Notes17/トラベリング・ウィルベリーズ Part 3
→ Part 1 :ウィルベリーズ基本情報→ Part 2 :更なる豊かなウィルベリーズ・ワールドについて
→ Part 4:図解 異常に偏りのあるウィルベリー兄弟列伝 (総天然色)
楽曲紹介
アルバム:ヴォリューム・ワン / Volume One
1. Handle with Care
偶然と運命と必然と友情が相まって、ディランの庭で造られた、『ジョージのシングルB面曲』。ジョージが歌詞に困り、ディランに助けを求めると、「タイトルは?何の歌なの?」と尋ねられたので、咄嗟にガレージ内に置いてあった箱の注意書き『取扱注意(Handle with Care)』をそのまま伝え、ディランは「いいね」と答えて作詞を開始した。
いかにもジョージっぽいなめらかなヴォーカルから、ロイの美声に移り、突然ボブとトムがガツンとかますコントラストが素晴らしい。歌詞は、『今まで散々酷い目に遭ってきたけど、どうにか頑張るから、優しくしてくれよ』という、いかにもベテランロッカー達らしいもの。『誰だって側にいてくれる人が必要 ぼくに寄り添って、一緒に夢を見るんだ』…
エンディングでジョージのスライド・ギターと、ボブのハーモニカが重なる瞬間は背筋がゾクゾクして涙がでるくらい、感動的。
素晴らしいビデオと相まって、ウィルベリーズを代表する美しい一曲となった。
ジョージの追悼コンサートでもトムとジェフが歌い、最近はトムのコンサートでも必ず演奏される。ロイのパートを誰かが頑張って歌うと、観客が温かい歓声を上げるのが恒例となっている。
2. Dirty World
ボブのお茶目な語り口が素敵な曲。『きみにゾッコンだから、車のオイルなんてタダでかえてあげちゃう』とか、『きみは極上のお菓子みたい。でも医者に暴飲暴食を止められている』とか、言うことがいちいち可愛い。
エンディングで5人が順番に『彼女の…を愛している』と歌うのだが、この声を聞き分けるのも一興。ロイがTraveling をTtremblingと言い間違えるところも、お聞き逃しなく。
3. Rattled
ジェフが引っ張る、カントリー調のアホ・ラブソング。ドラマーのジムが、デイヴ・スチュアート家の冷蔵庫を叩いている音が、そのまま使われている。ロイの妙技 "Brrrrr…." も聞こえる。
4. Last Night
『夕べ、バーにいい女が居た ところが、彼女から酷い目に遭わされた』という歌詞を、トムがいかにも酷い目に遭ったみたいに歌う、スカ風の一曲。ロイが歌う個所もふるっている。歌詞もユーモアに富み、特にオチが良い。『俺に残されたのは、この歌だけ…』
ドキュメンタリーでは、メンバーがアイディアを出し合いながら楽しく詞を書いているシーンがあって、興味深い。
5. Not Alone Any More
ロイの美声が堪能できる、感動的な曲。『もう一人じゃない 心が痛み傷ついても きみはもう一人じゃないんだ…』音楽評論家萩原健太さんと、湯浅学さんのこの曲に関する会話が印象的だった。
「(60年代後半以降)ロイはショー・ビジネスの大波に苦しみ、十分な活躍の場に立てなかった。その上、事故で奥さんを、更に火事で息子を二人も失った。自分は心臓を患い、開胸手術まで受けている。誰もが最上級の尊敬をささげるロイも、ずっと苦しい時期を生き、過酷な運命と戦ってきたんだよね。
そのロイが人生最後で最高の仲間を得て、彼らの助けとともに『もう一人じゃない』って歌っている。最後の最後に、ウィルベリーの仲間達と最高の歌声で『もう一人じゃない』って…。ウィルベリーの仲間たちが『俺たちがいるじゃないっすか!』って言ってくれているみたいに聞こえる。ロイの人生って本当に幸せのうちに最後を迎えたんだと思う。」
私もまったく同感で、それを思うと涙無しにはこの曲を聴くことは出来ない。
6. Congratulations
ディランのかったるそうなヴォーカルが印象的な、一曲。全員で録音したコーラスも「美しいのに、かったるそう」という、妙な楽しさが良い。エンディングにおけるジョージのスライドが秀逸。
ジョージの追悼コンサートで"Handle with care"が歌われるまでは、唯一ライブで披露されたうウィルベリーズ・ナンバーだった。ほかならぬ、ディランが自分のライブで歌ったのだ。仏頂面だけど、ウィルベリーズを心から楽しんだディランの心情が垣間見える。
7. Heading for the Light
