2026年2月25日水曜日

Letterboxd の名作映画上位500選で、小林正樹作品がトップに。|rain-bow

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Letterboxd の名作映画上位500選で、小林正樹作品がトップに。

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1年で倍に増えるペースで急速に拡大し、会員2600万人を突破した映画特化SNS、Letterboxd
今20~40代の映画業界人や映画好きガチ勢が最も集まるサービスが、評価の高いものから500作品の公式リストを公開した。
世界各国の映画が含まれる大変興味深いリストだ。並んだポスターだけでも目を楽しませてくれる。

十二人の怒れる男(1954)』『炎628(1985)』といった史上屈指の名作映画を押さえて、トップに立っているのは今年没後30年の 小林正樹 監督作品だ。なんと10位までに小林正樹黒澤明の2人だけで5作品(すべて仲代達也の主演作ないしデビュー作)、25位までに8作品が入っている。
半世紀が過ぎても、世界の映画業界若手に邦画の黄金時代が評価され続けているのは驚くべきことだ。

続いて26位高畑勲、27位夏エヴァで、これが全体でもアニメの最上位。
100位以内にアニメはこの2作と、千と千尋、スパイダーバース2作、そして今敏の合計6作品のみ。アニメにおける邦アニの評価の高さと、実写との関係がなかなか興味深い。

以下、邦画を抽出してみた。

なお、これらは物語形式の長編映画(最低40分)、映画祭プレミア、劇場配給、またはプロフェッショナルなストリーミング配信が行われた作品から、Letterboxdメンバーの平均評価の高い順に500作品を抽出したものであり、ドキュメンタリー映画などは対象外となっている。


1位:小林正樹 『切腹(1962)』

昨年亡くなった名優・仲代達也が主演した、時代劇映画。
滝口康彦の小説『異聞浪人記(1958)』を元に橋本忍が脚本を書き、小林正樹が演出・監督した。
江戸初期、狂言切腹という珍妙な流行があった。食い詰め浪人が、大名屋敷を訪ねて「切腹したいから晴れの舞台に玄関先をお借りしたい」と願い出る。実はもとより腹を切る気などなく、金が目当ての浅ましい行為だ。井伊家の上屋敷に来た津雲半四郎と名乗る浪人もその類と思われた。しかし ――

小林はこれまで、『人間の條件(1959-61、後述)』など社会派ドラマを主軸としており、これが初の時代劇だった。ライバルの黒澤が『七人の侍(1954、後述)』で実現したリアリズム時代劇を、小林はさらに推し進め、ついに狂気の領域に手をかけた。
終盤の護持院原における決闘シーン、津雲半四郎を演じる仲代と、沢潟彦九郎を演じる丹波哲郎は、竹光ではなく真剣を用いた文字通り命懸けの撮影を行った。これは近年の『侍タイムスリッパー(2023)』の劇中でオマージュされている。

第16回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞、第17回毎日映画コンクールでは日本映画大賞・音楽賞・美術賞・録音賞を受賞した。
また、ブルーリボン賞では橋本忍が脚本賞を受賞。

本作を半世紀後、三池崇史の手でリメイクしたのが『一命(2011)』だ。市川海老蔵が津雲役を、仲代を師と仰ぐ役所広司が家老役を演じ、坂本龍一が作曲している。


2位:小林正樹 『人間の條件 完結編(1961)』

仲代達也は、「鬼の小林」と呼ばれた松竹の名監督、小林正樹に見いだされ、戦争を描いた超大作『人間の條件』で主人公・梶役を務めた。

五味川純平の同名小説を原作とし、全6部を映画3部作に構成し直したのが本作。総上映時間は三部作全体で実に9時間半に及ぶが、内容は間延びせず、豪華な出演陣を使った重厚なドラマが展開する。

第16回毎日映画コンクール で日本映画大賞、監督賞(小林正樹)、脚本賞(松山善三)、男優主演賞(仲代達矢)、撮影賞(宮島義勇)を受賞。

上位に見当たらないが、自分は小林正樹作品だと、小泉八雲を原作とするオムニバス・ホラー映画『怪談(1965)』がより気に入っている。面々は本作とかなり共通。ホラー好きな方は、そちらもぜひ。


