果てしなきスカーレット

背景制作
死者の国の背景は、これまでのアニメの美術背景に比べると異質なルックで構成されている。フォトリアルでありながらも、チョーク画調のキャラクタールックと馴染むルックで構成されている。監督の「空間は"感じさせる"もの」という哲学の基、さまざまなアプローチが試みられている。本作では、画コンテの段階から背景チームがキャラクターの導線やカメラワークを解析し、Unreal Engineを使って簡易レイアウトモデルを作成後にプリビズ用の背景データとしてアニメーションチームと共有されている。背景データを共有することによって、複雑な群衆シーンや戦闘シーンでも位置関係や起こっている事象が明確になり、アニメーションの作業効率が大幅に向上したという。

砂漠の背景データをUEで表示した状態。UEレイアウトのままだと抜けが悪く、広さが感じられないということでリテイクになったという。

完成ショット。リテイクの結果から、遠景の凹凸(奥の岩や地形)をあえて無くし、近景、中景、遠景の輪郭が繋がらないように色彩を調整。石や亀裂、模様などの具体的なディテールを消すまたは弱めることで、観客が"間の空間"を想像し、遠くまで続く荒野として認識できるように修正された


フィードバック前。UEによる背景画像。CGの地面テクスチャのディテールがはっきりしており、スカーレットが動くことで、距離感が正確に見る人に伝わってしまうため、広さを感じることができずNGとなった例

フィードバック後に修正した完成ショット。地面のテクスチャなどのディテールを大幅に減らすことで距離感を曖昧にし、空間を広く見せている。
多重カメラ合成による空間表現
本作の背景制作では、CG作品ではあまり使用されない手法「多重カメラ合成」が使用されている。多重カメラ合成とは、1つの画面の中に複数の焦点距離で撮影された画像を合成する手法だ。例えば、聖が焚き火の前でリュートを弾くショットでは、手前の焚き火周辺の地面、中景のキャラクター周り、遠景の巨大な遠景の背景でそれぞれ焦点距離が異なるカメラでレンダリングをおこない、コンポジットで再構成されている。このような手法をとる目的はただひとつ、「パースをCG的に確定しないため」だという。細田監督の「実写的な正確なパースはつまらない。アニメならではの空間表現を優先したい」という背景パースに対する考えを基にそのような手法がCGの背景制作でも採用されている。

画コンテより。遠景は焦点距離が短いワイドなレンズだが、手前の焚き火付近は焦点距離が長い望遠気味のパースになっている




キャラクターを合成して完成したショット。キャラクターも中景用レンズでレンダリングした素材が合成されている
徹底した絵としての正しさの追求
細田監督が構図に求めるのは、CGで制作された物理的に正しい構図ではなく、徹底して"絵としての正しさ"が追求されたという。例えば、山頂のシーンで360°パノラマ構図が必要になったが、リアルなデータでそのままCGで正確に作ると画的に狭く感じてしまうので、監督から"もっと広く"という要望を受けたという。そこで背景チームは、山頂の手前の部分はCGで正確に作成し、中景・遠景は変形をかけて距離を伸ばすことで広く感じる山頂の背景を作成することになった。このシーンではカメラワークがあるため、遠景は最終的に2Dの背景をパンさせている。またドローンで撮影したように見えないように、意図的に湾曲させるなど工夫されている。




画コンテに忠実な構図を作成するために、遠景は2D背景になっている


写真とCGのハイブリッドで作成した空と雲
スカーレットが旅する死者の国の空と雲の表現は、死者の国の空の上には"海"が存在するという設定から、これまでの美術背景にはあまり見ることができない、リアルと絵画の中間のようなルックで表現されている。空と雲は、まずFXチームが海と空をHoudiniで作成したが、CGだけでは監督が求める"絵画的な密度"にならないため、背景チームが撮影した雲の写真や素材を合成して質感をアップさせている。写真のディテールをCGに寄せるのではなく、"CGを写真の質感に寄せる"方向でルックが調整されている。写真とCGのハイブリッドで空や雲を作成することで、雲の存在感や空の拡がり、書き割り感の削減が実現した。



ゲームエンジンを利用したロケハン
スカーレットが荒野で兵士と戦うシーンの制作では、Unreal Engine内に荒野のCG背景モデルを読み込み、画コンテのアングルと見比べながら、CG背景の中で演技をする場所を決め、キャラクターの動きの導線図を作成するところから制作が始まったという。

UEでのロケハンを基に作成された導線図。画コンテにあるカットに対応したカメラ位置、キャラクターの位置が記されている
自然地形のプロシージャルモデリング
本作では主にUEで使用できるMegascansというアセットライブラリを使用しているが、ライブラリにない地形や岩山はHoudiniやGaeaを用いたプロシージャルモデリングで作成している。




Houdiniで作成した崖の一部。1枚目がローポリのベースモデルで2枚目がモデリング後
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