2024年4月28日日曜日

ハムレットQ1 (光文社古典新訳文庫 Aシ 1-6) : ウィリアム シェイクスピア, Shakespeare,William, 徹雄, 安西: 本


https://www.amazon.co.jp/ハムレットQ1-光文社古典新訳文庫-ウィリアム-シェイクスピア/dp/4334752012

2010年2月11日に日本でレビュー済み
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かつて、おそまつな海賊版とみられていた『第1クォート・ハムレット』(=Q1)は、最近の研究では、現行ハムレットが作られる過程を示す「原型」とみなされている。私の手元にあるArden版の『Hamlet』(2006)では、膨大な脚注も付録も煩わしいほど詳細にQ1との関連に触れている。成立史的には、Q1はそれほど重要なテクストなのだ。安西氏の邦訳は、貴重なお仕事であると同時に、シェイクスピア・ファンには福音である。現行版ハムレットは長すぎるので、あちこちカットして上演されるのが普通だが、Q1は分量が6割しかないので、その点でも注目されている。だが、邦訳を通読して感じたのは、ハムレットに特徴的なあの輝くばかりの科白が乏しいことである。たとえば、劇中劇で動揺した王クローディアスの祈り。(Q1)「どうやって天に祈ればよいというのか。ええい、ひざまずけ。膝を折って、神のお慈悲を乞い求めるのだ。さもなければ、絶望しかないのではないか」は、現行版では「助けたまえ、天使よ! やってみよう。曲がれ、頑ななひざよ。そして、鋼のような心よ、生まれたての赤子のように柔らかくなれ。それですべてうまくいく。」(河合祥一郎訳、角川文庫) ハムレットの死の場面では、(Q1)「さらばだ、ホレイショ。天よ、わが魂を、迎えたまえ。(死ぬ)」/(現行版)「ああ、もう死ぬぞ、ホレイシオ。・・・彼[=フォーティンブラス]に伝えてくれ、これまでに起こった事の顛末を。――あとは、沈黙。(死ぬ)」 そして続くホレイシオの「気高いお心が砕けてしまった。おやすみなさい、優しい王子様。天使たちの歌声を聞きながらお眠りなさい。」が、Q1にはまったく無い。このホレイシオの素晴らしい科白が欠けた『ハムレット』など考えられるだろうか? シェイクスピアはQ1を元に、科白を練りに練ったのだ。やはり長くなっただけのことはある。
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レポート
neverneverland
2018年1月9日に日本でレビュー済み
ハムレットのQ1は,Q2原本の扉書きの言ふやうに,沙翁本來の『ハムレット』では無い.今日でも舞台版のミュージカルを映畫版にする際に見られる樣な,『破綻』が其處此處に見られるからだ.つまり Q1は,同樣に,出版年こそ先驅ではあれ,別な作者による,Q2 の評判に肖つての『別作品』と考へる他は無い.
『ハムレット』本來の,あるべき『解釋』が混亂を極める今日,この作品を Q2 と區別し得ぬ英文學者らの爲體は嘆かはしい限りなのだが,たとへば Q1では,所謂『ガートルード 居室の場』に於いて,ハムレットによる糺彈を受けたガートルードは,いとも簡單に悔悛し,ハムレットの復讎に,積極的な支援を約するが,これはQ2の展開とは,まつたく異なる.ハムレットの『意圖』は他へは漏らさぬが,現在の夫たる,恐らくは長年の『不倫』の相手であつたクローディアスとの關係を,斷ち切る覺悟には至らぬといふ,心を二つに割かれた迄が,ガートルードの現在であり,それだからこそ Q2 のハムレットは,それを見窮め,去り際に,彼の 'good night' の言葉に對して『祝福 blessing 』を施さうとする母親を制し,「全き悔悛に達し,神の祝福を心より願ふ時にこそ,その 'blessing' を受けませう」と言ひ渡し,この遣り取りがあればこそ,最終場で,毒杯とは知らずにであるが,悔悛の表明として,杯を執り,ハムレットを blessing するのである.それがガートルードの死に繫がる事は,ご存知の通りである.
かうした極めて『ドラマティック』な遣り取りが,Q1 では,安直な悔悛により,總て削がれて,一切動機が不明なまゝに,ガートルードは杯を執る.僕は,御粗末な結末と見るのだが,そもそも今日,Q2 の解釋に於いても,最終場のガートルードによる blessing の意味合ひは,まつたく見落とされ,その爲,未だに『ハムレット』は,謎の多い難解な芝居とされてゐる面が大いに存在し,その情け無い現狀からして,眞に Q1 の位置附けも,出來得ぬものと,歎く次第である.
さて,Q1 譯者の安西さんとは,多少の面識もありはしたのだが,やはりは Hamlet の Q2 もしくはF1 に,取組んで戴きたかつたと、殘念に思ふばかりである.譯者の御冥福を禱りつゝ.

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下村 健さんによるXでのポスト

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