5位:黒澤明 『七人の侍(1954)』

黒澤明の代表作。それまで舞台演劇の延長で、様式的だった時代劇を、ジョン・フォードの西部劇に学び、脚本と撮影と編集に工夫をこらして、まったく新しい、泥臭く人間らしい群像劇として描いた。
黒澤明、橋本忍小国英雄による共同脚本。
戦中から映画音楽に進出した早坂文雄が、黒澤の『酔いどれ天使(1948)』『羅生門(1950)』に続き劇伴を作曲している。

あらゆる映画ランキングで上位に入る名作で、今観てもまったく見劣りしない。
特に主演の志村喬、侍らしからぬ役柄を怪演した三船敏郎、逆に侍らしい役の宮口精二らの演技が印象深く、三船の演じた菊千代のセリフは、生涯心に残る。
ちなみに、1位・2位の小林正樹作品で主役を務めた仲代達也の映画デビューも本作。セリフなしの浪人役で登場する。

第15回ヴェネツィア国際映画祭では銀獅子賞を受賞。
直接的リメイクで英題も同じ『荒野の七人(1960)』の他、『スター・ウォーズ(1977)』など、世界中で大量に模倣策やオマージュを生んだ。
100人以上のプロ批評家が、全員肯定的評価を下した、十数本しか史上に存在しない Rotten Tomatoesの支持率100%の映画 のうちのひとつ。
未見の方も、絶対に一度は観るべき


6位:黒澤明 『天国と地獄(1963)』

黒澤明が、エド・マクベイン(87分署シリーズ)の小説『King's Ransom』を原作に、舞台を高度経済成長期の横浜へと大胆に移植した社会派サスペンス。
脚本は黒澤明・小国英雄・久板栄二郎・菊島隆三。音楽は佐藤勝。三船敏郎が製靴会社重役・権藤金吾を演じ、仲代達矢が対立派の重役を務める。

物語は、権藤の邸宅にかかってきた一本の電話から始まる。誘拐されたのは権藤の息子――のはずだったが、実際に連れ去られたのは運転手の子だった。だが犯人は身代金を要求する。会社の主導権争いの渦中にあり、全財産を投じて勝負に出ようとしていた権藤は、他人の子のために破滅的な決断を迫られる。

前半は、丘の上の豪邸の応接間という、閉鎖空間の緊迫劇。ほぼ一室で展開する会話と視線の交錯、横一線に並ぶ人物配置、窓外に広がる港町の俯瞰が、「天国」と「地獄」の視覚的対比を作る。前半の静と、後半の動。後半は一転して、横浜の街へと舞台が解き放たれ、電車内の受け渡し、スラム街、麻薬窟へと捜査が拡張する。
誘拐劇でありながら、本作の核心は資本と倫理の衝突にある。企業買収、株式、階級差、住宅の高低差。黒澤は天国つまり「上」にいる者と地獄つまり「下」にいる者を、地理的にも社会的にも重ね合わせ、経済成長の光と影をくっきり浮かび上がらせる。三船の抑制された演技と、犯人役の山崎努の静かな狂気の対照も見事だ。

第18回毎日映画コンクールで日本映画大賞・監督賞ほかを受賞。
公開当時から評価は高く、黒澤作品の中でもとりわけ構成の緊密さと社会批評性に定評がある。


9位:小林正樹 『人間の條件 第1部純愛篇/第2部激怒篇(1959)』

2位作品で終わる三部作の、最初に当たる作品。

南満州鉄鋼会社に勤める梶(仲代達矢)は、いつ召集されてもおかしくないため、美千子(新珠三千代)との結婚を迷っていた。そんな時、労働者待遇に関する梶の報告書が上司の目に留まり、梶は老虎嶺鉱山の労務管理の仕事と引き換えに、召集免除の打診を受ける。
友人である影山(佐田啓二)にも強く促され、彼は美千子と結婚、老虎嶺に向かう。だが、現場は工人すなわち中国人鉱夫への過酷な労役で成り立っていた。梶が工人の待遇改善に奮闘する中、戦争捕虜が特殊工人として送り込まれてくる。しかし彼らは、抗日地域にいたというだけで捕らえられた一般人だった――。

第21回ヴェネツィア国際映画祭 で、今はなき サン・ジョルジョ賞(銀賞)とパシネッティ賞(映画批評家賞)を、第14回毎日映画コンクール で撮影賞(宮島義勇)を受賞。


