「ミステリの祭典」ミステリの採点&書評サイト
1927年出版。初出The Saturday Evening Post 1927-9-10〜10-28(8回連載) 挿絵Henry Raleigh。延原謙先生の翻訳は見事。訳者あとがきで「裁判制度の啓蒙普及のために」 本書の翻訳を乱歩とともにGHQに直訴したとありました。ああ、そういう時代をくぐり抜けてきた方々には「通俗的な」探偵小説の翻訳にも別の感慨があったろうなあ、と思います。法律関係のアドヴァイザーとして最高検の平出さんも参加されているようです。もちろん古めかしい用語がゴロゴロ出てきますが、歴史的な翻訳としてこのまま再販して欲しいなあ。さて、私が参照した原文はPenzler Publishers(2019)で、序文に本書とHall-Mills事件との大きな関係性が取り上げられています。当時の米国は新聞ダネになった怪事件がたくさんあって、Elwell(1920迷宮入り)、Dot King(1923迷宮入り)、Leopold & Loeb(1924有罪となったが死刑に至らず)、Hall-Mills(1922, 判決1926迷宮入り)ここら辺が皆さんお馴染みのところではないかと思います。こーゆー事件が立て続けに起こっていたので世間の苛立ち、モヤモヤ感がかなり溜まっていたのではないでしょうか? 本書で作者はHall-Mills裁判に対する不消化な感じを、何とか納得するものしたい、という意思を感じます(なので事件についてあらかじめ知識を入れておいた方がより興味深いかも)。本作は事件の改変が上手く処理されていて世情にもフィットしたので、ベストセラーになり、映画化(1929)もされたということなのでしょう。映画を是非みたいのですが、残念ながら手段はないようです。代わりにHall-Mills裁判での、もう一人の主役Pig Ladyを取り上げたサイレント映画The Goose Woman(1925)を観ました。こちらも割り切れなさを上手に合理化している作品でした…
さて、この作品についてですが、構成が巧みでぐいぐい読ませます。証言の出し方も上手。自分の分身を狂言回しに使うのも嫌味がなくて良い。ところで、この翻訳では何故か初出の人名に必ず原綴が記されています。なんの工夫だったんでしょうか?
トリビアは後で気が向いたら…
翻訳では欠けていますが、献辞があります。
TO / MY FAVORITE LAWYER / EDWARD HENRY HART
相手は1921年に結婚した夫です。
どうしても気になったのでトリビアを一点だけ
p198 ズべ公♣️原語flirt、この訳語はどうかなあ… flirtはそんなに強い語ではないと思います。Carolyn Wells “The Clue”(1909)の上品な文章にも出てきてました。
(追記: あとがきで”Hide in the Dark”(1929)がmurder gameの流行の素と書かれていて、私はダグラスグリーンのJDC伝で読んだのが初めてだったが、喜び勇んで当該書を読んでみたら違った… 出てくるのは暗闇での鬼ごっこ(米国ではHide in the Dark、英国ではSardineと呼ばれるゲーム)。この誤情報、ヘイクラフトの 本に書いてあるようだ。)
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