曲調一転して、ジョージの軽快なポップソング。ジェフのプロデュース技術が冴え渡っている。『履き古した靴で、おなじハイウェイを歩いていく 新しいもの以外は目にははいらないし 妙な気分もするけれど 僕はひたすら光向かって進んでいく…』
求めるのは、癒しでも慰めでもなく、ただひたすら顔をあげて光に向かって行くんだ ― まるでウィルベリーズそのもののようなメッセージが嬉しい。ちょっと泣ける。
8. Margarita
アコースティックを基調にしたウィルベリー楽曲の中で、ひときわ電子音が目立つ曲。元ELO,ジェフの面目躍如というところだが、意外に電子音がしつこくないところが良い。しかもディランの面倒くさそうな凄みのあるヴォーカルが効いており、最後にもの寂しげなトムのつぶやきが素晴らしい。
9. Tweeter and the Monkey Man
ジョージによると、「トゥイーター&モンキーマン」とは、ディランとトムのことらしい(どっちがどっちだ?トゥイーターはモンキーマンを盾にして逃げるんでしょ?)。
二人が取りとめも無く話していた内容をカセットテープに録音し、ディランが歌におこした。
二人の麻薬密売人と、そのガールフレンド、その兄である刑事の物語。ディラン節が炸裂し、聴く者の心をわし掴みにして放さない。ちなみにガールフレンドの名前が訳詞では「ジャン」になっているが、恐らく「ジェイン」だろう…
10. End of the Line
「エンド・オブ・ザ・ライン」とは、電話線の向こう側,この道の行く先,汽車の終着点,人と人との繋がり,ひいては、ジョージによれば輪廻転生をも意味する深い歌。それを明るく美しいポップソングにしている。
『大丈夫さ 風に吹かれて 自分の人生を生きる きっと大丈夫さ ぼくらは『エンド・オブ・ザ・ライン』にむかっているんだ…』ウィルベリーズお得意のメイン・ヴォーカル回しがとても素敵。ビデオを見ると、さらに感慨深いこの曲で、アルバムは終わっている。
11. Maxine
今回のアルバム再販に際して、新たにボーナス・トラックが加えられた。この曲は未発表音源の一つで、Volume 3のアウト・テイク。ディランっぽい三拍子の曲がトムのカウントで始まり、ジョージがメイン・ヴォーカルを担当。念入りなギターの重なりと、美しいコーラス、小粋なハンド・クラッピングが心地良い。
12. Like a Ship
これも未発表音源からのボーナス・トラック。いかにもディラン節といった曲に、美しいコーラスが重なる。とても詩的な比喩表現が素晴らしい。
アルバム:ヴォリューム・スリー / Volume Three
1. She's My Baby
復活したウィルベリーズ一発目は、元気一杯のハード・ロック。リード・ギターは、スキッド・ロウのゲイリー・ムーア。
『俺のベイビーは最高 プディングは旨いし 電車も飛行機も運転できちゃう ボートを作れば浮かぶし ギターも音符どおり弾き 俺の喉に舌を突っ込んでくるんだぜ…』
こんなアホ・ラブソングを、超大物たちが古風なロックスタイルで交互にシャウトする光景が凄い。
2. Inside Out
『世の中、ちょっとおかしくないかい?』という警告を、おちゃめに歌うお気楽ソング。強烈なディランのヴォーカルに、ジェフ,トムが絶妙なハーモニーをつける。
3. If You Belonged to Me
ディランのヴォーカルとハーモニカを堪能できる一曲。ウィルベリーズは豪腕の彼女に振り回される事が多いようで…『ロデオを見に行こうって きみは言う カウボーイが振り落とされるところが見たいとか 僕は時々思うんだけど きみには同情心ってものがないんじゃないかな』…
4. The Devil's Been Busy
『誰もが何の気なしに過ごしている間に あんたの裏庭で悪魔が跋扈しいるぜ』という、警告に満ちた曲。ジョージお得意のシタールが聞けるのが嬉しい。
5. 7 Deadly Sins
「セブン・セブン・セブン…」とコーラスした途端に、ディランが思いっきり『落とす』展開に、ウィルベリーズも大爆笑したとか。日本人にとっては『ウルトラセブンのテーマ』とかぶり、別の意味で笑える。失恋ソングに七つの大罪を掛けている。
6. Poor House
トムとジェフのツイン・ヴォーカルが歌う、頑張って働いたのに身ぐるみ剥がされ、救護院に放り込まれる哀れな男の話。トムの「ああ、なんてこった!」という合いの手が冴えている。