16位:黒澤明 『生きる(1952)』

黒澤明が戦後日本の官僚機構を舞台に、人間の「生」の意味を真正面から問うた作品。
脚本は黒澤明・橋本忍・小国英雄。主演は志村喬。音楽は早坂文雄。このチームの初期に当たる。

市役所の市民課長・渡辺勘治は、30年間無気力に机に向かい続けてきた。ある日、自身が胃癌で余命わずかであることを知る。初めは絶望と放蕩に向かうが、やがて下水溝の埋め立てによる公園建設に人生最後の力を注ぐ。

物語は二部構成をとる。前半は渡辺の内面の変化を追い、後半は葬儀の場面を通して、彼の行為がどのように解釈されるかを多角的に示す。主人公の死後に物語の視点を移す構造は、従来のドラマの枠組みを崩し、行為と評価、主体と社会のズレを露出させる。
雪の降る夜、完成した公園のブランコで「ゴンドラの唄」を口ずさむ志村の姿は、日本映画史上指折りの名場面だ。
本作は、黒澤作品の中でも特異な静けさを湛えている。

第4回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞するなど海外評価も高く、近年ではイギリスでオリヴァー・ハーマナス監督、カズオ・イシグロ脚本、ビル・ナイ主演で『生きる LIVING(2022)』としてリメイクされ、改めてその普遍性が証明された。


17位:黒澤明 『乱(1985)』

黒澤明が晩年に到達した壮大な歴史悲劇。W.シェイクスピアの『リア王』に着想を得つつ、日本の戦国時代へと翻案した。
脚本は黒澤明・小國英雄・井手雅人。音楽は武満徹。
製作にはフランス資本が参加し、日仏合作として完成した。

仲代達矢演じる城主・一文字秀虎は、三人の息子に家督を譲ろうとする。だが長年の暴虐が生んだ怨嗟は、やがて内乱へと発展し、城は炎上、父は狂気へと沈む。物語は、権力の移譲がもたらす崩壊と、因果応報の世界を徹底的に描く。
本作最大の特徴は、その視覚設計にある。広大な現場に展開される合戦では、色彩が軍勢ごとに厳密に分けられ、音楽を排した無音の虐殺シーンが、宿命を突きつける。特に第三城陥落は、映画史に残る名場面。

第58回アカデミー賞で衣装デザイン賞を受賞。監督賞にもノミネートされ、授賞式では、黒澤は最後に作品賞のプレゼンターも務めた。第38回カンヌ国際映画祭では功労賞を受賞、世界的巨匠としての評価を決定づけている。
日本国内では批評的評価が先行し、興行面で苦戦したが、今日では黒澤の最終期を代表する傑作と見なされている。
時代の試練が、本作を真の傑作だと証明した。


25位:小林正樹 『人間の條件 第3部望郷篇/第4部戦雲篇(1959)』

小林正樹監督の、伝説的三部作の第二作。

南満州の鉱山での労務管理に挫折した梶(仲代達矢)は、ついに召集され関東軍の兵士となる。理想主義を捨てきれないまま軍隊に入った梶は、暴力と理不尽が支配する内部構造に直面する。上官の横暴、弱者へのいじめ、戦場に向けた過酷な訓練。梶は兵士たちを守ろうとするが、体制の中では常に孤立し、処罰の対象となる。

やがて部隊は前線へ送られ、ソ連軍との戦闘に突入する。補給も秩序も崩壊し、兵士たちは極寒の荒野をさまよう。指揮系統は混乱し、味方同士の疑心暗鬼が広がる中、梶はなおも人間としての尊厳を保とうとする。しかしソ連軍参戦により戦線は急速に崩壊し、満州の荒野で部隊は敗走する。


26位:高畑勲 『火垂るの墓(1988)』

宮崎駿の尊敬する同志にして巨匠、高畑勲のもっともよく知られた作品。宮崎の『となりのトトロ(1988)』と同時上映された。

ただ戦争の悲惨さを描いた反戦作品だと誤解し、主人公に同情あるいは逆に批判的な人が多いが、その見方では本作を読み解けたとは言えない。高畑は何度も「これは反戦映画ではない」「この映画にヒューマニズムはありません」と言明しているからだ。

