2025年9月5日金曜日

都築政昭『黒澤明の映画入門』に誘われて|Kent Nishihara

都築政昭『黒澤明の映画入門』に誘われて|Kent Nishihara
映画は「カットとカットの繋ぎ目、その微妙な繋ぎ目の呼吸から」生まれる、という「創造の秘密」を、黒澤はよく語ったという。〈その一番いい例がね、『生きる』でね〉と言われても、映画のシーンをトンと思い出せない。
https://note.com/kent248/n/n26f188c127e7

都築政昭『黒澤明の映画入門』に誘われて

用心棒_2016-10-17_20_21_47

都築政昭『黒澤明の映画入門』(ポプラ新書)を読みながら、黒澤映画のビデオをいくつか鑑賞した。

画像

というのも、黒澤が「世界のクロサワ」になった『羅生門』は、言うまでもなく芥川龍之介の『藪の中』を原作としているが、「黒澤は『羅生門』を、人間不信のまま終わらせたくなかった。そこで彼は原作にはなかった、門に捨てられた赤子を、杣売(薪売り)が貰い受けて育てる、というエピソードを新たに加えた」「こうして黒澤は、人間への信頼を取り戻すことで『羅生門』を終えたのである」と言われても、かつて『羅生門』を観たときの記憶はすっかり薄れていて、アレッ、そうだったのか、という始末である。

画像

とは言え、黒澤が〈『藪の中』は芥川さんの嘘だと思うんですよ〉と言うなら、作品としてどうなのか、わが目で確認せずにおれなくなって、ビデオを視聴したという按配である。

映画は「カットとカットの繋ぎ目、その微妙な繋ぎ目の呼吸から」生まれる、という「創造の秘密」を、黒澤はよく語ったという。〈その一番いい例がね、『生きる』でね〉と言われても、映画のシーンをトンと思い出せない。

画像

確かに「生きることに覚醒した渡辺(勘治・主人公の市民課長)が、小公園づくりに邁進する……それは確かに美談だが、ドラマとしては面白く」ならないだろう。「そこで黒澤は、渡辺が真に生きることに目覚めたところで、いきなり彼の通夜の写真を持ってきた。その衝撃と飛躍……。場面は通夜となり、集まった部下たちの口から、渡辺の献身的な生き方、その無償の愛の日々がしだいに明るみに出てくる……」というのだ。

著者が言うところの「庶民の英雄の誕生」である。「その衝撃と飛躍」はまったく記憶に残っていない以上、あらためてビデオを見て確かめずにはおれなかったという次第である。

桑原武夫が「日本に活劇のリアリズムをはじめて打ちたてた」と評した『七人の侍』は、じつは「ロシア文学に造詣の深い黒澤はトルストイの『戦争と平和』をベースに置いた」と知って、今更ながら驚いた。著者は「映像美と映画精神の最高の果実」と賛辞を惜しまない。

画像

「娯楽映画の金字塔を打ち立てた」とされる『用心棒』には、「冷戦下の米ソ大国、その軍拡競争、両方を戦わせて自滅させるという構成には、戦争に勝者はいないという大義が込められている」「現代世界のパロディである」と、著者は解説しているが、その眼でビデオを鑑賞すると、映画の面白さもいっそう深くなった。

画像

黒澤明と三船敏郎という「黄金コンビの最後の作品となった」『赤ひげ』は、著者の言うとおり「人間愛の集大成」であるが、「師弟愛の物語」として観た記憶はなかったことを恥じたい。

画像

なお、村田喜代子『鍋の中』を原作とする『八月の狂詩曲(ラプソディー)』は、現代作家の作品を原作にしたという意味では珍しい作品だけに、願わくばもう少し論及して欲しかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿

【国宝】邦画100億越えの傑作を漫画家目線で考察してみた #山田玲司 #国宝 #切り抜き

【国宝】邦画100億越えの傑作を漫画家目線で考察してみた #山田玲司 #国宝 #切り抜き youtu.be 大事なのは歌舞伎は総合芸術であるということ。無論役者の感情もその中の一要素であるが、この映画はシャーマニズムの観点から役者を描いているかのようであり、あまりにもその表情...