7. Where Were You Last Night
少々パラノイア気味の男が、彼女に夕べの居場所をしつこく尋ねる歌。だんだん言うことが無茶になってきて、「先週は?」とか「去年は?」などと言い出す。こりゃたしかにPoor House送りかもしれない…
8. Cool Dry Place
『朝起きたら部屋がめちゃくちゃで どうしようかと弁護士に相談したら 医者に紹介されて 医者がきみを紹介した』…という災難の歌。とにかく歌詞が最高で、それを淡々と歌うトムのヴォーカルが素晴らしい。特にありったけの楽器が、めちゃめちゃになっている様を歌うところが良い。しまいには『ハミングもあるよ』と言い出す。これはメンバーそれぞれの自宅や、スタジオそのものの描写だろう。
訳詞に『がっしりしたものから、アコースティックまで』とあるが、solids and acousticsとは、「ソリッド・ボディのエレキと、ホロー・ボディのアコギ」という意味。また、『怠け者集団』という個所の原語は、the idle race。 『怠け者集団』でも間違いではないが、The Idle Raceとはジェフが昔所属していたバンドの名前であることに、留意するべきだろう。
結局、全てを片付けるために、1ブロック分のビルを買わされたこの男。締めの台詞はいつも「涼しくて風通しの良い所に保管してください」。私の好きな曲の一つである。
9. New Blue Moon
終始ゴキゲンなアップテンポ・ナンバーで、「ウィルベリーズの中で一番好きな曲」に挙げる人も多い。特にディランの"Yeah hoo woo hoo!"は凄い。こんなはっちゃけたディランは、他では決して聞く事が出来ない(しかも2回!)。仏頂面だけど、実は心から楽しんでいるディランの様子が伝わる曲でもある。
10. You Took My Breath Away
陽気なジョーク満載の曲が多い「ヴォリューム・スリー」の中で、唯一と言って良い純粋なラブソング。"Handle with care"のモチーフをゆったりと流しているあたりが、ニクイ演出。メロディはジョージの曲っぽい穏やかさと艶やかさがあり、それをトムが切なげに歌っている。
トムの歌い方はディランやミック・ジャガーに近いと良く言われるが、実はジョージっぽさも多分に持っていることを証明している。
今になって聞いてみると、死んだジョージへのトムの思いのように聞こえて、ちょっと悲しい。
11. Wilbury Twist
『みんなこの話題でもちきり 前代未聞のウィルベリー・ツイスト お買い物リストに載せておこう みんな夢中さウィルベリー・ツイスト!』アルバムの最後は、にぎやかで元気で、ぶっ飛んでしまったロック・ナンバーで締めてくれた。
インナーには、ご丁寧に『ウィルベリー・ツイストの踊り方』まで解説してある。まず片手を頭に、片足を上げて…ジョージ,ジェフ,トムがインタビューでダンスをちょっとだけ披露したこともある。
四人がそれぞれに持ち味を発揮したリード・ヴォーカルに、イカしたコーラス、最後は「みなさん、大丈夫ですか?!」と心配したくなるような、シャウトで決めてくれた。
12. Nobody's Child
ここから、アルバム未収録の音源がボーナス・トラックとして加えられた。この曲は古いスタンダード・ナンバーで、リンゴ・スターが子供時代の十八番にしていた。
録音は1990年。ジョージの妻オリヴィアが発起人になった、ルーマニア孤児救済キャンペーンのアルバムに収録。ウィルベリーズ再結成のきっかけとなった。ビデオは今回のDVDには収録されなかったが、子供が描いた(と思わせる)メンバーのイラストが可愛かった。もっとも、個人識別可能なのは、金髪のトムだけだが…
13. Runaway
「ヴォリューム 2を一緒に録音したのでは?!」と噂されるほど、ウィルベリー兄弟とは縁の深かった、デル・シャノンの代表曲のカバー。ジェフがオタク心とファン熱を存分に発揮している。もともとは"She's my baby"の12インチシングルのB面に収録されており、ソロ・パートがだいぶ変わっている。
スピード感満点にロックンロールをぶちかまして、ウィルベリーズはまた旅立っていった…
ミュージック・ビデオ
1.Handle with Care
土ぼこりを巻き上げて、奇妙な荷物を満載したオンボロ・トラックがやってくる。そして日の差す倉庫に入ってきた5人の男 ― そう、これぞ伝説のウィルベリー兄弟!
