2025年2月20日木曜日

みんなのドラマレビュー!:悪魔が来りて笛を吹く

みんなのドラマレビュー!:悪魔が来りて笛を吹く

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 稲垣版「悪魔が来たりて笛を吹く」は、かなり微妙でした。
 一言で言えば、ある意味で原作に忠実な、現代風にアレンジした千恵蔵版金田一シリーズの復活であると言えます。千恵蔵金田一シリーズは、原作とは犯人を変えてあり、原作とはほど遠い印象を持たれていますが、{探偵小説の精神」を最も忠実に表現している作品群です。
 市川版「犬神家の一族」以降は、むしろ、「探偵映画」を「文芸大作」化してしまうことで、犯人の側に立った「かわいそうな犯人像」を表現することが当たり前のようになってしまい「探偵小説」を「純文学」にしてしまっています。
 それは、松本清張の提唱した犯人の動機を描くことを中心とした「社会派推理小説」の洗礼を受けたあとの「本格推理小説」の復活ですから、当然といえば当然で、以前のように、善人づらをしていて、探偵が追い詰めるといきなり正体を現し、ピストルをぶっ放し、悪人に変わってしまうというパターンではちゃちに見えてしまうでしょう。
 で、原作「悪魔が来たりて笛を吹く」ですが、この作品を探偵小説としてみた場合、メイントリックがなく、犯人あてにしても、探偵が過去を調べると簡単に犯人が判明してしまい、謎解きの面白さに欠ける作品だと言えます。
 もともとは、フルートの曲に秘められた謎がメイントリックになるはずで、その布石として、譜面を用意しようとしていたらしいのですが、作者のあるミスでそれができなくなったため、大技なしの小技で固めた作品になってしまったようです。
 探偵小説として楽しむには、犯行動機が深刻すぎる上、口封じ目的の殺人が多く、天銀堂事件の真相もちゃちで、メインの犯行には直接関わっておらず、ハッタリにしかなっていません。反抗動機が個人的な○○であるならば、共犯を持つことは考えられず、共犯者がなぜ協力するのかも理解できません。
 立場的にはどっこいどっこいなはずですので。
 原作「悪魔が来たりて笛を吹く」を支持する人たちによれば、社会的事件に見える話が実は、全く対極のところに落ち着くところに魅力があるのだそうです。それって、本格推理小説の面白さじゃなくて、スリラー的面白さだと思うんですが。
 ドラマ化の際、この作品に欠けているメイントリックに変わる「中心核」を見つけようとすれば、犯人を悪魔にしてしまった人とその罪と犯人の関係がメインになるはずです。そのキーパーソンがあき子夫人になるわけで、さらに利彦、それを知っている人達、それを見極めようとする美禰子という対立構造さらに、椿、新宮家を覆う暗い影(=「斜陽」的スキャンダル)という全体像になるはずです。
 だとすると、前半は目先の謎を追うスリラーで後半が犯人の大演説という構造になり、犯人あて、メイントリックは、サブストーリーになります。
 過去に映像化された横溝正史シリーズ版、東映(西田金田一)版も、おおよそそのような流れを押さえた上で、原作とは違ったあき子夫人の主張をクライマックスに用意しており、それが見せ場になっています。それは、「探偵小説」(=原作の面白さ)を表現したものではなく、愛憎劇というドラマの面白さを追求したものです。
 それらと比較すれば稲垣版「悪魔が来たりて笛を吹く」は、密室トリック、タイプライター、ウィルヘルムマイステルを省略してあるとはいえ、フルートの曲に何かありそうだということは、伏線を張っており原作のトリックを重要視しています。西田金田一版では、全く無視されていました。このトリックをも最も重要視していたのは、おそらく、鶴太郎版の次に評価が古谷二時間版です。
 このように、原作における「メイントリック」に関する解釈は大きく分かれています。
 A=X、B=X、A=Bに関するトリックに関しては、今までの映像化作品の中で最も原作に忠実でした。
 稲垣版はよくも悪くも原作に忠実で、過去の作品における「あき子夫人」のような人物の掘り下げをしていません。原作に忠実に天銀堂事件と椿子爵の死の真相と犯人の動機と同じウェイトで描いています。
 ドラマとして、薄っぺらい印象になるのも当然のことだと言えるでしょう。
 繰り返し書きますが、それは原作に忠実なためで、稲垣版「悪魔が来たりて笛を吹く」が面白くないとするなら、それは原作の欠点をそのまま表現したのが第一の原因だということが言えます。
 原作に忠実か否かを、優劣のものさしとするなら、稲垣版は、サブトリックをかなり省略しているとはいえ、今までの映像化された「悪魔が来たりて笛を吹く」の中では、最も優れていると言えるでしょう。
 稲垣版「悪魔が来たりて笛を吹く」に関して批判的な意見が多いため、あえて弁護する方向で書いてみましたが、最終的な私の評価はやはり「微妙だ」という意見に落ち着きます。
 蛇足。
 原作「悪魔が来たりて笛を吹く」が「斜陽」だとするなら今回の「悪魔が来たりて笛を吹く」には「人間失格」というテーマが隠れていました。
 

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