2025年11月19日水曜日

Amazon.co.jp: 写楽閉じた国の幻 : 島田 荘司: 本

2013年6月6日に日本でレビュー済み
フォーマット: 単行本Amazonで購入
「写楽の正体」探しに力技で決着をつけてしまう、奇説系歴史ミステリであります。
「写楽の正体」問題はすでに明石散人氏・内田千鶴子氏らの発見もあり、阿波藩士斎藤十郎兵衛説がいまや定説となっており、別人説ももはや下火となって久しいという風潮。
そんな中に「写楽別人説」それも「写楽西洋人説」を引っ提げて写楽論争に乗り込んできたというのですから、どれほど見事な論理が堪能できるやらと、大いに期待して読んだ本作でしたが…正直いってがっかりです。昔ながらの話題になったらかまわない式の珍説の域を出るものではございません。まともな歴史の本や浮世絵の本は最初から読まないし、読んだとしてもついていけない、初めから突飛な珍説がお目当てという自覚をお持ちの読者以外にはちょっとオススメできかねる内容です。

おかしな記述は数多いのですが、一つ、大きなモノを挙げておくと、
「ドイツの美術研究家ユリウス・クルトは著書『Sharaku』で、写楽、レンブラント、ベラスケスを並べて世界三大肖像画家に位置付けた」
実はこれ、日本の出版社が写楽の本を売りつけるために流したまったくのデマ。かつては研究者も本気にする方が多かったようですが、『Sharaku』が1994年に邦訳出版されたことで、そんな記述はないことがバレています。この著者、本当に先行研究をきちんと調べた上で書いていらっしゃるのでしょうか。それとも素人読者はどうせ知らないからいいやという判断なのでしょうか。
著者はいかにも写楽については調べ尽くしたといわんばかりに、学者は写楽の威光に目がくらんで嘘ばかりをいっているとこきおろしているんですが、何せ自分が同じことをやってしまっているんですから、まさに「お前がいうな」というものです。ブーメランが戻ってきてぐさー。学者を批判するのでしたら、その前に御自身が襟を正して、疑いの余地のないデマを排除するべきではないでしょうか。
自分の説に説得力を持たせるために学者を攻撃するのは、この手の本では昔からよくやっている手口。梅原猛や五島勉、同業者では井沢元彦や高木彬光なんかもさんざんやっていましたねえ…

気になったものをもう一つ。
外国人(仮)「浮世絵なんてポルノグラフティ」
日本人「写楽は春画を描いていませんよ」
ポルノグラフティ(春画)に芸術性を認めることでしたら外国の方がずっと進んでいるのはわりと常識でしょう? 春画を描いていないから写楽はえらいという発想自体が、著者が批判しているはずの日本人の発想そのもののように思えます。

「Fortuin in,Duivel buiten」の大首絵をはじめ、投げっぱなしの設定が多過ぎるのも興ざめ。
本書を読んで感心なされる方も多いようですが、それは初めから結論を成立させるように都合の悪い事柄を伏せてしまったり、事実関係を改変してしまったりしたら、どんな結論でも成立するように見えるでしょう。そうした方々は感心なさる前に、多少なりともちゃんとした歴史や浮世絵の本をお読みになって、おかしな情報を修正なさることをオススメします。
江戸編は楽しめたので星は一つおまけ。といおうか、現代編はやめにしてずっと江戸編の内容で、時代小説として書いた方がよかったのでは?

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