何といっても、柔らかで穏やかな空気が、居心地の良いバンドの雰囲気を良く伝えている。最初に5人のシルエットが倉庫に入ってくるところを見ただけで、鳥肌が立つほど美しい。
まずメイン・ヴォーカルを取るジョージは、ジーパンにTシャツ,白っぽくて着古したコート。髪型もばっちりきまって(時々信じられないくらいハズすのだ)、耳には小さなピアス。ウィルベリーズ仕様のグレッチを弾くその表情は、穏やかで幸せ一杯の笑顔。
続いて美声を轟かすロイ。黒いスーツに赤いシャツ、十字のチョーカーがとてもおしゃれ。動きを抑えたギター・ストロークで、尚いっそう美しい声が引き立つ(ギターはギブスンかな?)。
次に飛び込んでくるのは、ボブとトムのコンビ。ボブはいつものように傍若無人に頭髪をバクハツさせ、仏頂面だけど、12弦(たぶんマーチン)を弾く腰の入り方が半端ではなく、楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。白いシャツにジーパンというシンプルスタイルだけど、足元はヤボったい黒ブーツ!とどめに、華麗な自転車さばきも見せてくれた。
ビデオではベース(ボディはリッケンっぽいけど、ヘッドは違うような気が…)を担当する事の多いトムは、やはりジーパンにブラウンのジャケットを着こなし、金髪の上にイカした帽子。揺れるピアスが可愛く、兄貴たちに囲まれてとても幸せそう。
ジェフは黒いジーパンにサッパリとした白いシャツ、ベスト。なかなかスマートに決めて、リッケンのエレキ(600シリーズ)が格好良い。
ドラムを叩くのは、バスター・サイドベリーこと、ジム・ケルトナー。黙々と叩いているようだが、バンドのメンバーが彼に全幅の信頼を寄せていることが伝わってくる。パンダ・ドラマーはジムのお守りかな?
5人の男たちの友情と、尊敬の念が、これほど美しくまとまった映像もそうはあるまい。完全無欠の曲は、このビデオで更なる輝きを増した。本当に、本当に存在してくれて有難うと、心から思う。
ちなみに…このビデオにはメンバーそれぞれの子供時代の写真が登場するが、なぜディランの写真だけはかなり大人になってからの物なのか?
これは推測だが、1988年の時点ではまだ、ディランは自分の生い立ちが好きではなかったのだろう。この事は彼がデビューした時から言われている事だが…21世紀に入ってからは、自叙伝で自分のルーツに積極的に触れており、それほどのコンプレックスにはなっていないようだ。
2.End of the Line
このビデオが撮影されたのは、ロイの葬儀の翌日だった。トムは「少し悲しかった」と言っているが、でも同時に撮影を心から楽しんだようだ。ディランも「座って彼のことを話し合ったりはしなかった」と言っている。そう、ジョージが言うように、ロイはみんなの心の中に生きているのだから…
舞台は煙を吹き上げる汽車の貨物室。テーブルにはトランプ。狭い貨物室に、それぞれの場所を決めて、陽気に歌う四人。仲間の顔を見回しながら、穏やかな表情をしているディランが印象的。
そして窓際に陣取ったトムが、ちょっと切なげに歌うと、汽車はトンネルに入っていく。暗くなった車内に、ロイの美しい声が響く…揺れるロッキングチェアーには、ロイのギターが…
ふたたび、汽車は日の光の中を進んでいく。喜びも、悲しみもこの兄弟なら共有しながら、前に進んでいける。「そうさ、僕らはエンド・オブ・ザ・ラインに向かっているのさ…」
3.She's My Baby
旅の兄弟は、今度は土砂降りの中を車で到着。ガランとしたミュージック・ホールでは、まずはリハーサルから始めよう。
「ヴォリューム3」のビデオは、1990年に発表されたオリジナルに、多くの部分で変更が加えられている。出演者の権利問題が大きいが、"She's my baby"の場合は、もう一人のウィルベリー兄弟である、ジムの出番を増やしたように見える。この違いを見つけるのも、熱心なファンの楽しみどころ。
かわるがわる、マイクの前に進み出てヴォーカルを担当する兄弟たち。特にトムの綺麗な金髪と、ニヒルな表情が格好良い。ディランはヒゲに帽子をばっちりきめて、自転車キャラが板についている。ジェフは派手な色のシャツが妙に似合い、ジョージもこれまた派手なスーツできめている。
ロイの死という悲しい出来事があったことなんて、忘れさせるような陽気な力強さがみなぎっている一方、実はロイの存在を暗示すサインが隠されている。さぁ、あなたはステージに一瞬だけ登場する、ロイの人形を発見する事が出来るか?
