2024年12月5日木曜日

県警対組織暴力 | 俺の命はウルトラ・アイ

県警対組織暴力 | 俺の命はウルトラ・アイ

県警対組織暴力

『県警対組織暴力』

Cops vs. Thugs

 映画 トーキー 100分 カラー

 昭和五十年(1975年)四月二十六日公開

 製作国 日本

 製作言語 日本語

 製作 東映京都

 企画 日下部五朗

 脚本 笠原和夫

 撮影 赤塚滋

 録音 溝口正義

 照明 中山治雄

 美術 井川徳道

 編集 堀池幸三

 音楽 津島利章

 助監督 藤原敏之

 監督補佐 皆川孝之

 スチール 木村武司

 進行主任 真沢洋士

 記録 田中美佐江

 装置 近藤幸一

 装飾 西村和比古

 美粧結髪 東和美粧

 衣装 岩道保

 演技事務 森村英次

 出演

 菅原文太(久能徳松)

 梅宮辰夫(海田昭一)

 池玲子(麻里子)

 成田三樹夫(川手勝美)

 山城新伍(河本靖男)

 室田日出男(柄原進吾)

 川谷拓三(松井卓)

 奈辺悟(庄司悟)

 成瀬正孝(大貫良平)

 曽根晴美(沖本九一)

 中原早苗(玲子)

 小泉洋子(ユリ)

 橘真紀(カスミ)

 白井みどり(千代美)

 松本政子(光代)

 林三恵(真佐子)

 弓恵子(美也)

 林彰太郎(下寺)

 有川正治(得田)

 森源太郎(丹保)

 北村英三(大坪)

 笹木俊志(佐山)

 鈴木康弘(塚田)

 司裕介(是貞充)

 片桐竜次(平田芳彦)

 幸英二(児島二郎)

 小田真士(住岡清治)

 高並功(水谷文治)

 白井孝司(土屋保)

 平沢彰(俵功二)

 秋山勝俊(竹内)

 野口貴史(柳井)

 志摩靖彦(向井万太郎)

 国一太郎(岡元秀雄)

 岡部正純(剛)

 世良豊(裁判所係員)

 鳥巣哲生(佐山の同僚)

 池田謙治(ダンプカー助手)

 木谷邦臣(宏道会組員A)

 唐沢民賢(新聞記者A)

 安部徹(菊池東馬)

 藤岡重慶(池田)

 鈴木瑞穂(三浦)

 遠藤太津朗(大原武男)

 汐路章(塩田忠二郎)

 佐野浅夫(吉浦勇作)

 田中邦衛(小宮金八)

 金子信雄(友安政市)

 松方弘樹(広谷賢次)

 監督 深作欣二

 ☆

 曽根晴美=曽根将之

 北村英三=喜多村英三

 遠藤太津朗=遠藤辰雄

 深作欣二=ふかさくきんじ

 ☆

 野口貴史の出番は本篇にはない。

カットされたものと思われる。

 ☆

 平成十五年(2003年)九月六日

 シネ・ヌーヴォにて鑑賞

 この日田中美佐江・北坂清トークショーも

開催さる

 ☆

 倉島市道端の拉麺屋台で一杯飲んでいた

倉島市捜査二課部長刑事久能徳松は、庄司

悟ら広谷組組員が無銭飲食をして襲撃計画を

語り合う光景を見た。

  庄司のポケットからダンヒルのライターを取

り上げた久能は、「ええの持っちょるの」と語り、

お前らみたいな足軽引っくくって豚箱に泊めちゃ

ってみても税金の無駄遣いじゃと解説して、「ど

いつもこいつも鼻血の詰まったツラしとってから」

と見て、「やるだけやって死んで来い」と襲撃に

行かせるが、無銭飲食の料金と彼自身の料金を

払わせる。

 庄司悟は取られたライターを返してつかあさい

とねだるが、久能は「死んでくもんに用があるか

い」と厳しく跳ねつけ、行かんかいと督戦する。

 大原組は戦後倉島でのしあがったヤクザ組織

であったが内紛が激化し、傘下の三宅組長が独立

し、何者かに射殺された。幹部の友安は引退後

市会議員となった。大原武男組長は服役しており、

組の運営は広谷賢次が為していたが、川手組長

川手勝美と対立していた。

 広谷は惚れこんでいるホステス麻里子を川手

に引き抜かれた事を怒っている。川手のキャバ

レーオーシャンにおいて友安は上機嫌で麻里子

に「お前、ヴァージンか」と問うて口説く。麻里子

は「ダンスできるの」と問い、友安は「何言うとんの?