「妹を飢えさせて死なせてしまった」という強烈な自責と贖罪を綴った野坂昭如の原作小説に対し、高畑勲はさらに踏み込んで、周囲の無関心や少年自身の意固地さが兄妹の行き詰まりを招き、妹との悲惨な最期につながっていく様を描いた。
衰弱しきって駅で座り込む清太の前に、通行人の女性がおにぎり飯を置くが、清太は手を付けない。
孤立とは自分自身が選んだ状態であり、情緒的な寄り添い、思わず同情しそうになる観客の態度もまた、孤立の裏面に過ぎない ―― どんな悲惨な境遇も、孤独や心中を正当化できない ―― と高畑の視線は冷徹に投射され、画面を貫いて観客に突きつける。
だからこそ、時代を越え、国境を越えて評価され、現代の古典として普遍的な価値を認められているのだ。
この映画を正面から受け止められたなら、大人になった証拠。


27位:鶴巻和哉・庵野秀明 『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に(1997)』

いわゆる夏エヴァ、旧劇場版。
1995年放送のテレビシリーズ最終二話に代わる、もう一つの結末として制作された。前半の『Air』、後半の『まごころを、君に』の二部構成で、人類補完計画の発動とその帰結を描く。

NERV本部は戦略自衛隊に襲撃される。アスカ(声:宮村優子)は弐号機で応戦し壮絶な戦闘を繰り広げるが、ゼーレのエヴァ量産機と死闘となる。
一方、碇シンジ(声:緒方恵美)は葛藤の果てに補完計画の中心へと巻き込まれ、個と他者の境界が溶解する世界へ至る。
後半では実写映像やラフ原画、観客席のカットなどが挿入され、虚構と現実の境界が撹乱される。シンジは最終的に「他者と傷つけ合いながらも生きる」可能性を選択する。
その結論は、奇しくも同年のヒット作アニメで庵野の師、宮崎駿の作品『もののけ姫(1997、後述)』と重なる。

テレビ版とは異なる終末のビジョンを提示し、アニメーションにおけるメタ構造と心理描写の極限を示した一作。演出密度も、残酷描写も、自己言及の激しさも当時として異例尽くし。
第21回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞し、90年代アニメの到達点として国内外で強い影響を与えた。


28位:勅使河原宏 『砂の女(1964)』

昆虫採集を趣味とする中学校教師・仁木順平(岡田英次)は、砂丘地帯の村を訪れ、帰路を見失う。村人に導かれて一夜の宿を得た先は、深い砂穴の底に建つ一軒家。そこには未亡人の女(岸田今日子)がひとりで暮らしていた。翌朝、梯子は取り外され、仁木は穴の底に閉じ込められる。村は、家屋を砂に埋もれさせないため、住人に夜通し砂を掻き出させていたのだ。
仁木は脱出を試みるも、砂は絶えず崩れ落ちる。女との同居は、当初は強制であり反発するが、やがて奇妙な共依存へと変化していく。

安部公房の同名小説を原作に、武満徹が音楽を担当。モノクロームの画面における砂の質感と肉体の接触が、身体的質感をもって描かれる。その意味で、ボディホラーの先駆けだ。
カンヌ国際映画祭では審査員特別賞を受賞し、国際的評価を決定づけた。
第38回アカデミー賞で外国語映画賞と並び、勅使河原宏は監督賞にもノミネートされた。
アカデミー賞での日本人監督賞ノミネートは史上初。その後を含めても、上に紹介した第58回『乱(1985)』の黒澤明、第94回ドライブ・マイ・カー(2021)』の濱口竜介と、これまでわずか3人しか達成していない。


35位:宮崎駿 『千と千尋の神隠し(2001)』

Letterboxdでは、宮崎駿作品は『もののけ姫(1997)』以降の評価が高い。
最高評価はやはり国際的な評価も不動の本作。英題の『Spirited Away』が実に良い。邦題よりシンプルなのに含意が深い。
音楽は『風の谷のナウシカ(1984)』以来の久石譲

