レビュー的な:TVドラマ『実録犯罪シリーズ 新説・三億円事件』(ネタバレ含)
TVドラマ 『新説・三億円事件』フジテレビ/脚本;岩間芳樹/キャスト:織田裕二・山崎努・小林稔侍・伊東四朗・丘みつ子・ 坂上香織・本田美奈子 ほか/1991年
1968(昭和43)年12月10日に東京都府中市で発生した3億円事件で、《少年S犯行説》に脚色を加え制作されたドラマです。
現金輸送車で3億円を運んでいたところ、白バイ隊員に扮した犯人に車ごと強奪されるという、単純な事件のようでもありますが、実は日本犯罪史上でも有名な〈未解決事件〉の一つです(1975(昭和50)年12月10日時効成立)。被害金額は約3億円。ドラマ放映当時の換算で約20億円です。当時の最高額でありながら、偽装と口八丁だけで強奪に成功している〈窃盗事件〉で、被害額には保険が掛けられており、さらに保険会社も外国の保険市場(イギリスのロイズとかですかね)に保険を掛けていたため、被害額は外国から補填され、最終的に国内で金銭的な損失が発生していないという、何とも不思議な完全犯罪です。時効成立までに容疑者として取調べを受けた人間は約12万人だそうです。
何であっさり3億円が持ってかれたのか。そのキモとなるのは、事件当日以前、この年の12月初旬に日本信託銀行(現・三菱東京UFJ銀行)国分寺支店長宛てに送られてきた脅迫状です。〈300万円を渡さないと支店長宅を爆破する〉という内容のものでした。警察もこれに対応しましたが、犯人は現れませんでした。強奪事件はその4日後です。日本信託銀行・国分寺支店は、東京芝浦電気(現・東芝)従業員のボーナスを現金輸送車(と言ってもセドリックという…)で運んでいたところ、白バイ隊員に道を塞がれ、「支店長宅が爆破された。この車にも爆弾が仕掛けられているという事だから調べさせてほしい」と告げられます。脅迫状に書かれていた〈支店長宅の爆破〉が現実になったと思い込まされた行員たちは、その指示に従ってしまったのです。白バイ隊員が車体の下を調べていると煙が発生し、「爆発するから離れろ!」という声に驚いた行員が距離を取った隙に車ごと持っていかれました――。
ドラマの話を。
まず、織田裕二…。
いいなっ( ̄☐ ̄*)!!
若い頃の、あのどこかこう…飼い慣らされない獣? みたいな雰囲気がものっそ好きです。彼は犯人役(少年S)ですが、このドラマの筋であれば非常に良いキャスティングだと思いました。
そして、彼と共に犯行に及ぶ男性に山崎努、犯人の父親に小林稔二がキャスティングされています。
このドラマ『新説~』と謳ってありますが、事件そのものについてはあまり重要視されていません。3億円事件の犯行経緯や警察の動き、あと、当時はセンセーショナルに取り上げられ〈劇場型犯罪〉に類するこの事件ですが、そういった当時の様子などはむしろ添え物です。
それでも、ともはるはよくできた作品だと思いながら観ました。
このドラマの本質は《関係》だと思います。
少年S(織田裕二)は立川の不良グループの頭で、オートバイや車の窃盗に長け、また父親が現職の白バイ隊員だったという事から不良仲間に一目置かれている存在でした。
ドラマの中では、彼は何度も警察の御厄介になっていますが、父親の嘆願で見逃してもらったりもしています。
そんな少年Sと父親の関係ですが、まったくと言っていいほど上手くいっていませんでした。そんで、やさぐれて不良仲間と悪ぶっている時に出会ったのが、共犯となる男(山崎努)です。
年齢が離れている二人は疑似親子のような関係になっていきます。3億円強奪の目的も〈金が欲しいから〉ではなく、現状に怒りを感じている少年Sに自分を重ねた男が、スカッとする事をしたいという少年Sに手を貸した、という流れになっています。
大それた犯行に及ぶ動機としては弱過ぎると思うかもですが、この少年Sの鬱屈した感情は、当時の時代背景を考えると解らなくもないです。
根拠はこの事件が発生した時期です。