儂ゃハワイ生まれじゃけん」と陽気に答えてダンス

を踊る。

 広谷組の柄原は部下・仲間と共にオーシャンを

襲撃する。恐怖感を覚えた友安は佐山巡査にパ

トカーに乗せろと迫り乗っ取って逃げる。

 久能と同僚の吉浦刑事は川手組事務所に令状

を見せて捜査する。川手はオーシャン襲撃では被

害者で広谷を告発する。久能は麻薬の情報を得て

調査していると語る。川手の部下松井は激怒して

「おどれら広谷の方から袖の下の税金取っとるそ

うじゃの?」と久能に激しく怒った。「わりゃ、松井

いうんじゃったの」と久能は笑みながらその名を

確認した。松井は激昂している。久能は尚も微笑

んで罵声をじっと聞く。

 倉島署の刑事課長のデスクの電話が鳴る。ふん

ぞりかえって座っている男が電話を取り、「はい。

こちら刑事課」と語る。池田課長の席に座るこの

男の名は広谷賢次である。

 電話をかけた友安は相手が池田と思い込み、

広谷に襲撃されたので令状取って蒸しあげて

くれと迫る。

 広谷は笑って、「わしゃ広谷賢次ちゅうもんで

す」と悪口を聞き取ったことを語る。友安は震え

る。池田課長は電話の内容を聞き、広谷は友

安の叔父貴が儂をぶちこめと言うとったと笑う。

 友安との懇意を広谷に指摘されて池田は怒り、

広谷は三宅や友安に家まで建ててもろうたと

からかう。

 池田の部下下寺は課長に向かってなんじゃ

と激怒する。

 塩田刑事は「暴力団言うてもよ、アカの連中

に比べたら可愛いもんじゃ」と喧嘩を仲裁する。

 久能が現れ、広谷はオーシャン襲撃事件の

責任者として、庄司悟を出頭させる。池田は

広谷にわりゃがやらせたんじゃろうと問うが、久

能は抗争事件にすると昔の三宅事件までバラ

さにゃいけんようになりますのでわしが話を

つけさせますと申し出る。

 廊下で広谷は麻里子の居場所を教えてく

れと久能に迫り、彼女を抱きたいと欲望を語

る。久能は、性欲に暴走することに「命を落とすぞ」

と警告する。

 悟は取り調べで吉浦に一喝されると怯え

うろたえる。「可愛いのう」と久能は語って、

ダンヒルのライターを返して彼自身も広谷

組に送り返す。バー珊瑚で広谷は悟を叱

り飛ばし、幹部の沖本を出頭させる。久能

は調べた麻里子の住所を広谷に教えて

やる。

 友安が上機嫌で広谷と久能に語りかけ

る。服役中の大原親分に弓を引き、引退後

市会議員になった友安に対して広谷は怒り

を隠せず、「極道の屑」と糾弾する。友安

は大原との盃は残っており、小父貴に向か

って言う言葉かと叱る。

  広谷「市会の先生を的にかけたりしま

      せんがの、交通事故には気ィつ

      けてつかいや!」

 怒った広谷は珊瑚を去る。友安は「久能君。

あれを甘やかしたらいかんぞ」と注意する。

 ホテル若葉で広谷は麻里子を強姦する

ように激しく抱く。

 廊下に出た広谷は子分の大貫に「性教育

も大変じゃの」と疲労を語るが、ホテルで愛人

真佐江と逢引していた吉浦と顔を合わし、「昔

から間男するんは、医者と坊主と警察官言う

ての」と解説する。

 久能は松井を捕らえ、部下の河本と共に取

調室で尋問する。

  「袖の下の税金貰うとる」と言われた事を久能

は確かめる。喫煙しながら松井は「早う調べた

らんかい!」と怒鳴る。

   「誰の許可得て煙草吸うとるんじゃい!?」

 久能は松井に殴る蹴るの暴行を加え拷問に