本作は、欲望に溺れて本質を見失った現代人への痛烈な皮肉として、大変わかりやすい。
千尋(声:柊瑠美)は名前と帰る方法を、千尋の両親は人としての姿と尊厳を、ハク(声:入野自由)は名前と神として司っていた自然を見失う。
他の登場人物も、同様だ。湯婆婆(声:夏木マリ)は真贋を見極める力を、油屋も真の名「湯屋」をそれぞれ失っている。神々ですら自分の姿を忘れる。
銭婆(声:同じく夏木)もハンコを盗まれる。ただし彼女は、自らの手を汚さずとも、欲に駆られた者が自滅する仕組みでセキュリティを確保していた。千尋のハクを助けたいという利他的な誠意だけが、それを解きほぐす。
極めつけはカオナシ(声:中村彰男)だ。金がいくらあっても、自分が無ければ虚しい。他者を取り込むことでしか自分を表現できないこのキャラクターは、欲しがるばかりで中身が無い、現代の空虚さそのもの。最近の、AIが書いた記事ばかりが溢れかえるnoteを見ていると、なおさらその思いを強くする。
銭婆の「魔法で作ったものは、ろくなことにならないよ」という言葉は、案外と重い。

千尋は最後に夢のような体験から髪留めだけを持ち帰る。これはS.T.コールリッジが詩に残し、J.L.ボルヘスが広め、J.コクトーが映画『オルフェ(1950)』で初めて映像にした、いわゆるドリームロジックだ。
通過儀礼で得たものをまた忘れてしまった千尋は、本作を鑑賞した時の気持ちをすぐに忘れてしまう我々観客に重なる。あなたが得たものはまだ残っているだろうか。忘れたら本作を鑑賞しなおそう。

「自分は何者か」を定義するのは、肩書きや所有物や借りてきた何かではなく、自分の意志と行動であるというメッセージは、情報や物に溢れる現代において、より一層重みを増している。

第52回ベルリン国際映画祭金熊賞、第30回アニー賞では作品賞・監督賞・脚本賞・音楽賞を受賞。そして第75回アカデミー賞で、日本映画としては史上初となるアカデミー長編アニメ映画賞を獲得した。


42位:小津安二郎 『東京物語(1953)』

尾道に暮らす周吉(笠智衆)とみ(東山千栄子)の老夫婦は、東京で家庭を持つ子どもたちを訪ねる。しかし医師の長男や美容院を営む長女は多忙を理由に十分な時間を割けず、両親は疎外感を覚える。戦死した次男の未亡人・紀子(原節子)だけが誠実に二人を迎えるが、帰郷後とみが倒れる。

本作は『晩春(1949)』『麦秋(1951)』に続き、小津安二郎監督の下、原節子が紀子を演じた紀子三部作の終着点。
前二作が娘の結婚をめぐる父娘関係を軸にしていたのに対し、本作では未亡人という立場を通して、血縁を超えた人間関係と、不可逆な時間の影響が提示される。

畳スレスレの低いカメラ位置と静止した構図、都市のショットを挟む抑制された編集によって、小津は日常の反復と沈黙の中に人生の余白を表す。
戦後日本映画の黄金期を支えた四者。黒澤明が動的構図と劇的緊張で人間を、溝口健二が流麗な長回しで歴史と悲劇を、小林正樹が倫理と制度の対立を掘り下げて描いたのに対し、小津は家族の崩れゆく静けさを凝視した点に特長がある。
小津の美学は、ヴィム・ヴェンダースホウ・シャオシェンヨアキム・トリアーらの作品に参照され受け継がれた。上映中の作品では『センチメンタル・バリュー(2025)』にその影響を色濃く観ることができる。


48位:溝口健二 『山椒大夫(1954)』

舞台は平安末期。安寿(香川京子)と厨子王(花柳喜章)の姉弟たちは母の故郷に向かう途中、人買いの山岡太夫に襲われ、母と引き裂かれる。姉妹は、丹後の領主・山椒太夫の下、過酷な労役の中で「人間は慈悲を忘れてはならぬ」という父の教えを胸に耐え続ける。やがて安寿は弟を逃がすために自ら命を絶ち、厨子王だけが脱出。流転の末に出世し、権力を得たのちに奴隷解放を命じ、母玉木(田中絹代)との再会を果たす。

森鷗外の小説を、依田義賢八尋不二が共同で脚色。原作の兄妹を、姉弟に改変している。音楽はこれまた早坂文雄
溝口健二は、徹底した長回しと移動撮影で、人物の関わりを滑らかに描き、3年連続参加となったヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を獲得し、国際的評価を確立した。