丁度《70年安保》の時なんですね。70年安保とは、1960年に調印されたいわゆる〈日米安保条約〉の期限が10年と定められていたにも拘らず、自動延長されてしまった事に対して起こった反対運動で、多くの(主に大)学生が武力闘争に参加していくなど、学生が最もやんちゃだった時期、社会が騒然としていた時期です。
あくまでともはるの主観ですが、この70年安保は、それ以前の60年安保とは趣が違うと思います。
若者は〈日米安保条約の自動延長の反対〉を口実として自分たちの不満の捌け口に使った、という印象なのです。そしてそれは、これまで良い意味でも悪い意味でも日本的なものが、終戦を機に変容していき、その中で生じた歪みが表出した結果だったのではないか、と考えます。
少年Sの父親は軍隊経験者です。生まれも貧しかったと語ります。息子と違い多感な時期を過ごした社会背景が違うのです。それが相互理解の齟齬に繋がったのではないか、とともはるは思います。
共犯の男は自身について多くは語りません。ただ少年Sが自分に重なったというので、付き合う気になった雰囲気です。しかし実際に実行した後もモヤモヤしている少年Sに対して、こうなるだろうと思っていた、というような事を言います。これをして、少年Sが越えなければならない壁は父親ではないと言い置いて、二人は別れるのですが、少年Sからすると、多分混乱させられただけだったとともはるは思います。
実際の少年Sは事件発生から5日後に父親が家に置いていた青酸カリで自殺しています。ただ自殺とはいえ、青酸カリが入っていた物から彼の指紋が採取されていないそうで、自殺は疑わしいという見解もあるそうです。
一方ドラマでは、男と別れた少年Sが自宅に帰ってきます。息子には既に逮捕状が出ていました。父親は息子と話すと言いましたが、二人きりの部屋で、息子と自分の前に水の入ったコップを置き、そこに青酸カリを入れてみせるんです。もう話す余地ないんですよ。父親は自分だけが語り、一緒に死ぬしかないと告げます。静かに聴いていた少年Sがその瞬間に見せた表情にともはるは惹き込まれました。ちょっとした変化だったんですけどね。
諦めたのだ、と思いました。自分の小さな世界に抗う事への諦めだと思いました。
これが一緒に死のう、ではなく一緒に警察へ行こうだったら、彼はまだ世界を信じてみようと思うことができたのかもしれないと思ってしまいました。
そんな父親。二人で死のうと言っていたのに、息子が死んだ後、部屋から出てきます。自分の前にも青酸カリ入りの水置いたよね。二人で死のうって言ったよね。と思いましたが、部屋から出てきた父親も眼で語っているものがありました。それは納得いかないとともはるは思いましたが。
全体をとおしてともはるが感じたのは、〈自分が思ったとおりには相手には伝わらない〉という事です。ある意味で自明です。ですが、とかく私たちはこれを失念しがちです。というか解っていません。
息子に対する父親の期待や願いも、共犯の男がおそらく示したかった事も、少年Sにはそのままの意味では伝わりませんでした。
これはそのまま私たちにも言えます。親がきょうだいを同じように育てたつもりでも、子どもは絶対に親は他のきょうだいを贔屓していると感じるものですし、恋人や夫婦間で交わされる言葉が同じでも、その状況に応じて必ず受け取り方が違います。人とはそういうものです。自分と同じ精神構造をしている人間なんて一人もいないのですから。
ならばどうしたらいいのでしょう。そこは苦しくても考えていくしかない、と思いました。
ネタバレしてますが、観て欲しい作品だと思います。
最後に一つ。
実際盗られた3億円…。誰の手に渡ったんかなぁ。
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VHSしか無いっていうね…。
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