2024年3月30日土曜日

ゲーデルの不完全性定理とは何か? | 本がすき。

ゲーデルの不完全性定理とは何か? | 本がすき。
映画ではアインシュタインがゲーデルを馬鹿にした印象になっているが
アインシュタインはゲーデルを評価していたし
オッペンハイマーもこう言っている



ゲ-デルの世界: 完全性定理と不完全性定理 単行本 – 1985/5/1 

Foundations of Mathematics ペーパーバック – イラスト付き, 2012/5/21 


「彼の仕事は、ひじょうに多くの抽象的かつ数学的な議論を測り知れないほど深め, また豊かにしただけではなく, 人間の理性一般における限界の役割を明らかにしたのです.」1966年


ゲ-デルの世界: 完全性定理と不完全性定理 単行本 – 1985/5/1 

21頁

 1966年4月22日, オハイオ州立大学でゲーデルの 60 歳を祝った学会
が開かれた。このときプリンストン高級研究所の所長をしていた J.R. オ
ッペンハイマー (1904-1967) は次のように挨拶した.

 「クルトゲーデル, 彼の記念日, そして彼の偉大な業績のお祝いの役にたてることは,私
の名誉であり喜びであります. 彼の仕事は、ひじょうに多くの抽象的かつ
数学的な議論を測り知れないほど深め, また豊かにしただけではなく, 人
間の理性一般における限界の役割を明らかにしたのです. 自分の発見や見
解を発表することによりゲーデルを讃えようとこの場に集った多くの著名
な学者の方がたに, 私は敬意を表するとともに,この会議での講演が,こ
の学会に魂を入れた人の大いなる楽しみになることを希望します」([1],皿).

ゲーデルはこの学会にも出席しなかったが、 次のようなメッセージを寄
せている. 「シンポジウムに参加できなくて申し訳ありません。 しかし私
は、講演が掲載される本に対して, 興味と楽しみをもって期待していま
す」([1],皿).

Greetings from Dr. J. ROBERT OPPENHEIMER

参考文献
[1] Bulloff, Jack J., et al (ed.), Foundation of Mathematics:
Symposium Papers Commemotating the Sixtieth Birthday
of Kurt Gödel, Springer, 1969. ゲーデルの 60歳を祝った学会
の論文集.


Foundations of Mathematics ペーパーバック – イラスト付き, 2012/5/21 



参考文献
[1] Bulloff, Jack J., et al (ed.), Foundation of Mathematics:
Symposium Papers Commemotating the Sixtieth Birthday
of Kurt Gödel, Springer, 1969. ゲーデルの 60歳を祝った学会
の論文集.
[2] Cohen, Paul J., Set Theory and the Continuum Hypothesis,
W.A. Benjamin, 1966 (近藤基吉, 他訳 『連続体仮説』, 東京図
書, 1972.) 公理的集合論で画期的な業績をあげた著者自身による
教科書・
[3] Flint, Peter B., “Dr. Gödel, 71, Mathematician," New York
Times, Jan. 15, 1978. 「ニューヨークタイムス」 の死亡記事.
〔4〕 Goodstein, R. L., Development of Mathematical Logic. Logos
Press, 1971.(赤摂也訳 『数学基礎論入門』, 培風館, 1979) 数理
論理学の歴史的発展を中心にした入門書.
〔5〕 Heijenoort, Jean van (ed.), From Frege to Gödel; A Source
Book in Mathematical Logic, 1879-1931. Havard Univ. Press,
1967.19 世紀から20世紀のはじめにかけての数学基礎論の主要論
文の英訳と解説を収録している.
[6] 廣瀬健,『計算論』, 朝倉書店, 1975. 帰納的関数に関する標準的な
教科書.
〔7〕
(編著), 『数学基礎論の応用』, 数学セミナー増刊, 1981. 数
学基礎論の整数論, モデル論, 計算機科学への応用を4人の著者が
分担している.
[8] Kleene, Stephen C., Introduction to Metamathematics, North-
203

一般に、有意味な情報を生み出す体系は自然数論を含むことから、不完全性定理は、いかなる有意味な体系も、完全には形式化できないという驚異的な事実を示したことになる。ロバート・オッペンハイマーが「人間の理性一般における限界を明らかにした」と述べたように、人類の世界観は根本的に変革させられたのである。
https://honsuki.jp/series/shikouryokuwokitaeru/24801/index.html

ゲーデルの不完全性定理とは何か?