ジャン=リュック・ゴダールは『軽蔑』『気狂いピエロ』で本作のラストシーンを模倣し、ソ連のアンドレイ・タルコフスキーも溝口作品から強い影響を受けた。なお、タルコフスキーの美学はさらにポール・トーマス・アンダーソンから宮崎駿・押井守・細田守らの邦アニに至るまで、広く参照されている。


51位:ポール・シュレイダー 『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ(1985)』(日米共同)

(未見のため、予告編のみ。)


55位:黒澤明 『赤ひげ(1965)』

江戸・小石川養生所(東大医学部の前身)。長崎で蘭学を修め将来を嘱望されていた青年医師・保本登(加山雄三)は、幕府の命でこの貧民救済施設に赴任する。そこで待っていたのは、厳格で頑固な医長・新出去定、通称「赤ひげ」(三船敏郎)。出世を望んでいた保本は反発する。
診療所には、虐待を受けたオトヨ(二木てるみ)や、貧困、飢え、病に追い詰められた人々が運び込まれる。赤ひげが時に荒々しく、しかし揺るがぬ倫理観をもって患者を守る姿に、保本は、医術とは何か、人を救うとは何かを学んでいく。

山本周五郎の『赤ひげ診療譚(1959)』を原作に、黒澤明が橋本忍・小国英雄らと脚本化。撮影の中井朝一は途中逝去し、斎藤孝雄が撮影を継承。美術は村木与四郎。音楽は早川の弟子、佐藤勝
モノクロ撮影による濃密な陰影と、貧困を真正面から描くヒューマニズムが、黒澤後期の転換点を示す。三船敏郎と黒澤の最後に組んだ作品としても知られる。

市川崑の『ビルマの竪琴(1956)』、小林正樹の『人間の條件(1959-61)』、そして本作は、いずれも「文明の発展に重要な芸術作品」として、第26回ヴェネツィア国際映画祭 で、今はなき サン・ジョルジョ賞 を受賞した。三船敏郎は男優賞を受賞している。


57位:是枝裕和 『誰も知らない(2004)』

黄金期を過ぎて低迷していた邦画が、国際映画祭で再び注目される契機となった作品。

東京の小さなアパートに、母(YOU)と四人きょうだいが暮らしている。父親はおらず、きょうだいは異なる父を持つが、住民票は無く、学校にも通っていない。長男・明(柳楽優弥)は、母に代わって家事と弟妹の世話を担う。やがて母は恋人を作って家を空けるようになり、ついには生活費を残して姿を消す。
電気やガスは止まり、食料も尽きていく中、子どもたちは外界から切り離されたまま、限られた金と知恵で日々をつなぐ。明は責任を背負い込みながらも、まだ子どもである自分とのあいだで揺れ続ける。やがて取り返しのつかない出来事が起こり、きょうだいの均衡は静かに崩れていく。

ドキュメンタリー出身の是枝裕和は、1988年に発覚した巣鴨子供置き去り事件に着想を得たが、事件を直接再現しようとはしなかった。子どもたちの時間感覚と視線を中心に、物語は構築される。子役には台本を渡さず、対話形式で演技指導が行われた。
母は子供を愛しているが、自分もまた子供で、幸せになりたい一人の女として描かれる。大変リアルだ。
過剰な説明や断罪を避け、淡々とした観察の積み重ねによって、社会から見えない存在にされた子どもたちの孤立を浮かび上がらせる。「生きているのは、おとなだけですか。」のキャッチコピーが、シンプルで実に鋭い。自分を見失っただの探すだのといった戯言は、恵まれた者の傲慢に過ぎない、という告発になっている。
音楽はゴンチチ。軽やかで乾いたアコースティックな響きが、作品にマッチしている。

第57回カンヌ国際映画祭で柳楽が最優秀主演男優賞を獲得。彼は当時14歳で史上最年少の受賞となった。


73位:宮崎駿 『もののけ姫(1997)』

宮崎駿が商業的に大ブレイクした作品。
室町期を思わせる中世日本。エミシの村を襲った祟り神を退けた少年アシタカ(声:松田洋治)は、呪いを受け西方へ旅立つ。ジコ坊(声:小林薫)に誘導されてアシタカが辿り着いたのは、製鉄のタタラ場を率いるエボシ御前(声:田中裕子)と、山犬の神に育てられた少女サン(声:石田ゆり子)が対立する森だった。
獣神と人間、対立する利害。さらに師匠連の一派がシシ神の首を狙うことで、ついに長年の均衡は崩れ、取り返しのつかない事態へと発展する。

