2024年3月21日木曜日

なぜ『スパイダーマン2』の電車の場面は素晴らしいのか - otaku8’s diary

なぜ『スパイダーマン2』の電車の場面は素晴らしいのか - otaku8's diary

なぜ『スパイダーマン2』の電車の場面は素晴らしいのか

 自分は『スパイダーマン2』が好きです。特に中盤の「電車の場面」は全アメコミ映画の中でもトップクラスに素晴らしいものになっていると思います。今回はその理由を書いていきたいと思います(Twitterでいつも呟いてることをまとめただけですが)。

記事中には『アメイジングスパイダーマン2』 、『デッドプール 2』、『ダークナイトライジング』、『スーパーマンリターンズ』『バットマンvsスーパーマン』などのネタバレが含まれます。

あらすじ

グリーン・ゴブリンとの死闘から2年。ピーターはスパイダーマンとして日夜悪と闘いながら大学にも通っていた。しかしヒーロー稼業の忙しさゆえに大学は落第寸前。せっかく見つけたピザ屋のバイトもクビになってしまった。そんな中ピーターは、メイおばさんが開いてくれた誕生パーティーでMJとハリーに久々の再会を果たす。しかしゴブリンの一件以来MJとの距離は広がり、ハリーともどこかぎこちなくなっていた。

ある日、ピーターはハリーの紹介で尊敬する科学者オットー・オクタビアスと出会う。ハリーは父ノーマン亡き後、オズコープ社の社運を賭けた核融合プロジェクトを仕切っており、その中心人物がオクタビアスだったのだ。オクタビアスはピーターを好意的に迎え入れ、科学に寄せる情熱を力説した。妻ロージーとも仲むつまじいオクタビアスは、ピーターにとってまさに理想の存在だった。

翌日。オクタビアスが観衆の前で核融合のデモンストレーションを行う日がやってきた。オクタビアスは脊髄に人工知能を搭載した金属製のアームを直結し、そのアームで人間の入り得ない状況下での実験を披露するという。実験は順調に進んでいったが、実験装置に過負荷がかかり、強力な磁場が発生した。会場は粉々に破壊され、観衆はパニックに。その場に居合わせたピーターがスパイダーマンとして活躍し、最悪の事態は免れたが、ロージーは命を落とし、オクタビアスも意識不明となり病院に運ばれるが、事故で制御チップを失ったアームの人工知能が覚醒し、医師達を虐殺して逃亡。思考をアームに支配されたオクタビアスは「ドック・オク」と化し、実験装置の再建をもくろみ資金調達のため銀行を襲撃する。

一方、ヒーローとしての使命に迷いが生じていたピーターは超人的な力が消え始める。苦悩の末、ピーターは遂にスパイダーマンを引退することを決意する。

スパイダーマン2 - Wikipedia

 まず、「電車の場面」とは何だったかを観てみたいと思います。

今回はこの一連のシーンの素晴らしさを「アクション」「ヒーロー映画的物語性」の視点から語っていこうと思います。

1.アクション

 スーパーマンほど頑丈ではないが一般人に比べると遥かに優れた身体能力を持ち、ウェブを用いたアクロバティックな戦闘をするスパイダーマンはとても実写映画映えするヒーローだといえます。電車の場面はこのスパイダーマンの強みが存分に発揮されています(ドック・オク、生身の人間なのにめちゃくちゃ丈夫じゃないかという突っ込みは置いておく)。このシークエンスは二種類のアクションで構成されています。まず前半は縦方向のアクション。監督のサム・ライミは空間を使ったアクションが上手い。同じような縦方向アクションは作中、前半にもありそちらはビルの壁面を利用した格闘アクションといった感じになっていますが、こちらは上下方向のスピーディーアクションでとても楽しいものになっています。

 次に電車の上下左右内部を利用したアクションシークエンス。電車を舞台にしたアクション映画(アメコミ映画なら『バットマンビギンズ』、『ウルヴァリンサムライ』、『キャプテンマーベル』など)はいくつかありますが、僕はここまで素晴らしい電車アクションを観た記憶がないです。全てのアクションが創意工夫に富んでいます。後半の電車を止めるくだりもそうですが、やはりスパイダーマンの絶妙な強さがあるからこそのアクションになっていると思います。スーパーマンやアイアンマン、バットマンではこのような見せ場は中々作れないでしょう。主に己の肉体オンリーで戦うスパイダーマンが良い具合にボロボロになるので観ているほうも感情移入しやすいです。また、後ほど重要となってきますが電車内に市民が乗っており、度々彼らのリアクションが映されることがポイントの一つです。