かける。「暴力止めいや」と松井は制止しようと

するが、久能のパンチは止まらない。激痛と

恐怖の中、松井は必死に逃げる。取調室から

は逃げられない。河本の手助けを得て、久能は

松井の衣類を剝がし全裸に剥く。「何すんね」

と悲鳴を松井が上げても久能と河本の虐待は

止まらなかった。拷問に耐えられなくなった松井

は全てを吐き、久能は便所で彼の妻と面会さ

せてやる。

 広谷に出会った久能は、松井から川手・友安

井の計画が、コンビナート建設地の買収にある

ことを聞き出した。久能は佐山巡査が愛人関係

にあるオーシャンホステス光代とその夫から恐

喝されている情報を聞きだす。広谷は光代とその

夫を捕らえ、嬲り恐喝の背後に川手がいること

を証言させる。

 オーシャン観光の競売で落とせた事を喜ぶ

川手は友安と共に芸者を呼び豪遊する。しか

し、売春容疑で捜査を受け競売無効にされる。

 広谷は日光石油久保所長を脅五億以下で

物件を買って欲しいと迫る。

 友安は県会議員菊地を川手に紹介し、ゴルフ

を楽しむ。

 倉島署に沖本が自首し、情婦のユリの面倒

を見て欲しいと舎弟の悟に頼む。やくざ柄原と

刑事河本は同級生で再会を喜ぶ。

 珊瑚で久能・広谷・柄原・河本・吉浦は麻里子

らホステスのおもてなしを受けて語り合う。

 吉浦は極道じゃあ警察じゃあ言うて変わりや

せんよと語る。柄原とホステスカスミは集団就職

の売れ残りと自己確認する。

  麻里子は久能に刑事になった動機を聞く。

   久能「ピストル持ちたかったけんよ。戦争

       に負けてピストル持てる言うたら、

       警官と麻薬Gメンしかなかったけん

       のう」

  吉浦は昇進試験に通らな大学出のひよこに

こき使われると嘆く。

  広谷は、例のヒン鴨が鍋に入ったらあんた

等に店一軒持たしちゃると豪快に確約する。

  泥酔した久能を彼のアパートに送る広谷は

盟友刑事の熱い友愛を聞く。広谷という男に男

久能が惚れた理由は六年前の三宅組長暗殺事

件が契機であった。三宅を射殺した広谷は、緊張

と恐怖から久能のアパートを激しく叩いた。

 久能は落ち着かせる為に茶漬けを御馳走して

あげた。

   広谷「あん時、あんたに食わしてもろうた茶

      漬けの味は一生忘れんよ。」

   久能「あん時よ、儂ァ、お前が使うた茶碗洗

       うのを見て、こいつによのう、十五年・

       二十年の刑食らわして、ほいで誰が

       得するか、思うたんじゃ。儂ァ、のう賢、

       あん時から広谷賢次の旗、掲げ持った

       んで。旗もよう掲げん男が人を裁ける

       か?のう、儂ァ、この旗は一生降ろさん

       ど。男になれや、はよう、大原の二代目

       継いで男になれや。」

  友を激励し久能は眠りにつく。広谷は久能が

別れた妻子の写真を大事にしていることを知る。

階段を降りると麻里子に久能の面倒を見てやって

くれと語る。麻里子が疑問を語ると、広谷は強制

して去って行く。

 大原組と川手組の対立は激化し県警本部はエ

リート警部補海田昭一を呼ぶ。海田は厳格で「法

に厳正であること、組織に忠実であること、暴力

団との私的な交際は断つこと」を部下に厳命する。

 年上の吉浦を君付けで呼び返事が無いことを

注意する。

 大原武男親分がアンコ(男性恋人)の小宮金八

