チューもく!!東映テレビドラマLEGACY 第2回『森村誠一の殺意の重奏』
文/伊東叶多
先月よりスタートさせていただきましたコラム「東映テレビドラマLEGACY」。第2回となる今回は、『土曜ワイド劇場』(77~17年)における初の田村正和主演作品『森村誠一の殺意の重奏』をご紹介します。
『土曜ワイド劇場』は、日本のテレビ界における長時間ドラマ枠の先駆け。この枠の成功により、1980年代はそれこそ毎日のように「2時間サスペンス」が放送されるようになりました。ただし『土ワイ』については最初から2時間枠だったわけではありません。番組がスタートした1977年7月から1979年3月まで、2年足らずの間だけは90分枠だったのです。今回、ご紹介する『殺意の重奏』も、そんな時代の作品。放送年月日は1978年5月27日でした。田村正和は当時34歳。当時は主演時代劇『若さま侍捕物帳』もオンエア中でしたが、この作品では、会社での出世のために、野心を隠そうともしないギラギラした男を演じています。
大手商社の経理課に勤務する三宅明(田村正和)は、ある夜、佐野課長(天田俊明)からの指示で、同期で係長を務める秋本(長谷川明男)に電話をかけ、「明日は早めに出社するように」と伝えました。どうやら、課長と秋本は何か問題を抱えているようです。
ところが翌日、秋本は早く出社するどころか、無断で遅刻。電話もつながらないため、三宅が秋本の住むアパートへ様子を見に行くことになりました。
すると――なんと秋本は自宅で死んでいました。死因は青酸化合物による中毒死。自殺か他殺かも含め、警察の捜査が開始されます。やがて、秋本の業務上横領容疑が発覚。秋本の単独犯行ではありましたが、上司の佐野も責任を取らされて左遷。そのため課長、係長のポストが空き、三宅の係長昇進が決定しました。さらに三宅は、秘書課の立花弓子(多岐川裕美)とも結婚。まさに前途洋々といった状況でしたが、警察は秋本にライバル意識を抱いていた三宅に着目し、「秋本が死んで最も得をした人物」として、彼をひそかにマークし始めました。
そして事件から約1年が経ったころ、捜査は意外な形で進展を見せるのでした。
この『殺意の重奏』、ドラマ版では原作の骨子を活かしつつも大きな改変が加えられており、「誰が犯人なのか」というサスペンスが終盤まで持続する形となっています。タイトルの"重奏"の意味も、この改変によって、より深まったように感じました。
さて、あらすじに記した面々のほかにも、豪華なキャストが顔を揃えています。中でも、特筆したいのがベテラン刑事役で登場している小池朝雄。その役作りはまさに、小池が長年にわたって吹き替えを担当した"コロンボ"そのものなのですが、当時は本作に限らず時折このようなパロディ的な刑事役を演じていました。そして小池と同じく名バイプレーヤーとして知られた成田三樹夫(50代の若さで世を去ったのも小池と同じ!)も出演。ただしこちらは1シーンのみでした。なんとも贅沢ですね。
また、東映特撮ヒーロー作品のファンにおなじみのキャストも。小池朝雄とコンビを組む若手刑事役は、『仮面ライダー』(71~73年)のFBI捜査官・滝和也や『ロボット刑事』(73年)の新條刑事などを演じた矢吹二朗(千葉治郎)。三宅に想いを寄せるあまり、意外な行動に出て捜査陣を困惑させる女性社員を演じたのは『ザ・カゲスター』(76年)のベルスター役だった早川絵美です。さらに、「下着泥棒で逮捕される予備校生」という役どころで、後に『電子戦隊デンジマン』(80~81年)のデンジイエロー役となる津山栄一(本作では本名の「三木豊」名義で出演)も登場。全く本筋に関係のない人物かと思いきや……詳細は本編でご確認ください。
クライマックスで次第に明らかになっていく、いくつもの悲しい真実。この時代の「テレビ映画」の良さは、説明過多にならず、最低限の表現で、あとは「視聴者に想像させる」というスタンスを採っているところ。逆に言えば、それだけ監督に演出力があり、また役者の演技力にも「信頼」が置けたという証明でもあると思います。視聴者に気を遣いすぎるあまり、なんでもかんでも「分かりやすく」見せるという近年(に限りませんが)の風潮は、それはそれで手間のかかることではあるでしょうけど、時に「そこまでしなくても」と感じてしまうのは、贅沢なことなのでしょうか……。
それでは、また次回へ。なお4月の「違いのわかるサスペンス劇場」では、本作のほか、1983年に『火曜サスペンス劇場』で放送された「青い幸福」(原作:平岩弓枝/主演:新珠三千代、岡田裕介)も放送されます。どうぞ、ご期待ください!
<放送日時>
『森村誠一の殺意の重奏』
4月6日(土)13:00~
4月20日(土)13:00~
4月30日(火)13:30~
『青い幸福』
4月3日(水)24:00~
4月13日(土)13:00~
4月27日(土)13:00~
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