Lotta Maija
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ロッタ・マイヤ
テキスタイルデザイナー、イラストレーター
第4回<後編>
日本での経験も糧に
長く愛されるデザインを目指す
フィンランド好きとしては、ついついマリメッコの活動に目がいってしまいますが、ロッタさんは、イギリスやアメリカの企業とも仕事をするなど、幅広く活躍しています。また、日本との出会いや滞在経験についてもお聞きしました。
――マリメッコ以外のお仕事についてもお聞かせください。
L それでしたら、特にお気に入りの仕事について。まずイギリスの子ども服「Petit Pli(プチ・プリ)」です。彼らは、様々なアーティストやデザイナーとコラボレーションをしているのですが、どれも革新的なんです。コンセプトは子どもたちが大きくなっても長く着られる服。赤ちゃんのときにはプリーツが閉じている状態で、体の成長に合わせてプリーツが伸びていきます。
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日本の公式サイト
赤ちゃんから4歳くらいまで
長く着ることができる持続可能な服。
デザインするのは難しく、大変驚きましたが、
そのような発想、考え方は好きですね。
L 実用的なだけでなく、デザインはわくわくするものでもあるべきという信念で作られているので、プリーツが閉じているときと開いているときの両方の見え方について、考える必要がありましたが、とても楽しい仕事でした。おそらく2024年の春に再販になるかと思います。
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L あとはアメリカの絆創膏「Welly(ウェリー)」ですね。彼らのミッションは、絆創膏を楽しいものに、元気が出るようなものにすること。絆創膏本体の絵柄とパッケージデザインを手がけました。メタリックのパッケージに、3種類の絆創膏が入っています。
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L どのようなデザインにしてほしいか、事前にしっかり意見を伝えてくれて、提案したデザインについてもフィードバッグをくれるので、Wellyとの仕事もとても楽しいものでした。
フィランドでは、家具ブランドのHakola(ハコラ)。Hakolaは、2016年にインターンシップもさせていただいたので、長いお付き合いになります。こちらは幾何学模様と小さな波をモチーフに描いた作品「Laine」。時代を問わず、長く愛されるものを意識してデザインしています。
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右/商品はテキスタイルブランドのLapan Kankrit(ラプアン カンクリ)の工場で織られている。2020年。
現在は品切れ。
L こうした様々な会社と仕事をしながら、ポストカードやカレンダー、シール、ノートなど、紙製品を制作し、販売するオンラインショップを立ち上げました。私自身、ステーショナリーが好きだったのもありますが、「紙のプロダクトはありますか?」と聞かれることが多かったので。
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ロッタさんが描く花は、色もフォルムも優しく、ハッピーな気持ちに。
L 2024年3月にオンラインショップはクローズしたのですが、紙の製品は好きですし、今後、企業とのコラボレーションなどでも作っていきたいなと思います。
あとは本の装画やストリートアートも手がけました。こちらは表紙ですが、他に見返しや小さな挿絵も。全部で200点くらい描きましたね。
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昨年は、街の電力供給ボックスに絵を描きました!
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L これまで電力供給ボックスといえば、決して美しいとはいえな違法なグラフィティーやポスターで埋め尽くされていることが多かったのですが、電力会社の「Helen」が、ローカルアーティストに「電力供給ボックスに絵を描きませんか?」と呼びかけたのです。そうすることで、ふさわしくないグラフィティーから街を守り、景観を明るくして、住民たちに喜びを与えたいと。
私は2023年に始めて、これまで4つの箱に絵を描きました。実は、1つ目のボックスは、ボーイフレンドからのプレゼントなんです。彼が近所にあるボックスを選び、すべて段取りを整えてくれました。絵を描く私にとっては、作家ごころをくすぐる、刺激的かつ心のこもったプレゼントでした。最初の絵を見たApollonkatu(アポロン通り)の人たちから依頼を受け、2つ目を描きました(上の写真)。
やってみて気づいたのは、電力供給ボックスに絵を描くということは、街の人々を幸せにするとても楽しい仕事だということ。これからもこの活動は続けていきたいと思います。
――日本に留学されているということは、きっと日本がお好きなのかなと思うのですが、日本に興味を持ったきっかけはなんでしょうか。
L 日本を好きになったきっかけは、実は偶然なんです。小学生の頃、漫画『名探偵コナン』が大好きでよく読んでいました。確か当時、毎月発売だったのですが、日本の漫画は高かったので、コナンを買うために節約していたほど。でも当時、コナンが日本の漫画ということは知らなかったんです。単純に絵やストーリーを楽しんでいました。漫画のスタイルに影響を受け、漫画を描こうとしたこともあります。
成長するにつれ、そのことはすっかり忘れていたのですが、大学生になり、教授から日本でインターンシップの機会があるということを教えてもらったんです。インターンシップは、すでにイタリアとフィンランドで経験していたので、もう一度どこかでという気持ちはなかったのですが、日本に行くということに興味があって応募しました。幸運なことに選ばれて、2017年4月から9月までの6ヶ月間、日本で過ごしました。でも実際に行くまで、日本のことは何も知らなかったのですけど。
――偶然が重なって日本にいらしたのですね。まるで導かれているかのよう! 会社はデザイン系でしょうか。場所は東京ですか。
L 千葉に住みながら、東京の秋葉原にある会社に通っていました。高齢者が使う杖や履物などのアイテムをデザイン、製造する「カインドケア」という会社です。会社の同僚であり、上司でもある方と彼の奥さんと暮らしました。ご夫婦には、日本の生活や習慣など、たくさんのことを教えていただきました。大好きな温泉や銭湯の魅力を教えてくれたのもおふたりなんです。
――どのようなデザインを手がけたのですか。ぜひ見てみたいです!