と共に出所する。広谷らが親分を迎えに行くと、

小宮は親分さんは勤行に精進なさるのが日課で

ございますと解説し静かにするように注意する。

   広谷「なんなら、あのチャラチャラしよる

       関東もんは?」

   柄原「親っさんが中で連れとったアンコじゃ

       言うとるですがのう?」

   広谷「いなげな事になってきたよの!」

 塚原は大原親分があげな男と肉体関係を持って

いたんですかのと疑問を呈する。

  海田が大原組に現れた。

   海田「取締本部の海田だ!」

   広谷「取締マラレ本部の広谷じゃ!」

  海田は洒落た事を言うなと確かめつつ必ず

逮捕すると威圧する。広谷は激怒し闘志をむき

出しにする。

 料亭で県警と倉島署の懇親会が開かれ、海田

は久能に酒を注ぎつつ、広谷を捕らえるネタを欲

しいと聞く。久能は反発を感じる。広谷から酒が届

くと海田はヤクザの酒なんかいらんと怒り、庭に捨

てる。

 吉浦は激しく反発し、海田に人妻との浮気を冷笑

され、怒り平手打ちを食らわす。海田は落ち着いて

嗤い柔道で吉浦を投げ飛ばす。

  吉浦は傷つき、倉島署退職を決める。

  塩田は「近頃の若いもんは威勢がいいの。あの

勢いでアカを退治してくれたらええんじゃが」と呟く。

  久能の別れた妻玲子が離婚証明書への捺印

を徳松に頼む。離婚に対して久能は拒絶する。玲

子は昇進に響くからだと指摘し、徳松は彼女を叩く。

 久能は愛人になってくれた麻里子と仲睦まじく

暮らしていた。広谷からガサ入れを食らったと電

話で聞き久能は驚く。海田は大貫を捕らえ、情報

を聞き出した。

 大原組長の出所祝いの花会に海田は捜査を為

し大原を捕らえた。

 久能は友安商事の顧問に吉浦が就任した事を

聞いて吃驚する。海田に買収された吉浦は六年

前広谷を逃がした事がバレたら危ないぞと久能

に警告する。

 友安の仲介で大原は、菊池に会う。菊地は「こ

の町を赤旗から守る為に」と頭を下げて引退を頼

む。大原は引退声明を出し引退後の諸事業と組

若衆の処理を川手勝美氏に一任します」と語った。

 全ては海田・川手・友安の書いた絵の通りに動

く。

  広谷は「極道は顔で飯食うとるんで」と怒り、川

手との戦争を決意する。久能は制止する。柄原は

怒り、「あんたは番犬以下じゃ。飼い主の恩も忘れ

くさって」と久能を糾弾する。

  大貫の裏切りに怒る悟は彼を刺殺し逃走する。

 捜索で久能は隠れる悟を見つけるが、ダンヒルの

ライターを掲げる悟は見逃しを頼み込む。久能は逃

がすが、海田が悟を捕らえる。

 警察署で悟は久能が密告したと勘違いして「カタリ

め、この、カッコつけやがって。他のポリにチンコロせ

んと我の手で儂を捕まえていたらどうない?」と詰問

する。

  海田は部下の刑事たちを労い庄司逮捕で美味しい

夜食が食べられるよ、とカレーライスに舌鼓を打つ。

 久能は海田が食べているカレーライスを皿ごと奪い

壁に叩きつけた。

    海田「何の真似だ?」

    久能「海田さん。あんた、年なんぼない?」

    海田「三十一だが」

    久能「じゃったら日本が戦争に負けた時ァ小学

       生じゃったのォ。

       あん頃はの、上は天皇陛下から下は赤ん坊

       迄みんな横流しの闇米喰ろうて生きとった

       んで!あんたもその米で育ったんじゃろうが?