現代の高度情報化社会においては、あらゆる情報がネットやメディアに氾濫し、多くの個人が「情報に流されて自己を見失う」危機に直面している。デマやフェイクニュースに惑わされずに本質を見極めるためには、どうすればよいのか。そこで「自分で考える」ために大いに役立つのが、多彩な分野の専門家がコンパクトに仕上げた「新書」である。本連載では、哲学者・高橋昌一郎が、「思考力を鍛える」新書を選び抜いて紹介し解説する。

高橋昌一郎『ゲーデルの哲学』(講談社現代新書)1999年

連載第21回~第30回では、科学技術開発と戦争の関係性、進化やホルモンが人間に与える影響、さらに宇宙誕生の謎からヒトゲノム編集の生命倫理問題にいたるまで、多彩な視点から「科学的に考えよう」というテーマについて追究してきた。

今回の第31回から暫くの間は、より人間性にかかわる側面を考察しながら「思考力を鍛える」ために、「多彩な人々に触れてみよう」というテーマにアプローチしたいと思っている。そこで取り上げるのが、再び自著の紹介となって恐縮だが、『ゲーデルの哲学――不完全性定理と神の存在論』である。

「20世紀最高の天才」と呼ばれるクルト・ゲーデルは、1978年1月14日、71歳で生涯を閉じた。死亡診断書に記載された死因は、「人格障害による栄養失調および飢餓衰弱」である。身長5フィート7インチ(約170センチメートル)に対して、死亡時の体重は65ポンド(約30キログラム)にすぎなかった。

死の直前のゲーデルは、誰かに毒殺されるという強迫観念に支配された。そこで食事を摂取することができなくなり、医師の治療も拒否して、自らを餓死に追い込んだのである。彼は、椅子に座ったまま、胎児のような姿勢で亡くなっていた。

1978年3月3日、ゲーデルの追悼式典が、プリンストン高等研究所で開催された。司会を務めた数学者アンドレ・ヴェイユは、「過去2500年を振り返っても、アリストテレスと肩を並べると誇張なく呼べるのは、ゲーデルただ一人である」と述べた。

1929年、23歳のゲーデルは、ウィーン大学の博士論文で「完全性定理」を証明した。この定理は、古典論理の「完結性」を示したもので、アリストテレスの三段論法に始まる推論規則が完全に形式体系化されることを示している。つまり、ゲーデルは、完全性定理によって古典論理学を完成させたのであり、その意味では、「アリストテレスと肩を並べる」という表現も、たしかに「誇張」ではない。

その翌年、24歳のゲーデルは、「不完全性定理」を証明した。この定理は、古典論理とは違って、自然数論を完全には体系化できないことを表している。ゲーデルは、無矛盾な自然数論の公理系内部に、真であるにもかかわらず証明不可能な命題を構成する方法を示したのである(不完全性定理の厳密な証明については、スマリヤン著・高橋昌一郎監訳『不完全性定理』(丸善)をご参照いただきたい)。

一般に、有意味な情報を生み出す体系は自然数論を含むことから、不完全性定理は、いかなる有意味な体系も、完全には形式化できないという驚異的な事実を示したことになる。ロバート・オッペンハイマーが「人間の理性一般における限界を明らかにした」と述べたように、人類の世界観は根本的に変革させられたのである。

19世紀末、ゲオルグ・カントールが創始した集合論に、さまざまなパラドックスが発見された。当時の数学界の重鎮ダフィット・ヒルベルトは、その「数学の危機」を克服するために、数学全体を厳密に公理化し、その無矛盾性と完全性を証明して確固たる基礎を築くべきだと考えた。それが「ヒルベルト・プログラム」である。

ヒルベルトが追求した形式体系の「自己完結性」を「理性一般」と呼ぶならば、不完全性定理は、事実上「理性一般における限界」を明らかにしたことになる。当時の哲学界では、論理実証主義者が完全な「普遍言語」を追求していたが、その試みも達成不可能であることが明らかになった。よく指摘されることだが、不完全性定理を誤解・曲解して、社会学的・文学的に乱用することは大問題である。その反面、「単なる数学の定理にすぎない」と言い切るのも、極端な過小評価といえるだろう。

ゲーデルが、論理性と人間性の均衡をアンバランスに支えることによって、ようやく精神を保っていたことは、明らかである。その傾向は、彼の哲学にも表れている。ゲーデルは、不完全性定理によって人間理性の限界を明らかにしながら、人間理性そのものを疑うことはなく、世界は合理的に進歩すると信じていた。また、選択公理と一般連続体仮説の無矛盾性を証明し、その真偽が決定不可能であることを明らかにしながら、一般連続体仮説そのものは偽だと信じていた。(P.8)

不完全性定理とは何か、それを証明したゲーデルとはどのような人物で、どのような哲学を胸に秘めていたのかを知るためにも、『ゲーデルの哲学』は必読である!

高橋昌一郎(たかはし・しょういちろう)

國學院大學教授。専門は論理学・哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『ゲーデルの哲学』(講談社現代新書)、『反オカルト論』(光文社新書)、『愛の論理学』(角川新書)、『東大生の論理』(ちくま新書)、『小林秀雄の哲学』(朝日新書)、『哲学ディベート』(NHKブックス)、『ノイマン・ゲーデル・チューリング』(筑摩選書)、『科学哲学のすすめ』(丸善)など。情報文化研究所所長、JAPAN SKEPTICS副会長。

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