L 傘の柄として「たい焼き」と「しじみ」柄のデザインをしたり、フィンランドと日本の梨を組み合わせたものや、フィンランドの白鳥をモチーフにしたものもありました。
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左/たい焼き柄。右/しじみ柄。いずれも2018年
L このときの私の仕事は、毎週、日本やフィンランドの文化からインスピレーションを得たパターンを作ること。結果的に50ものプリントデザインを完成させました。様々なタイプのスケッチを起こし、ときにはコンピューターを使って描くなど、実践的な訓練を積み重ねることができました。
日本で半年間、プリントデザインの経験をしたことは
その後の私のスタイルに大きな影響を与えています。
――日本滞在中に苦労したことはありますか。
L 日本のことをほとんど知らなかったので、日本の文化をモチーフにデザインすること、日本の人たちに気に入ってもらうデザインを手がけることは簡単ではありませんでした。いい意味でも大きなカルチャーショックがありましたが、6ヶ月を終えたとき、いつかまた日本に戻ってきたいなと。そこで、修士号が始まってから、交換留学生として日本に留学することにしたのです。
2023年9月から2024年1月までの5ヶ月間、多摩美術大学で学びました。学士課程ではテキスタイルデザインを学んでいましたが、修士課程ではコンテンポラリーデザインを専攻し、セラミックやガラスを学んでいたので、多摩美術大学でもガラスを学びました。
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L なぜコンテンポラリーデザインを選んだかというと、新しい材料を使ってみることに興味があって、他の材料を使ったら自分のスタイルがどのように変わるのか見てみたかったから。やってみて気づいたのは、3Dで考えるのはあまり得意ではなく、いつも平面で考えているということ。さらにガラスを吹くことも難しくて、先生にはいつも「どんな形を作りたいですか?」と聞かれていたのですが、形を見つけるのは難しかったですね。
多摩美では、まだガラスが熱いうちに絵を描いたり、パターンを付けたりとすることについて、様々な方法を試しました。ガラス作品には光がとても重要で、物体の中で光がどのように透過するのかということに、魅了され続けています。
自分のテキスタイルデザイナーとしてのアイデンティティを確認することもできました。
自分の経験やスタイルを生かしつつ、異なる材料に落とし込む。
それが、私の修士課程での課題なのだと思います。
つまり、自分の場所から離れていっては戻ってくる
ということの繰り返しです。
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それらの方法を取り入れながら、様々な方法で制作。
左/ガラス作品のためのスケッチ。右/ロンデルで制作したプレートを砕いて、花柄のパーツを作っていく。
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右/完成した作品。「この制作スタイルが楽しくて、今後も続けていきたい!」とロッタさん。
――今回の日本滞在中で最も印象に残っていることはなんですか。
L 日本の温泉カルチャーです。私は温泉や銭湯が大好きで、Googleマップに、自分が行きたい場所の印をつけては訪れていました。今回、東京、箱根、長野、京都、鳥取で、22ヵ所の温泉と銭湯を訪れました! 鳥取は今年の1月に行ってきました。インターンシップのときに一緒に暮らしていたご夫婦が鳥取に移住されていて、おふたりに会いに。鳥取では3つの温泉に入りました。日本海も美しくて、とても楽しかったです。
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右/かつて東京・足立区にあった「子宝湯」。現在は小平市「江戸東京たてもの園」に移築され、保存されている。
子宝湯を訪れたことがきっかけで、古い銭湯からインスピレーションを得られると感じ、
古い銭湯をめぐり、写真を撮り始める。
L 初めて日本に来たときから、私にとって日本というのは、故郷に来たような感覚で、とても心地がいいんです。そして日本にいる間は、できるだけ日本語を使うように心がけています。もちろん完全には理解できなくて、どこか曖昧な部分があり、言いたいことのすべてを語り合えるわけではないのですが、日本語だけで暮らしていると感じられることはとても気持ちがいいことなんです。
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街のプランターの花を「街の小さな庭」と呼び、見つけては写真を撮ってしまうという。
右/日本のかごも好きだそう!
――今後の活動についてお聞かせください。
L 日本でたくさんのことを学び、刺激を受け、いま私の心はとてもフレッシュです。これからそれをどのように組み立てていくのか、フィンランドでどのように関連づけていくのか、私自身楽しみにしています。
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Lotta Maija
ロッタ・マイヤ/1993年フィンランド・ヘルシンキ生まれ。子ども時代はヴァンターで過ごした。現在はヘルシンキ在住。海が身近なヘルシンキの暮らしを気に入っている。アアルト大学にてテキスタイルデザイン専攻。在学中の2017年4月より半年間、日本のデザイン会社でインターンシップを経験。大学卒業後まもなくマリメッコへデザイン提供。イギリスの子ども服ブランド「Petit Pli」、アメリカの絆創膏メーカー「Welly」、カナダのステーショナリーブランド「Baltic Club」など、国内外の企業とコラボレーションし、活躍している。現在、アアルト大学の修士課程にてコンテンポラリーデザインを専攻中。また2023年9月より5ヶ月間、多摩美術大学に交換留学で再来日。2024年2月にヘルシンキに帰国。フィンランドのデザイン業界において、今後さらなる活躍が期待されるアーティストである。
2024年1月17日 東京・恵比寿にて
企画・取材/kukkameri
執筆/新谷麻佐子(kukkameri)
毎回アーティストインタビューの後に、kukkameriの二人がそれぞれ感じたことを言葉と絵で綴る「kukkameri通信」をお届けします。kukkameri通信 #4 Lotta Maija
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