       おう!綺麗面して法の番人じゃなんじゃ言う

       んじゃったらの、十八年前わりゃあが冒した

       罪ハッキリ清算してから旨い飯喰うてみィや!」

  海田は「それがあのチンピラ逃がした良い訳か?」と

嘲笑う。久能はあいつに大貫を殺させたんは誰ないと詰

問する。海田は警察官の物言いかと叱る。久能はあんた

のしとることは人間のすることかと問う。殺人犯の広谷を

逃がす事が人間的かと海田は問い返す。

   久能「わしゃこの目で極道見とるんじゃ。上だけ

       見とるおどれに何が判るんじゃい!」

   塩田「久能!わりゃアカみたいな事言うちょるの!

       アカの手先か!」

  久能は怒りコルトを塩田に向け、上司の三浦から

謹慎を命じられた。

  怒りに燃える広谷は海田に対する抵抗として、吉浦

を拉致して人質に取る。

  海田昭一が、怒れる広谷賢次を説得する者と

して選んだ人物は、久能徳松であった。

 ☆罪の悲しみ☆

  笠原和夫は昭和二年(1927年)五月八日に誕生し

た。昭和二十年(1945年)五月十五日大竹海兵団に

入団する。八月五日に高熱を出し、六日に診療所で

閃光と爆音に驚愕し熱が下がる。後に原子爆弾投下

であったことを知る。

 昭和二十一年(1946年)日本大学に入学するも殆ど

出席せずアルバイトに励み、十月にアメリカ映画『我が

道を往く』を見て感激する。

 昭和二十五年(1950年)俳優大日方伝の書生になり、

二十八年(1953年)より東映宣伝部のプレスシート書き

の仕事を手伝う。二十九年(1954年)二月東映宣伝部

に常勤嘱託として採用される。

 脚本家となり、精密な取材と詳細な調査研究によっ

て書いたシナリオは映画の歴史の宝となる。

 東映映画において時代劇・現代劇の両方で活躍し、

任侠映画・実録路線を牽引した。

 四十七歳で執筆した脚本『県警対組織暴力』は大

傑作揃いの笠原和夫の脚本の中でも完璧さを極め

ている。

    笠原  深作が僕の第一稿を読んでね、「俺は

         これをやれる自信がない」って言ったん

         です。「俺はこの脚本を上回る演出はで

         きない。多分あなたの狙いどおりにはつ 

         くれないかもしれないが勘弁してくれ」と。

         僕は、演出とホンは違うもんだから好きな

         ようにやってくれと言ったんだけど、できた

         映画を見ると、やっぱり台本通りきちんと

         撮りすぎてますな。」

         (『昭和の劇』 364頁 2002年11月6日発行

          太田出版)

  笠原和夫の精緻な脚本を読んだ深作欣二は、やれる

自信がないと告白し、笠原さんの狙い通りには作れない

かもしれないが勘弁して欲しいと頼んだという。作さんが

打ちのめされてしまい、精神的負担を感じる程、完璧な

和夫脚本は巨大であった。

 笠原和夫は、深作欣二の前作『仁義の墓場』の迫力を

絶賛し、そこに期待して『県警対組織暴力』を書いたのだ

が、完成版の迫力で『仁義の墓場』に及ばなかったと語

っている。

   笠原 自分としては『県警対組織暴力』は書いていて

       楽しかったし、おもしろかった。で、映画の出来

       とは別なんだろうけど、シナリオとしては会心の

       出来だと思いましたね。

  (『昭和の劇』 364-365頁 2002年11月6日発行

   太田出版)