2.ヒーロー映画的物語性

 サム・ライミ版スパイダーマンシリーズは市民の命を救う場面が多いことが特徴の一つ。例えば『スパイダーマン2 』では車に轢かれそうな子供たちを救ったり火事の中から子供を助けたり。

話が少しズレますが自分がヒーロー映画(もちろんそのヒーローの性質にもよりますが)にとって大切だと思う要素、それは人命救助です。人の命を救うという行為は基本的に圧倒的に正しいことです(助けたら世界が滅びるとかいう特殊な場合を除く)。"ヒーロー"と言えども簡単に定義付けは出来ないですが、一つの形として、ヒーローは(象徴的に)人々の中に希望を与えてくれる存在であって欲しいと思います。例えば『スーパーマンリターンズ』の航空機のシーンは数あるヒーロー映画の人命救助シーンの中でも屈指の名場面になっています。

 先ほど「助けたら世界が滅びるとかいう特殊な場合を除く」と言いましたが、その意味で素晴らしかったのが『デッドプール2』です。将来、悲劇を引き起こすとされる少年ラッセル。彼を殺せば悲劇は回避されるのか?しかしデッドプールは彼を殺さず、自らの命をかけて彼に善行を見せることで彼の考えを変えさせ、悲劇を回避します。少年の人生を救ったという意味でこれも一種の人助けと言えるでしょう。

 また、ヒーローは必ずしも特殊能力を持っている必要はありません。『ダークナイトライジング』でのバットマン(ブルース・ウェイン)からゴードン本部長へのセリフ

"A hero can be anyone. Even a man doing something as simple and reassuring as putting a coat around a young boy's shoulders to let him know that the world hadn't ended."

「ヒーローには誰でもなれる。少年の肩にコートをかけて、世界は終わりじゃないと教えて安心させればいいんだ」 

両親を失ったブルース少年にとって、彼に希望を与えてくれたゴードンはヒーローでした。「誰でもヒーローになれる」とは誰でも特殊能力を持った存在になれるということではなく、誰だって自分の行動次第で誰かに希望を与えられるし世の中を変えることが出来るかもしれないということです。

 ほとんどのMARVEL映画にはスタン・リーがカメオ出演していることが有名ですが、自分が特に好きなのが『スパイダーマン3』へのカメオ。そこでのスタン・リーのセリフ

"I guess one person can make a difference."
「一人の人間にだって世界を変えられるだろう」

これはまさにスタン・リー本人のことでもありますね。

 電車の場面に戻ります。暴走する電車を止め、人々の命を救ったスパイダーマン。ここで一つ目のポイントは人々がこの善行を目撃しているということ。先ほどの『スーパーマンリターンズ』でもそうでしたが、ヒーローは人々の中に希望を鼓舞してくれる存在であって欲しいのです。命をかけて自分たちを守ったスパイダーマンの姿を見て人々の中で何かが変化します。

彼らは力尽きたスパイダーマンを優しく受け止め、電車内に寝かしてあげます。ここで今まで遠い存在だと思っていたスパイダーマンの正体が自分たちの息子と変わらない若者であることに気が付きます。

「ヒーローは遠い存在なんかじゃない」

 彼らは「(正体を)誰にも言わないよ」とマスクをピーターに渡します(マスクを渡している二人の少年はスパイダーマン役のトビー・マグワイアと片親が同じ兄弟)。謎の男として現れ、デイリービューグルには好き勝手に書かれていたスパイダーマンですが、彼は善行を積み重ね、市民との間に信頼関係が築かれます。泣けます。

電車内に押し入り、スパイダーマンを渡せと迫るドック・オクに立ち向かいスパイダーマンを庇う人々。ここが二つ目のポイントで人々自身が行動を起こすということ。『スーパーマンリターンズ』の人命救助シーンは素晴らしいものですが、『スパイダーマン2』ではそこから更に進んでヒーローの善行により市民の行動が変化していくところまで描いています。今度は市民一人一人がヒーローなのです。泣けます。

