDistorなどを使って汚しテクスチャやタッチ処理を追従させている

Nukeのノード例。CGキャラクターも作画素材も同一のノードで処理されているのがわかる

汚し処理をしていない作画素材とNukeを使って汚し処理を施した状態。作画の動きに合わせて汚し素材が追従されている

『果てしなきスカーレット』では、デジタル・フロンティアが培ってきたCG制作技術と、新たな表現への挑戦を掛け合わせることで、作品世界を支える多彩なビジュアル表現を実現しました。
ルック開発から背景、リギング、アニメーション、群衆、エフェクト、コンポジットまで、各工程が連携しながら積み上げた試行錯誤は、今後の映像制作にもつながる大きな財産となっています。
これからもデジタル・フロンティアは、作品に最適な表現を追求し、技術とクリエイティブの力で新たな映像体験を生み出していきます。

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