  題名を着想した人は岡田茂であった。笠原和夫は呉の

ヤクザ達に取材し、嫌がらせで警察の名を騙ってカレーラ

イスを注文したとか、警官とヤクザがパトカーで一緒にピク

ニックに行ったという話を聞いた。高校の同級生たちが一

方は警官、他方はヤクザになっていて再会するというエピ

ソードもやくざへの取材で得たと証言している。

  「倉島市」という架空の地は「倉敷市」と「広島市」から

着想したものだろう。

 『仁義なき戦い』シリーズで『仁義なき戦い』『仁義なき

戦い 広島死闘篇』『仁義なき戦い 代理戦争』『仁義な

き戦い 頂上作戦』を書いた笠原和夫は、広島弁でない

と脚本が書けない状態になっていたという。

  『仁義なき戦い』一・二・三・四部の脚本笠原和夫、主

演菅原文太、監督深作欣二の最強トリオが再結集した。

 このトリオとしては最後の作品でもあり、集大成に相応し

い大傑作となった。

 日本のみならず地球映画の歴史において大傑作である

『仁義なき戦い』を東映は生み出したが、関連作品として

警察・やくざの関係を描く『県警対組織暴力』を製作した

智慧に感嘆する。

 『仁義なき戦い』シリーズでは描けなかった題材が本作

で取り上げられ映像化された事も大きい。

 菅原文太が重厚に久能徳松の命を生きた。拉麺屋台

で無銭飲食をして襲撃計画を語るチンピラ悟達を叱り

飛ばして金を払わせ襲撃に行ってこいと叱るシーンは

厳格であるが、本能的に可愛い賢次の舎弟達と洞察し

たのであろう。ビシビシと叱責しつつも、心配し可愛が

っている。

 エリートコースから外れ、妻に去られ子供とも別居し

て暮らす久能は昇進に意欲を持っているものの、親友

となったやくざ広谷を応援し、そこに生き甲斐を感じて

いる。

 警察官として生きながら、やくざとの癒着に喜びと

夢を見出した男の生き方がある。

 一方で松井を嬲り抜き殴る蹴るの暴行を加えて

情報を聞き出すという恐るべき仕打ちをする存在

でもある。

 文太は久能の冷酷さも深く重い芸で演じる。

 松方弘樹が暴れん坊のやくざ広谷賢次を粘り強

く勤める。

 池田の席に座って友安を威嚇するシーンにギラ

ギラした魅力が光る。野心家で闘争心が強く好色

でもある。

 麻里子を強姦するように激しく求めるシーンの

弘樹名演は凄まじい。

 「どう・どう・どう」は凄まじかった。当時の新聞

記事を調べてみると、深作欣二はこのラブシーン

に爆笑したという。松方弘樹は、「役者は照れた

いかんです。」と語っている。

 池玲子はよく耐えた。

 弘樹ちゃん、照れるどころか大喜びやん?

 広谷は久能が別れた妻の写真を大事にしてい

ることを知って、情婦の麻里子を広谷に贈る。

 抗争迄して手に入れた女を、悲しみの友に渡す。

人権的には問題のある描写というお怒りの向き

もあるかもしれないが、これが実録路線の男なの

だとも言える。

 久能と広谷は、その苗字が示すように、広能

昌三の苗字から一字ずつ取られている。『仁義

なき戦い』シリーズで菅原文太が演じ生きた広

能晶三から着想した事は間違いないだろう。

 広能昌三は仁義を求めて熱く生きる男だが、

久能徳松は癒着や儲けにも野心を見出し、広

谷賢次は抗争や強姦的情交も為し、欲望成就

に燃えている。

 昌三を表とすると、徳松と賢次は裏でもある。

 仁義を求めてさすらい悲しみの中に男の生き方

を昌三は確かめた。

 徳松はやくざ広谷を男にしてやることに、自己の

男を賭けている。

 野望の道を邁進したかに見えた広谷・久能だが

正義を掲げる海田警部補の剛腕に潰される。その

海田は友安・川手を裏で操る黒幕的存在であった。

 梅宮辰夫がエリート警部補で裏では巨悪を犯す

海田を鋭く演じる。

 やくざ名優梅宮辰夫が標準語で会話し法律順守

を厳しく命じる警部補を深く重い名演で勤める。

 本作の意外性ではこの配役である。辰っちゃんの

冷酷演技では何といってもこの海田昭一役だ。

 久能に圧力をかけ、吉浦を虐め、広谷を挑発し、

大貫を内応させ、大原の組織を潰す。法律を掲げ

ながら利権を奪う巨悪を梅宮辰夫が深い演技で

表現する。

   ー松方さんの作品でお好きなものは何で

    しょうか。

  梅宮 『県警対組織暴力』(昭和50年。東映

      京都作品 監督 深作欣二)です。同

      じ東映と言っても松方君は京都撮影

      所に、僕は東京撮影所に入社して、 

      もう35年以上の付き合いになります。

      二人がガップリ四つに組んだ作品は

      以外に少ないが、これからも楽しみに

      しています。

 (『浪漫工房』10号 「松方弘樹 いま最も

  映画を愛する男」19頁 1997年1月28日発行

  創作工房)