このようなヒーロー的行為の伝播は前作『スパイダーマン』や『アメイジングスパイダーマン2 』、『ダークナイト ライジング』などで見ることが出来ます。

前作『スパイダーマン』では子供たちとMJを助けようとするスパイダーマンを守るため市民がグリーンゴブリンに立ち向かう。『スパイダーマン2』の電車のシーンはこの場面をブラッシュアップしたものともいえる。

 上の二つの例から分かるように、ここでもう一つキーワードとなるのがヒーローの象徴化です。ヒーローは個人ではなく概念となり人々に伝播します。

 アメコミヒーローは派手な格好をしていますが、そのおかげでヒーローが個人ではなく概念であり、行動により誰でもヒーローになれるということがより鮮明になっていると思います。分かりやすいシンボルとなることで、現実世界にも影響を与えています。

 "Legends of the Knight "ではバットマンの現実世界への影響が描かれている。

『スパイダーマン2』の電車の場面には以上のような「ヒーロー映画的物語性」が詰まっており、その流れが非常にスマートだから素晴らしいのです。

 実は『スパイダーマン2』ではこれまで語ってきたようなことを改めてピーター・パーカー(スパイダーマン)本人に説いている人物がいます。

 それがメイおばさん。スパイダーマンを引退し、普通の生活に戻ろうとするピーターに対しメイおばさんは次のように語ります(彼がスパイダーマンであることは知らない)。

"And Lord knows, kids like Henry need a hero. Courageous, self-sacrificing people. Setting examples for all of us. Everybody loves a hero. People line up for them, cheer them, scream their names. And years later, they'll tell how they stood in the rain for hours just to get a glimpse of the one who taught them how to hold on a second longer. I believe there's a hero in all of us, that keeps us honest, gives us strength, makes us noble, and finally allows us to die with pride, even though sometimes we have to be steady, and give up the thing we want the most. Even our dreams."

「ヘンリーみたいな子どもたちにはヒーローが必要なの。勇気があって自分を犠牲にしてまで、私たちの手本となる人。みんなヒーローが好きなの。その姿を見たがり、応援し、名前を呼ぶ。何年かたって、みんな語り継ぐでしょう。あきらめないことを教えてくれたヒーローを一目見るために、何時間も雨の中に立っていたことを。私は誰もが心の中にヒーローがいると思ってる。そのおかげで、正直で、勇気を持ち、気高くいられ、誇りを持って死ねる。でも、その為には時には毅然として最も大切な物でさえあきらめなければならないこともある。自分の夢さえも」

そしてこの言葉はピーターによって宿敵ドック・オクへ伝えられ、ドック・オクは我に返ります。

 この点でメイおばさんはこの作品においてピーターを導く最重要人物の一人となっています。

 これまで二つの視点から電車の場面の素晴らしさを語ってきましたが、それを支えているのがもう一つの最重要要素、ダニー・エルフマンによる劇判です。彼の音楽によって、よりスリリングかつエモーショナルな場面に仕上がっています。もちろんVFXも素晴らしいです。かつてはスパイダーマンのアクションをしっかり実写化するのは難しいと言われてきましたが、ライミ版スパイダーマンシリーズはそのハードルを乗り越え、今観ても全く色あせていないものになっています。

最近、大量のアメコミ映画が製作されていますが、その多くが敵を倒すことや世界を救うことに焦点が当てられているように思います。電車の場面を観れば『スパイダーマン2』が頭一つ抜けているのは確かですが、ここで思い出して欲しいのが、ピーターが乗っていたオートバイに車が衝突し、ピーターが思わずスパイダーマン的能力を使い地面に着地するも、その様子を二人の少年に見られてしまった場面。

Kid: "How'd you do that?"
Peter Parker: "Uh... Work out, plenty of rest. You know, eat your green vegetables."
Kid: "That's what my mom is always saying. I just actually never believed her."

少年「どうやってやったの?」

ピーター「トレーニングして、よく寝るんだ。そして野菜をちゃんと食べるんだ」

少年「ママもいつもそう言うけど、信じてなかったよ」

"魔法"を目の当たりにした少年たちはピーターの言ったことを守っていくでしょうが、実際にはピーターが言ったことを守ってもスパイダーマンのようにはならない。でも少年たちの人生にとって良いことであるのは確か。ヒーロー映画も同じように創作による"魔法"によって子供たちの人生をより良いものにしてくれるものであって欲しいです。

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