本作は単純な二元論を採らない。
エボシは差別された者や病者を受け入れ、女性に労働の場を与え、自治を構築する指導者でもある。彼女は進歩と人権のために、自然を蹂躙する。
一方で森は神聖でありながら、暴力を孕む。獣神たちの方法論も、すでに成り立たなくなっている。
善悪を二分しない構図の中で、アシタカは「曇りなき眼で見定めよ」と言い残し、対立の只中で共存の可能性を模索する。奪い・奪われる歴史を背負いながら、それでもこの地獄のような世界で折り合いをつけて生きていく道を探し続ける。

スタジオジブリにとっても最後のセル画制作作品。デジタル彩色・CG補助を導入したとはいえ、14万枚という圧倒的作画密度は、狂気の労働でもあった。
久石譲の音楽に、カウンターテナー米良美一の天与の美声が載り、作品に神性を宿らせた。しかし、米良の音楽的キャリアがこの後辿った経路を思うと、起用やその扱われ方を残念にも感じてしまう。

第21回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、国際的にも高く評価されたが、アニー賞 長編監督部門では『トイ・ストーリー2』に敗れ、アカデミー賞にはまだアニメーション部門が存在せず、外国語映画賞でのショートリスト止まりだった。


75位:園子温 『愛のむきだし(2008)』

敬虔なカトリック信者の父を持つ高校生・角田ユウ(西島隆弘)は、父から「罪の告白」を強いられる日々の中で、倒錯した方法で罪を生み出しつつ、理想の女性マリアを探すようになる。盗撮を繰り返し、運命の少女・ヨーコ(満島ひかり)と出会う。だが彼女は男性不信に陥っており、ユウは女装して近づくことになる。二人の関係は、新興宗教団体の女教祖コイケ(安藤サクラ)によって翻弄され、愛と暴力、信仰と洗脳が絡み合う長大な物語へと発展する。

実話を基に園子温が脚本を書き、23作目の監督作品としてメガホンを執った。
純愛/宗教/コメディ/アクション/スプラッターとジャンル横断的展開を併せ持つ21世紀的作品の先駆けで、上映時間約4時間の隅々まで過剰なエネルギーが充満している。
ロカルノ国際映画祭で国際批評家連盟賞(FIPRESCI賞)とドン・キホーテ賞を受賞し、海外映画祭で高く評価された。

宗教的罪責感と性的欲望、アイデンティティの揺らぎを極端なまでに誇張しながら、最終的には愛を真正面から肯定する。混沌の中でこそ純粋さが浮かび上がるという逆説を、徹底的な過剰さで描き切った異形の純愛映画


80位:今敏 『PERFECT BLUE(1997)』

マッドハウスの丸山正雄が、今敏という異能の持ち主に初監督を任せ、映画の歴史を変えた、画期的なアニメ映画。
原作は竹内義和の小説『パーフェクト・ブルー 完全変態』。
今敏は『AKIRA(1988)』の大友克洋のアシスタントでもともと漫画家。大友の原作・脚本アニメ作品にかかわり、押井守の『パトレイバー2(1993)』を経て、丸山にアニメーション監督としての才能を見い出された。

元アイドルの霧越未麻(声:岩男潤子)は、歌手活動を辞めて女優へ転身するが、過激な役柄を演じるうちに、自身のアイドル時代のイメージとの乖離に苦しむ。インターネット上の偽サイトやストーカーの存在も彼女を追い詰め、現実と幻覚が交錯していく。

序盤、主人公の独白と周囲の会話によって「現実/妄想」の区別が可能だと思わせる。しかし進行するにつれ、その区別は編集と配置のズレによって崩壊する。終盤、どこからが現実かは明言されず、説明されないことで、観客自身の認識不全が露出する。

ファンタジア国際映画祭 最優秀アニメーション賞ほか、海外の映画祭で多数の賞を受賞し、特に欧米でカルト的支持を獲得した。
日本アニメがサイコホラー、さらに広義の成人向け心理劇を描く可能性を示した転換点であり、D.アロノフスキーの『レクイエム・フォー・ドリーム(2000)』『ブラック・スワン(2010)』など、後年の実写映画に強い影響を与えた。
今敏は46歳で病没し世界から惜しまれたが、本作は公開から30年近くを経た現在も、メディア批評・ジェンダー論・映画美学の文脈で頻繁に研究・再評価されており、心理スリラー映画の金字塔と位置づけられている。