4.Inside Out
いよいよ、ミュージック・ホールでの本番。ステージに並んで、かわるがわる歌っていく。
仏頂面のはずが、どんどん楽しくなって、笑い始めてしまうディラン。ジョージは二十代の頃よろしく、マイクからマイクへの移動に忙しい。ELOのジェフがディランのパートナーというのは意外な気がするが、これが絶妙にマッチするコーラス・ワーク。ディランも楽しそうにジェフの顔を見ている。
トムは馬鹿でかい帽子でキメて、奇天烈なジャケットもよく似合う。離れた場所に立ったディランとトムが、互いの顔を見ながらデュエットする様は最高に格好良い!
このビデオにも、ロイ・サインがあるが、これは見つけやすい。ジェフの後方においてある黄色いグレッチは、間違いなくロイを暗示しているのだろう。
ちなみに、1990年オリジナル・ビデオでは、最後に観客の拍手が入っていた。もっとも、たった一人の客の、おざなりな拍手だが…
5.Wilburys Twist
1990年オリジナル・ビデオと、もっとも違いの大きかったのがこの曲で、わざわざ「2007 Virsion」と銘打ってある。原因は、豪華な有名出演者だろう。彼らの権利問題を解決するのが困難で、「収録できないよりは、別バージョンで収録したほうがマシ」という大人の判断が働いた…と、私は推測する。
そんな中、ビデオ冒頭では着替えをするジョン・キャンディ(故人)と、その執事エリック・アイドル(!)がちょっとだけ登場。そしてウィルベリーズの演奏シーンに移る。サックスを吹いているのは、ジョージ・ファンにはお馴染みの、ジム・ホーン。
なぜか髪を短くしたジョージ。メイン・ヴォーカルを撮っているショットが、なかったらしい(笑)。常にトムやディランとのツー・ショットで楽しそう。トムはいつもカメラ目線。ジェフはピアノとギター、一人二役が忙しい。ディランはスーツをバッチリ決めて、ブローチが格好良い。
それにしても、オリジナルを綺麗な映像で見られないのは、残念だ。様々な国の、様々な人種が入り乱れて踊りまくる様は迫力があったし、全体にちりばめられたジョークも楽しかった。特に、「窓の外で演奏するウィルベリーズ。ただし、ディランは何もしていない!」ショットは最高。
いつの日か、すべての問題をクリアして、オリジナルをDVDで見られる日がくる事を祈っている。
ドキュメンタリー:「トゥルー・ヒストリー・オブ・トラベリング・ウィルベリーズ」
ウィルベリーズのレコーディング中、ジョージがハンディ・カメラを持ち込んで撮影していたメンバーの様子や、インタビュー映像、そしてプロモーション・ビデオのオフ・テイクなどで構成された、豪華な25分。主に「ヴォリューム・ワン」製作時を追っている。
しかし、ここで一つ『ひねり』が加わる。レコーディング風景の中に、「ヴォリューム・スリー」製作時の映像が入り込んでいるのである。これは中々トリッキー。ディランの髭や、ジェフのTシャツなどで、どのシーンが「3」の様子なのか、見分けるのもマニアならではの楽しみだ。
やはり圧巻は、5人の大物ミュージシャンがまさに『夏合宿状態』で、アルバム製作を進める様子だ。カメラにむかって「おはよう~」なんて、合宿そのもの。キッチンで、リビングで、録音ブースで、リラックスしながら音楽を作っていく過程が、その楽しい雰囲気と共に伝わってくる。
ロイはいつも微笑みながら静かに「君臨」していて、弟達がその歌声に、存在に聞き惚れている感じ。"Dirty World"で歌詞をどうして言い間違えてしまい、大笑いされるところが微笑ましい。しかも時間を置いても、まだネタにされている。
ディランはラフな恰好で、ソファに寝そべりながら詞を練っていた様子が印象的。そして、録音ブースでヴォーカルを吹き込む様子はかなり貴重。録音を止めて、「どう?」と尋ねるところなどもある。フォトセッションや、ビデオ撮影の合間に、楽しそうな表情を見せてくれるのが嬉しい。特に、"End of the Line"の撮影の合間で、ドラムを叩いているのにはびっくり!
