息を止めて歌うヒゲクジラの驚きの発声法をついに解明、人工的な音への弱みも明らかに
「このような方法で発声している動物は他にいません」と研究者、ザトウクジラなどのヒゲクジラ類
歌うクジラとして知られるザトウクジラなどのヒゲクジラは、私たちと違って息を止めたままでも歌えるが、研究者たちにとってその仕組みは長年の謎だった。しかし、2月21日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された新たな論文により、その驚くべき方法が明らかになった。 【関連動画】ザトウクジラの声、驚きの発声法 ヒゲクジラには「喉頭嚢(こうとうのう)」と呼ばれる空気を入れる袋のような器官があることは知られていて、発声に関係があると考えられていたが、実際にどのように音を出しているのかは解明されていなかった。 「ヒゲクジラに内視鏡を突っこんで、どのようにして歌っているか観察するわけにはいきません」と、米ニューヨーク市のマウントサイナイ・アイカーン医科大学でクジラの解剖学を研究するジョイ・ライデンバーグ氏は言う。また、通常、死んだクジラはすぐに腐敗が始まるので、新鮮な組織サンプルを採取することも困難だった。なお、ライデンバーグ氏は今回の研究には関与していない。 幸いにも、論文の筆頭著者で南デンマーク大学の生物音響学教授、コーエン・エレマンス氏は、研究所の近くに3頭のクジラが打ち上げられたため、死んで間もないザトウクジラ、ミンククジラ、イワシクジラ(いずれもヒゲクジラ類)から新鮮なのど(喉頭)を入手できた。エレマンス氏は、この3つののどを使って、ヒゲクジラが発声する際に何が起きているのかを初めて再現できた。
振動していた意外なもの
3種のクジラの歌声はそれぞれ大きく異なっている。ザトウクジラの歌声は複雑で、ミンククジラはアヒルのように鳴き、イワシクジラは低周波の音を出す。だが、どのような仕組みで発声しているのだろうか。 CTスキャンを行った後に、研究チームは3つののどを研究室に据えて、ゆっくりと空気を吹きこんで、クジラの大きな肺を模倣できるかどうか確認した。「効果を増強するために最後にはパーティー用バルーンを使用しました」とエレマンス氏は言う。 エレマンス氏らは、何かの端がこすれ合って音を出していると仮定していた。ところが研究の結果、のどの後部にのびるU字型の硬い構造が脂肪のクッションを押しつけていて、クジラが肺から強く空気を押し出すと、クッションが振動して低い声が出ていることが明らかになった。この特殊な構造は、水を吸い込まないように声を出しつつ、空気を再利用できるという。 「こんな方法で発声している動物は他にいません」とライデンバーグ氏は言う。 エレマンス氏は、陸で生活していたクジラの祖先が約5000万年前に海に戻った時代にこうした適応が生じたと考えている。マッコウクジラなどのハクジラが鼻腔の声帯(音唇)で声を出すのに対し、ヒゲクジラは喉頭で摂食と呼吸を別々に行いながら、他のクジラとコミュニケーションをとる必要があったので、このユニークなシステムを進化させた。 「彼らはこの奇妙な喉頭を使って水中で発声するために、まったく新しい生理学的な進化を遂げたのです」と、エレマンス氏は話している。
0 件のコメント:
コメントを投稿