91位:矢口史靖 『スウィングガールズ(2004)』

男子高校生がシンクロナイズドスイミング(現在の呼称はアーティスティックスイミング)に挑む『ウォーターボーイズ(2001)』に続き、矢口史靖が映画化したのはビッグバンドジャズ。

夏休みの補習授業をサボるために吹奏楽部に弁当を届けるはずが、あれやこれやで代わりに慣れない楽器でジャズを吹くことになる女子高生たち。

オーディションで募集され、上野樹里貫地谷しほり平岡祐太ら、後に女優・俳優として飛躍する若い才能が集まった。
主人公の父役に小日向文世、教師役に竹中直人、運転手役に佐藤二朗と、バイプレイヤーも充実。
音楽の喜び、映画の楽しさの原点に返るような爽やかな鑑賞体験だ。

第28回日本アカデミー賞で、最優秀脚本賞・最優秀音楽賞・最優秀録音賞・最優秀編集賞・話題賞の5部門を受賞。


100~500位からもざっくりと邦画を抽出。

動的リストなので下位は現在も変動中。あくまで現時点のものとしてご覧いただきたい。


104位:宮崎駿『ハウルの動く城(2004)』
106位:𠮷原達矢『チェンソーマン レゼ篇(2025)』
117位:是枝裕和『歩いても 歩いても(2008)』
123位:小津安二郎『晩春(1949)』
124位:是枝裕和『怪物(2023)』
130位:松本俊夫『薔薇の葬列(1969)』
145位:伊丹十三『タンポポ(1985)』
148位:ヴィム・ヴェンダース
    『PERFECT DAYS(2023)』(日米共同)
152位:是枝裕和『万引き家族(2018)』
159位:黒澤明『用心棒(1961)』
173位:新房昭之・宮本幸裕
    『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ
     [新編]叛逆の物語(2013)』
176位:庵野秀明・鶴巻和哉・中山勝一・前田真宏
    『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||(2021)』
182位:大友克洋『AKIRA(1988)』
194位:黒沢清『CURE(1997)』
195位:黒澤明『蜘蛛巣城(1957)』
197位:押山清高『ルックバック(2024)』
201位:庵野秀明『式日(2000)』


208位:溝口健二『雨月物語(1953)』
214位:高畑勲『かぐや姫の物語(2013)』
225位:勅使河原宏『他人の顔(1966)』
226位:井上雄彦『THE FIRST SLAM DUNK(2022)』
228位:今敏『東京ゴッドファーザーズ(2003)』
242位:小林正樹『怪談(1964)』
256位:今敏『千年女優(2001)』
258位:黒澤明『夢(1990)』
259位:中島哲也『下妻物語(2004)』
266位:新海誠『君の名は。(2016)』
267位:黒澤明『影武者(1980)』
278位:北野武『HANA-BI(1997)』
288位:小津安二郎『秋刀魚の味(1962)』
314位:黒澤明『羅生門(1950)』


316位:小津安二郎『お早よう(1959)』
320位:湯浅政明『夜は短し歩けよ乙女(2017)』
321位:山田尚子『映画 聲の形(2016)』
322位:濱口竜介『ドライブ・マイ・カー(2021)』
326位:湯浅政明『マインド・ゲーム(2004)』
340位:山下敦弘『リンダ リンダ リンダ(2005)』
341位:宮崎駿『となりのトトロ(1988)』
353位:宮崎駿『風の谷のナウシカ(1984)』
373位:近藤喜文『耳をすませば(1995)』
377位:是枝裕和『そして父になる(2013)』
397位:黒沢清『トウキョウソナタ(2008)』
405位:岩井俊二『リリイ・シュシュのすべて(2001)』


411位:是枝裕和『ワンダフルライフ(1998)』
420位:川尻善昭『ヴァンパイアハンターD(2000)』
431位:立川譲『BLUE GIANT(2023)』
455位:黒澤明『椿三十郎(1962)』
457位:黒澤明『隠し砦の三悪人(1958)』
462位:岡本喜八『大菩薩峠(1966)』
464位:宮崎駿『魔女の宅急便(1989)』
499位:是枝裕和『海街diary(2015)』

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