 蔵田みゆきのインタビューに梅宮辰夫は『県警

対組織暴力』を挙げている。

 梅宮辰夫と松方弘樹の激突競演作品として本作

は輝いている。

 クライマックスの広谷と海田の攻防は緊張感豊

かだ。

 川谷拓三は松井の殴られ蹴られ剥がされの「や

られ」演技の体当たりで大人気を博しスタアへの

道を歩んだ。

 池玲子の色気は素晴らしい。

 室田日出男は柄原の力強さと哀感を豊かに

見せる。

 成田三樹夫は川手の凄みを静かな表情で

表す。

  安部徹・藤岡重慶・遠藤太津朗・小松方正・

鈴木瑞穂といった名優達が豊かな存在感を見せ

る。

 奈辺悟がチンピラ悟の悲しみを体当たりで演じ

る。

 田中邦衛がゲイのやくざ小宮を短い出番だが

豊かな芸で演じる。

 金子信雄は市会議員友安で老獪な悪を演じ

笑いを呼ぶ。

 そして、佐野浅夫が吉浦の哀愁を熱演する。

  荒井晴彦は久能がライスカレーを投げて

海田に罪を糾弾するシーンに白眉を見る。

  上は天皇陛下から下は赤ん坊まで横流し

の闇米を喰っていたという久能の台詞は重い。

   笠原  あの時代、僕らは毎日ヤミ商売

        みたいなことをやっておったので

        すよ。ヤミの米を買い、ヤミのもの

        を売ったりしてね。ずいぶん悪どい

        こともやったり、それで傷ついた人

        もいるだろうしね。自分が食うため

        には、周りの人間を全部振り捨てて、

        人が困っていても見て見ぬふりを

        していたという。浮浪児なんかもい

        くらでも見かけて、助けてあげなきゃ

        いけないとは思うんだけど、それを

        やりだしたら際限なく自分の生活が

        追い込まれていってしまう。それは

        浮浪児だけでなく、自分の肉親に対

        してもそういう部分があったしね。だ

        から、そういうものが傷として残って

        るわけですね、何かしら自分が罪を

        犯しているという・・・・・・・それは何

        も僕が海軍に行ったとか、そういう

        罪じゃなくて、生き残るために誰かを

        捨てていく、あるいは見捨てていくと

        いうね、そのこと自体に原罪というか、

        罪の意識を絶えず持っていたわけです

        よ。だけども、その罪をぶつけていく

        ところがない。また、許しを請う相手も

        わからないし、第一、あの時、食えて

        なければ、許しを得てもしょうがない。

        そういうものを何かにぶつけたいという

        のがあれうんですよ。それを僕は、あの

        文太に仮託したんですね。

 (『昭和の劇』 368‐369頁 2002年11月6日発行

  太田出版)

 笠原和夫は戦後生き残るために様々な事柄を

為した自己自身の生き方に罪を感じ、その悲しみ

をぶつけたいという心を抱き、菅原文太演ずる久

能徳松に託した。

 罪の悲哀は本作を支える主題ともなっている。

  笠原 裕仁が個人で何を考えようとも、あの

      人は第一級の戦犯ですよ。

 (『昭和の劇』 486頁 2002年11月6日発行

  太田出版)

 敬愛している裕仁の戦争責任を笠原和夫は

糾弾し第一級戦犯と確かめる。大日本帝国へ

の愛憎は笠原和夫の生涯のテーマでもあった。

 矛盾の中で苦悶し板挟みになりながら、罪を

語り自他に怒りをぶつけて悲しむ。

 笠原和夫の悲しみの台詞を、菅原文太が

至芸で語った。

 笠原和夫 九十四歳誕生日

 令和三年(2021年)五月八日

                         合掌

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