ジョージはバンドのリーダーらしく、いつもノリノリ。まるで少年のような表情で、メンバー達を見回しているのは印象的だ。特に、"Handle with Care"ビデオ・オフテイクの表情が良い。彼はメンバーの友情を守るために、しっかり気を遣っていたのだという。そんな気遣いも、彼にとっては幸せなのだと言うことが、笑顔から読み取れる。
ジェフはプロデューサーとして、コントロール・ブースに陣取る姿が格好良い。しかも、多くのプロデューサーとは違い、ノリノリでいつまでも付き合ってくれるし、なんと言ってもウィルベリーズの良さを的確に把握している姿勢が分かる。イギリスへ渡る飛行機内の表情に、仕事を楽しんでいる様子が見て取れる。
トムは、本当に若い。カメラに向かってウィンクしたり、ビール瓶片手に乾杯してみせる姿が可愛くて、彼のバンドにおける位置をよく表している。天才ディランの前で気楽そうに作詞メモに精を出し、兄貴達と楽しくギターを弾き、録音ブースで「クソ、間違えた!」なんて言う姿は、まさに「僕の一生の中で一番幸せな時期」と表現するにふさわしい。色々なところに出てくるポラロイド・カメラを持ち込んだのは、トムらしい。
演奏シーンでは、やはり録音ブースに5人一緒に、一つのマイクに向かう姿が、素晴らしい。また、"Milk Cow Blues"や、"Ghost Rider in the sky"を演奏する様子など、音楽ファンにはたまらないシーンが続く。
ロイの死を迎えるところでは、少し悲しい気持ちにならざるを得ない。亡くなる少し前に、トムと電話で話したという話には、涙を誘われる。
一方、ジョージの死については、触れられていない。
ウィルベリーズは4人になっても、また楽しく音楽をやりながら、旅に出た…そんな余韻と共に、ジョージのコメントがラストを締める。このしっとりとした終わり方も、味わい深かった。
→ Part 1 :ウィルベリーズ基本情報
→ Part 2 :更なる豊かなウィルベリーズ・ワールドについて
→ Part 4:図解 異常に偏りのあるウィルベリー兄弟列伝 (総天然色)
ボブ・ディラン自伝より
「ロイ・オービソンは、あらゆるジャンルを超越していた ― フォーク、カントリー、ロックンロール、そのほかの何もかもを超えていた。
さまざまなスタイルを、いまだ発見されていないものまで含めて混ぜ合わせていた。ロイには、意地悪くて恐ろしい声を出しておいて、つぎの箇所ではフランキー・ヴァリなみのファルセットで歌うという芸当ができた。
ロイにかかるとマリアッチを聞いているのか、オペラを聴いているのかわからなくなる。
彼はいつも聞く者たちの注意を引きつけた。
歌は彼にとって血と脂肪、すなわち神への捧げ物だった。
彼はまるでオリンポスの山頂に立ったかのように歌い、本気でそれをやっていた。」(2005年 菅野ヘッケル訳)
87年10月 ディランとトムのジョイント・ライブは、最終公演地イギリスへ
その楽屋に、ジョージがジェフを伴ってやってきた。
ジェフ:「はじめまして。」
ディラン:「日本で会ったでしょ。」(78年のことを覚えていたらしい)
ジョージ、初めて会った(ジョージはそう思っていた)トムをとっ捕まえてのコメント。
「ね、これからのぼくの人生、きみ無しにはありえないよ!You know, I'm not going to let you out of my life now,」
ジョージ、そういう台詞は普通、妙齢の女性に言うものですよ。
トム曰く「ヒンドゥー教では、本当に親密な,重要な誰かに出会うという事は、前世でもやっぱり出会っていたと考える。
それがまさにジョージだった。僕らは会ったとたん、すぐに仲良しになれた。本当に速攻で親友になったんだ。」
0 件のコメント:
コメントを投稿